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5-4 消える世界

5-4 消える世界


「消えちゃうんです」

目を泳がせながら龍美が語る。


「何れにせよ、三弥栄さんを爆ぜ飛ばした後、この世界は気付かないまま消えてなくなります。あなたの言うループは起こらないから、もう消滅が確定したんです。」


トイレに行きたくなったらどうすんだってこととは違う話だが、切実さのレベルが違うので三弥栄は謹んで龍美の話に耳を傾ける。

「貴方(三弥栄)は別の世界から来た別の可能性。続く世界にすることが出来るかも知れない。ただ、それはまた別の世界。この世界ではないのです。」


「生体時間転移を行うという事は、世界の否定でごぜます」

虎太郎が話に加わる。

「全て消滅する世界だから行うのです。それ以外の理由で行うことがあってはならないのでごぜます。その時間に居なかった者や出来事を交ぜれば、それだけで世界は消えるのです。あなたの存在は存続の可能性を秘めた消滅なのです。現にここは消える。」


三弥栄は理解が及ばない。

「博士、よくわからないです」


虎太郎が続ける

「時間を超える理由が、未来を変えると言う理由ではいかんのです。例えば不慮の事故や犯罪や戦争に巻き込まれて愛する人の命を理不尽に失ってしまったとしても、時間を遡って救ってはならないのです。」


三弥栄「駄目だとしても、出来るのなら、大事な人を死なないようにしてしまう。そう思います。」


虎太郎「それは、別の命を奪います。確定した死を覆すことは、別の人が繋ぐ、別の命を奪うことになります。生まれてくる命を変え、登場人物を変えるのです。


三弥栄「そうかも知れないけど…」


虎太郎「物語や映画の中では、時間はいつも人の都合で曲がります。救われた命によって消された命のことは描かれない。現実は違います。誰かが消えれば、その消えた因果の上に新しい因果が乗るのです。その人だけでは収まらないのです。全ての出会いと因果が変わります。人の生死は後から選んではならないのです。受け止めなくてはならないのです。」


三弥栄「だとしたら今やろうとしているこれは?自分は何をしに行くのですか?」


虎太郎「今行っていることは、そう言うことなのです。ここまでループが続いたのは、否定の否定なのでしょう。起きてはならないことが起きて、起こしてはならないことを起こそうとしたから。でも、そのループから外れた。正に出来るようになったのです。目的は消滅しない可能性へのシフトです。」


龍美「その可能性に乗せたいのです。ここは消えるけど、消えないここを発生させます。」


虎太郎「3年前の観測の阻止は、観測から消滅までの3年の間に生まれてきた命と、生まれるはずだった命に影響を与えることになります。ただ、消えてなくなってしまえば元も子もありません。同じ子供に会えない親があるかも知れません。その業は私にごぜます。」


三弥栄「気が付かずに消えるなら、観測できない消滅なんて、妄想と等しくない?どうすんだよ、生まれてくる子供が違うって、そもそも本当に消滅するのかよ。」


龍美「こうしてあなたがここに居ることがそれを証明しています。」


虎太郎「そういうことでごぜますな。まあ、真空消滅が妄想だったなら、それに越したことはごぜません。空間を超えて三弥栄さんが来て、そっから時間を超えたんだか超えないんだかって言うことがそらもう凄いだけで。」


球体から頭を出したままでの問答。

身動きが取れないまま三弥栄は考える。

龍美の言う通り、自分はこうしてここに居る。そして消滅の不確定性。過去に行ったとしても未来は分からないまま。これは酷い不条理への理不尽な「祈り」だと。


みちゅえるは踊っている。

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