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3-4 祈り
3-4 祈り
「人が水分も栄養も摂らずに階段を登り続けたら、いつ死ぬか」
──「今でしょ」
今際の際。
三弥栄は自問自答する。
スマートウォッチは15時30分を示す。
喉の乾き、頭痛、吐き気、痙攣。
脱水から多臓器不全(死因)に陥るまでのモラトリアム。
天国への階段に横たわり動かない三弥栄。
「やりすぎた。死ぬ」
か細く呟く。
意識がいつまで持つのか。
この死をどう受け止めるか。
三弥栄はその時を待つと同時に、半霊半物になって向こうへ行くことの意味を改めて考えた。
「迎えに来てもらわないかんのか」
行くのではなくて、迎えて貰う。
「天国だもんね。行こうとしたって行けるわけないや。勘違いしてた。なんか分かった気がする。」
失われて行く意識の中、死を目前に、命を他の世界と引き換えることで「人」として死ねると「安心」している。何も残すことのなかったはずの命が、残す世界。
もう、三弥栄の目に遠くの光は見えていない。
三弥栄はこう祈る。
「全然駄目だったけど、感謝します。」
未熟者が死を理性する。
「ありがとう。悪くない」
そう言って意識を失った。
遠くにあった光は、三弥栄を包んでいた。




