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記憶の水脈  作者: Patching a Poet
7/7

ひび割れた日常

 朝の光は静かに部屋の隅々へと染み渡り、白く薄れたカーテン越しに柔らかな影を落とす。

 私はいつものように目覚め、無意識にスマートフォンを手に取る。画面に映る通知の無機質な文字列は、どれも心を揺さぶる事はなかった。指先は滑るようにスクロールし、SNSの断片的な情報が断続的に脳内へと流れ込む。顔を洗い、鏡の前で身だしなみを整える。鏡に写る自分の姿はいつもと変わらずだが、どこか遠い存在のように思えた。電子レンジの小さな音がキッチンに響く。

 通勤経路は、鮮やかな色彩とざわめきに満ちていた。車の排気ガスの匂い、人々の足音、会話の断片だが、まるで私はその世界の中にいながら違う空間にいるかのように、周囲の音は薄く膜を通して聞こえるようだった。会社のデスクに腰をおろし、冷たいパソコンのキーを叩く。指先は日々のルーティンを淡々とこなす。隣の席の同僚が笑い声を上げても、その音は心に届かず、遠い川のせせらぎのように薄れていく。

 昼休みカフェテラスの端で淹れたてのカフェラテをゆっくりと口に運ぶ。周囲の人々の笑顔は、光の粒子のように、きらめくがその輪の中に私の居場所がない。

 夜帰宅の電車に揺られながら、窓の外に流れる街頭の明滅を眺める。ガラス越しの自分の顔は、虚ろに歪み、見知らぬ誰かが写っているようだった。

 家に戻り、淡々と食事を取る食器の触れ合う音、テレビの低い音声、静かな部屋の空気はまるで隔絶された異空間のように感じられた。就寝前窓辺に腰掛けて一息つく。外では小雨が降り始め、水滴が羽に触れる音がしとしとと響く。目を閉じると、かつて水が運んだ。記憶の断片が手の届かぬ遠い世界の残響のように胸の中で揺らめいていた。


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