8-3 行ったり来たり
8-3 行ったり来たり
警察署の取り調べ室。
「なんであの場所で裸になっていたのかな?」
取り調べ官からの質問。
「おいらは服を着たことがないんだ」と三弥栄が答える。
質問が続く。
「では、なぜカーテンを引きちぎって纏って逃げたんだ」
「カーテン?そんなことおいらはしないよ。ちぎってどうすんだい?」
黙秘していた人物が突然口を開いたかとおもったら、答えが噛み合わない。取り調べ官は2名。ベテランと新人。バディで三弥栄を詰める。
ベテランの経験則から勘が知らせる。
こいつは「イレギュラー」だと。
「名前は?」
「まだない」
「住所は?」
「さっき産まれたばかり」
「職業は?」
「弟」
「年齢は?」
「2時間くらい」
「…」
一時取り調べはストップした。
ベテランと新人は部屋を出て打ち合わせる。
「多重人格だ、あれは」
取り調べ官は別の鑑定(精神)が必要だと思い始めている。
ぬいぐるみはまだ自分と三弥栄の中身が入れ替わったことに気がついていない。よく分かっていない。何も分かっていない。産まれたてだから。産まれたてで虎太郎に襲いかかったのは、三弥栄の感情にSS消滅に対する動揺と、それを引き起こした虎太郎に対する憤りがあり、その衝動で目を覚まして動いたから。ぬいぐるみはまだ存在が安定していない。
観測実験室。
取り調べ室がややこしいことになっているのを知ってか知らずか、三弥栄は改めて虎太郎に早く弁護士を付けて手を打たないと話がややこしくなると伝えた。
「ご安心下さい。優秀なのがごぜます。こっから先の法務手続きはおそらく、身元記録の無い三弥栄君の身元を保証した上で保釈を目指す感じですな。ただ、事情が事情なので説明してから手続きに入らないと…」虎太郎はそう言って龍美に弁護士への連絡をお願いする。
龍美はその場すぐ端末で連絡を行う。
「ハリー?今大丈夫?、そう龍美。うん少しややこしい話があって、時間取れる?うん、そう。うん、何時でもいいけど、なるはやが…、うん。分かった事務所へ行けばよい?うん、ありがとう。それじゃ後で」
電話を切った龍美が虎太郎と三弥栄に伝える。「弁護士と今夜、20時のアポが取れた」
伝えながら龍美は、今そこにあるぬいぐるみの中身は逮捕された三弥栄で、実体は警察で取り調べを受けているのかと、まだ見ぬ三弥栄本体への想像を膨らませる。
時刻は昼の12時。かなり時間がある。
一旦、ぬいぐるみの中の三弥栄は三弥栄本体に戻った方が良さそうである。
ぬいぐるみ化からの帰還が必要。
三弥栄はどうやってぬいぐるみ化したのか思いだす。
瞳を閉じて三弥栄を願う。
「もどりたいなぁ、もどりたいなぁ、もどりたいなぁ、戻らないと、やばいなぁ、やばいなぁ、やばいなぁ」
目を開けると、そこは取り調べ室であった。
これも、よく考えれば割とやばい能力。行ったり来たりがこんな簡単でよいのか、三弥栄は戸惑う。ただ、三弥栄は相互に「入れ替わっている」ことを知らない。取り調べ官の言う「多重人格」はあながち外れではない。まあまあ「正解」である。
一方、ぬいぐるみに戻ったぬいぐるみが観測実験室で虎太郎と龍美に聞く。「ねえねえ、2人はおいらになんか質問しないの?」勘の良い虎太郎と龍美は「こいつ(ぬいぐるみ)は三弥栄と入れ替わって取り調べを受けている」と察し、ややこしいことになっていると思った。
そして、弁護士との打ち合わせまで、やること満載のスケジュールの中、三弥栄の毛髪と、ぬいぐるみの毛を採取していた虎太郎が、隙間時間を使って遺伝子解析を依頼しようと問い合わせたが、採取した三弥栄の毛に毛根がなく、本数も少ないことから、それでは難しいと断られていた。




