5-2 智川 虎太郎(ともかわ とらたろう)
5-2 智川 虎太郎
智川虎太郎、49歳。科学技術者。
自らを“ワールドエンジニア”と称する彼が、ジ・エンド・オブ・ザ・ワールドを招く。
ことの発端は──「観測」。
虎太郎博士は、宇宙の深淵をのぞいてしまった。
エンコードされていた宇宙の全情報──創造、形成、バランス、渦巻く生命現象。
それを“観測”したことによって、現行の真空は偽と化す。
真の情報へと“上書き”される。存在の様式も、物理定数も塗り替えられ、存在そのものが赦されなくなる。
水の泡ではない。光の泡に、呑み込まれる。宇宙の全否定である。
この「観測」の発生は、確定した一点の観測ではない。
量子時間──確率の波の中で揺らぐ可能性。
いつ、どの状態で深淵を覗くかによって、波は形を変える。
虎太郎の観測は、彼を確率の波の山頂──その彼岸に立たせた。
“観測者”となった虎太郎。
三弥栄の任務は、この彼岸から虎太郎を離し、波形を崩すこと。
ほんの一瞬、波をずらせば、観測されない。
この偶発は虎太郎の人生において二度と訪れない。
その時、その場所を、その波に乗って「観測」しなければ、恒久的にその機会は失われる。
″あの時、ああしていなければ″
三弥栄は虎太郎に極わずかな影響による極わずかなズレを与えなくてはならない。
量子時間の波形を揺らして逸らすために。
「観測」から引き起こされた“真空消滅”。
虎太郎が宇宙の歪みから覗いた深淵に触れたことが、その発端なのである。
だが虎太郎は、同じように歪む宇宙の深淵に“エンコード”されていた、別宇宙・別世界との接続を見出し、それを自世界の時空に応用しようとした。
「真空消滅」への対抗。それが、使節者の選定であり、「天国への階段」による召喚、そして三弥栄がこれから行う“生体時間転移”へとつながる。
これで「観測」をなかったことにする。
智川虎太郎は、知りすぎた自分を取り消そうとしている。
それは、次元を交差して消滅に消滅を浴びせる、フラクタルな業。
3光年の先、すでに消滅は起こり、光速で広がっている。崩壊する宇宙は「大きさ」と「拡がり」の規模で言えば、「光速」で全てを崩壊させるとなると途方もない時間が必要になるのだが、虎太郎の世界には3年で訪れる。光速と同等で進むのであるならば、訪れたことすら分からないまま消える。光の泡に呑まれるということは、気付かないまま呑まれると言うことなのである。
「3年前に観測してるから、そろそろ3年経つし、もうすぐ確実に消えちゃうんだよね。気付くこともなく。」
虎太郎が三弥栄に告げる事実(気付かず消える)は軽くあって重かった。
「つまり、3光年先で起こった消滅が光の速さでこっちへ向かっていて、もうすぐ3年経つから、こちらの地球全部丸ごとこのまま気付かず消えるってことですか?もうすぐっていつですか?」
三弥栄は虎太郎を問い詰める。
「短めに見積もって、多分、到達まであと3日と踏んで動いた方が良いかな。時間がないので、三弥栄さんには今日はゆっくりして頂いて、明日からがんばってほしいでごぜます。」
既に3年が経過しようとしている。
「ギリギリじゃねぇか」
三弥栄から本音(突っ込み)が出た。




