7-4 途方
7-4 途方
呼び出し音が鳴る。虎太郎の端末のようだ。摘むぬいぐるみを三弥栄に渡して、空いた片手で呼び出しに応答する。
しばらく相槌を打ってからさらに、「はーい、はい、はーい、ありがとう、おつかれさまです、はーい、あーい、しつれいしまーす、はーい」と言って通話を切る。
「三弥栄さん、龍美が観測者となったみたいです」
虎太郎が告げる。
「この研究観測は私と龍美が行っています。研究室にいるどちらかが決められた時間に観測を行う。この本によれば、龍美は今日、研究所に来ていないはずなのですが、本来私が行ったはずの観測装置起動を龍美が同じタイミングで行ったようです」そう虎太郎が説明する。補足すると、龍美が研究所に来ている事情はこうである。今日、龍美は出勤の際に1つ、信号を無理して渡るのを止めた。消滅した世界の龍美はこの信号を小走りで渡った。渡ったことでその先、出勤の途中で起きる交通事故を目撃して警察救急への通報者となっていた。今回、渡らなかったことで乗る電車がずれて、起きた事故を横目に、足を止めることなく出勤していた。
三弥栄とみちゅえるとぬいぐるみが「来た」ことで僅かな因果律の歪みが発生している。結果として虎太郎が行った観測を龍美が行ってしまった。つまり、三弥栄が生体時間転移で来たこの世界でも真空消滅の発生を止められなかったことになる。失敗である。
そうこうしているうちに通報を受けた警察が三弥栄に事情を聴きに来たようだ。
ぬいぐるみは三弥栄に対し「兄貴、こいつらやっちまいましょう」を連呼している。
みちゅえるが「そろそろ家に帰ろうかしら」と言ってどこかへ出て行った。
一転、三弥栄は途方に暮れる。
とりあえず、ぬいぐるみは故障したAIロボットとして警察に紹介した。
ぬいぐるみを博士に渡して、三弥栄は一旦、変質者の疑義から警察での任意事情聴取へとパトカーに乗って向かう。
「ややこしくなるから、黙秘して下さい。弁護士を向かわせます」虎太郎が三弥栄の耳元で呟く。
三弥栄を乗せたパトカーが出車した。




