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2-1 使節、管理室

2-1 使節、管理室


三弥栄は眉をすぼめたが、所長は構わず続けた。


「そうだな、その顔になるのもわかる。ただな、そういう話とも少し違う」


所長は、三弥栄の考えを察したように言葉を継ぐ。


「あれは幽霊じゃない。別世界の人間だ」


三弥栄は首をすくめ、肩を上げる。


「幽霊ってのは、死んだ人間の魂とかだろ? お前が会ったのは、別世界で生活する人間だ」


――突拍子もない。

三弥栄は堪らず口を挟む。


「内容がまともじゃないですよ」


どう聞けばいいのかわからない三弥栄に、所長は説明を諦め、確認に切り替えた。


「説明は無理だ。……施設管理部に13時、だったな?」


「はい、13時と言ってました」


「そうか。今が9時20分……あと4時間くらいだな。先に場所を案内する。行くぞ」


さっき、「施設管理部は無い」と言ったはずだ――。


所長は隊長に耳打ちし、三弥栄を連れてセキュリティセンターを出た。


移動の途中、所長がふと思い出したように尋ねる。


「そうだ、智川さんは最初になんて声をかけてきた?」


「肩をたたかれて、振り向いたら“施設管理部の智川”って名乗られました」


「肩をたたかれて……へぇ。肩をたたかれて?」


「はい、ぽんぽんと二回。振り向いたら、うんこ踏んでる女性がいて、自己紹介されました」


「肩をたたかれて……ねぇ」


そんなやり取りのあと、案内されたのは地下4階――高電受電設備室の隣だった。

扉には「使節管理部」と大きめのテプラが雑に貼ってある。


施設管理部と聞こえていたのは、「使節」管理部だったようだ。


――無いわけじゃないじゃん。

三弥栄はそう思った。


所長が鍵で扉を開ける。普段は施錠されているようだ。

中は暗く、照明もない。ハンドライトで照らすと、コンクリ打ちっぱなしの十畳ほどの空き部屋が現れた。


「何もないだろ? 13時にここへ来れば、向こうに繋がるはずだ。今は意味がわからないかもしれないが、実際に見ればわかる。あと3時間半、お前には研修を受けてもらう。セキュリティセンターに戻れば、講師が到着しているはずだ」


――空っぽの部屋に行く前に研修?

そもそも「13時に繋がる」とは何なのか?

結局、説明は足りない。所長は時間に追われているのか、情報を小出しにしてくる。


防災センターに戻る途中、所長がぽつりと声をかけた。


「しっかり研修を受けて、生きて戻ってこいよな」


「……生きて?」


「ん?」


「え?」


「ん?」


互いに顔を見合わせたあと、所長が言う。


「詳しくはこのあとの研修で説明がある。ここまで訳がわからないかもしれんが、かなり特別な事態に突入する。どうするかは、最後はお前の選択だ」


セキュリティセンターに戻ると、ヨボヨボの婆さんが、どこを見ているのかもわからぬ視線で、大声を張り上げていた。


「電話が遠くてねぇ! なかなか繋がらないのよ!」


「何度も電話したわよ、センセイ! 三回! ワタシ!」


三弥栄は、買い物客のクレームか、迷子の徘徊老人を保護したのだと思った。

だが所長は、その婆さんに声をかけた。


「人見さん、こちらが今日、向こうの使節官と遭遇した三弥栄君。ここに来て一週間。このあと13時にお迎えが来る予定だ。あと3時間半で出発するから、仕上げてくれ」


婆さんは、下からじとっと三弥栄を見上げた。


「こちら、一人目の講師――人見 瞳さんだ」


――いつの間に連れてきたのか。

ご高齢の女性を「講師」と紹介され、別世界人間の話よりも戸惑う三弥栄であった。

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