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記憶の水脈  作者: Patching a Poet
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排水溝に流れる水

 シャワーの湯は頭から落ちて髪を濡らし、肩や背中を伝って流れる。水の筋は胸や腹を通り、脚を伝って足元に集まる。浴室の床に広がった湯は薄い膜となり、やがて細い筋になって排水溝へと流れ込む。

 泡を含んだ水は白く濁り、小さな渦をつくりながら吸い込まれていく。シャンプーや石けんの香りがわずかに立ちのぼり、蒸気とともに浴室内に漂う。髪を指ですいたときに抜け落ちた毛が泡に絡み、排水口の金属部分に留まる。

 水の流れる音は一定だが、湯量を変えると響きも変わる。強く出せば勢いよく響き、弱めればかすかに滴る音となる。床に残った泡のかたまりはしばらく動かずに留まるが、やがて崩れて細かくなり、最後には水とともに吸い込まれる。

 湯を止めると、流れ込む音はすぐに弱まり、排水口からわずかな吸い込みの音だけが残る。床にはまだ水が薄く張っており、足を動かすと小さな波が立つ。しばらくするとその水もすべて溝に吸い込まれ、床はしっとりと濡れた状態だけになる。鏡は湯気で曇り、壁や窓も湿気を帯びている。排水口のまわりだけが、他の部分より濃く濡れて見える。

 ベッドから上体を起こす。

「あ、これ私の記憶じゃないな」

 思考が追いつかず、ただ確信だけが言葉となって漏れた。

夜の闇に包まれた部屋窓越しに落ちる。スピーカーから流す雨の音は切り、ただ沈黙のみが空間を閉めていた。鏡の前に立つ私のまなざしは、確かに己を捉えているはずだった。だが、そこに映る姿は、どこか薄ぼんやりと揺らぎ焦点を失っていた。瞳の奥に潜む闇は、まるで底なしの淵のごとく深く無限の空気を映し出していた手を伸ばすと、指先は象をかすめ、はかなく、にじんだ存在が溶けていく予感に、全身を震えが走った。


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