1-2 報告
1-2 報告
三弥栄の所属する警備会社は、駅直結型商業施設「エキナ」から委託を受け、警備業務を行っている。
通常、現場に出ている一警備員が、直接管理事務所へ呼び出され、警備内容の話をすることはない。
当然、三弥栄の警備会社にも役員・幹部職員・正社員がいて、施設内には司令所としてのセキュリティセンターがあり、その所長が指揮を執っている。
仕事の話を通すなら、まずはそこを通すのが筋だ。
――何故、声をかけてきたのか。
――何故、いなくなったのか。
形を留めたままの汚物の清掃を見届け、お客さま誘導を終えた三弥栄は、防災センターへ戻って報告を行った。
エキナ勤務を始めて、まだ一週間。
築50年の老朽化した9階建てビルの構造を、すべて把握できているとは言い難い。
だが、管理組織のおおまかな体系は掴んでいる。
少なくとも「施設管理部」という部署の存在など、聞いたことがなかった。
「途中、施設管理部の智川さんから、13時に施設管理室まで来てほしいと声をかけられました」
そう警備隊長に報告すると、隊長は眉を上げて尋ねた。
「智川さんと会ったのか?」
「ええ。突然後ろから来たんで、うんこ踏まれたかと思って焦りました。結局踏まれてなかったんだけど……すぐいなくなるし、なんだったんでしょうかね。危うく大惨事でしたよ(踏まれてたら)」
冗談めかして言うと、隊長は所長席に視線を送った。
判断を仰ぐ仕草だ。
「三弥栄、こっちへ来てくれ」
所長は話を聞いていたらしい。席の横へ呼び寄せ、促した。
「座ってくれ」
三弥栄が腰を下ろすと、所長は静かに言った。
「まずな、エキナには施設管理部って部署はない。当然、智川さんという女性も、ここにはいない」
――朝からオカルトだ。
三弥栄は怪しむ。
消えた智川と、踏まれていないうんこ――これを疑わないでいる方がおかしい。