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記憶の水脈  作者: Patching a Poet
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彼女の一日

 朝六時半。目覚ましの音が鳴る前に、自然と目が覚める。窓の外ではすでに薄い光が広がり、カーテン越しに部屋の輪郭をやわらかく照らしている。布団から抜け出すと、すぐに台所へ向かう。

 朝食はシンプルだ。食パンを焼き、コーヒーを淹れる。余裕のある日は卵を炒め、サラダを添えることもある。食卓につき、一口ずつ確かめるように食べながら、今日の予定を頭の中で並べる。

 化粧を終え、髪をまとめ、仕事用のバッグを肩に掛ける。

アパートを出ると、同じ建物の住人が先にエントランスを出ていった。言葉を交わすことはなかったが、扉が開いたままだったので、そのまま外へ出られた。駅までの道はいつも同じ景色だが、季節ごとにわずかな変化がある。街路樹の葉の色、歩く人々の服装、遠くで鳴る工事の音。それらを確認することで、一日がきちんと始まったことを実感する。

駅まで歩き、混んだ電車に乗る。吊り革を握りながら、流れる車窓の風景に目を向ける。見慣れた街並みだが、毎朝少しずつ異なる表情を見せる。立っている人たちの間で少しずつ体の位置を変えながら、目的の駅に着く。降り口の近くに移動できたのは、周りの人の動きがあったからだと気づく。

 オフィスに着けば、仕事の時間が始まる。パソコンを立ち上げ、メールに目を通し、会議に出席し、資料を整える。忙しさに追われる中で、時折ふとした会話や小さな笑い声が、張り詰めた空気を和らげる。昼休みには同僚と外へ出て、定食屋で温かい食事を取ることもある。

 午後は細かな作業が続く。数字を確認し、文書を修正し、上司の指示に応じる。気づけば夕方になり、窓の外はすでに夕焼けに染まっている。

 退社の頃には、街は夜の灯りをまとっている。駅へ向かう人々の流れに交じりながら、自分もその一部として歩く。

帰りにスーパーへ寄る。かごを持ってレジに並び、順番が来ると店員が商品を袋に入れてくれる。会話はほとんどないが、支払いが終われば買い物は済む。袋を持って外に出ると、手にずっしりと重さが残る。

 帰宅は八時を過ぎる。玄関の灯りを点けると、部屋が静かに息を吹き返す。夕食は簡単に済ませることが多いが、ときには料理本を開き、時間をかけて作ることもある。食卓に座り、ひとりで箸を進めながら、その日の出来事をゆっくりと振り返る。

 夜は洗濯や片づけを終えたあと、机に向かって読書をしたり、日記をつけたりする。スマートフォンを手に取ることもあるが、画面を見つめ続けると心が落ち着かなくなるので、途中で閉じることが多い。

 シャワーを浴び、髪を乾かし、ベッドに横たわる。窓の外からは遠い車の音がかすかに届く。その音を聞きながら、今日もまた無事に一日を終えたことを確かめ、静かに目を閉じる。


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