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虚の機繰  作者: 浮海海月
金星のセレナーデ
32/40

32.冥界彩るファンタジア

 二日前に行った潜入(侵入)の一件の報告。本来なら仕事が終わり次第すぐに情報整理して行う予定だったが、色々と訳あって遅れてしまったことを文頭に付け足して携帯越しに今伝える。

「――以上が俺らが得られた情報と、あの日の顛末。どう?欲しいものはあった?」

 顔は見えなくても声色だけでも予想がつく溜め息を吐いて彼、猿川は感謝の意を述べる。「助かる」とのことだった。

「の割には納得いってなさそうだね」と問えばしかと要因を語ってくれる。

「明星邸にオッドマウスがいたって言うのがおかしいんだよ。うちの生徒がその日病院であいつを見たって言ってるもんで」

 彼の声は紛れもなく『当惑』を示していた。声に出さなかっただけで四人の顔にも同じものが窺える。

「今分かってるあいつの能力考えると分身なんてマネ出来っこないんだよ。二つ目の能力の線も無くは無いけどあまりにも関連性がない」

 猿川の言う通り、与えられる能力には何かしらの関連性がある。一つ目の能力を最大限活かすものであったり、一つ目ありきでより強大な効果を発揮するものだったりと、その関連性は様々ではあるが『マジック』と『分身』はそう簡単には繋がらない。

 これが『変身』とかだったりすぐに飲み込めるのにと溢したくもなる。

「分身の魔法とカ?」

 一石を投じるのはシンボルのとんがり帽をゆらゆら揺らしているルター。

「ないな。あれはっきり分身って分かるだろ」

 煙草の煙を吐き、ルターの説いた可能性を否定する。慶猯もまた彼の能力を目の当たりにした人間の一人としてその言論には口を挟む。

 だが、行き着いた先は結局「よく分からないが分身が出来る」という「理論を知らないまま公式を覚える」みたいなところに落ち着いた。



 結論も出たところで論点は変わる。

 紅葉のことだ。

 正しく言えば四人の受けた損害や怪我、紅葉に負わせてしまった怪我のことと言えよう。

「良い訳があらへん。ありゃしばらくはダメだ」とは慶猯の言葉。それに付け加えられるように「目ならだいぶ前に覚ましてるんだけどね」とストが言う。


 容態が酷かったのは紅葉より慶猯よりもサカズキだった。報告が遅れたのもサカズキが起きてこなかった分、情報のまとめに時間がかかったという理由であって倒れてたのが紅葉だったらさっさと報告を済ましていただろう。

 渦中の彼はストに背負われてここに連れて帰って来られているときにはもう目を覚ましていた。傷自体他二人と比べて浅かったのかその頃には血も止まっていて、傷が埋まってくるのを待つばかりには回復していた。


「問題は心の方だね。ずっと隠してたんだろうけど、あの一件であの子が抱えてるものはだいぶ見えたと思うけど…」

 ここでサカズキが言い淀んでしまった。膝上で組んだ手が強く絡んで白くなる。

 一瞥した慶猯とストが目を逸らす。

「一朝一夕で治せるもんでもねぇか」

 自分のでない寝台の上、虚の手の内覗きながら少年は何想ふ。

 窓から指す陽光が手の平を照らしている。

 外に陽炎。

 エアコンの効いた部屋でカラリと氷が音を立てる。

 気温は摂氏34℃に達し、湿度も72%と夏場の不快さ加減真っ盛り。

 世界は今日も滞りなく回っている―




―――――――――――――――――――――――――




 車窓は流れる景色を映している。

 紛れもなく彼女が早く見たかったものであって、今すぐにでも走ってでも戻りたかった場所が流れていく様を淡々と映し続ける。

 憂鬱だ。

 車内では黒服が六人控えていて、身動ぎ一つ取らない。どこの誰かは胸元のバッジを見ればすぐに分かる。どうせ明星の人間なんだってすぐに分かる。

 要はこの流れる景色が止まった時、彼女は帰りたくもない、地べた這いずってでも逃げ出そうとした場所に戻されたってことだ。


 スタート地点からやり直し。サイコロ振ってもう一度。


 おずおずと目の前に差し出されたキャンディ。

 ご機嫌取りもする気もないくせに。

 喉が清涼感に満たされる。



 久しぶりに見た元我が家への感想は特になく、開かれた扉から出て歩けばすぐに訪れる使用人の出迎えに返事もせずに玄関へ入る。

「おかえりなさいませ、お嬢様。ご帰宅直後に申し訳ありませんが、ご主人様がお待ちになっております故、こちらへ」

 若さには馴染まないモノクルがシンボルマークになっている執事が先に廊下へと進む。

 目の隅にいそいそと動き回るメイドたちがいるのを映しながらもエレベーターに乗り上階へ。

 狭いエレベーターの中、一方通行に話しかけられる。一見すれば『明星ひばり』を気遣うように聞こえるそれは『私』を想わないものでしかない。

「久しぶりのご帰宅」「さぞ気苦労の多かったことでしょう」「どうかごゆっくりとお休みくださいませ」とか御託を並べても貴方の昇進の打診なんてしないのに。


 耳に馴染むエレベーターの停止を告げる音が鳴った直後、扉が静かにスライドして再び廊下に。

 父の仕事関係の部屋ばっかりがずらっと並んだ階層には普段は人の手が入った形跡はてんで見えないのにこの日は変に形跡しか見えなかった。

(…大掃除でもしてたの?この時期に)

 絵画の縁をなぞればいつもひっ付いてくる埃もないし、ギリギリまで水を与えない水差しには十分な量が注がれていて花も瑞々しい。

 こういった小さな疑問は道中に沢山出てきたが確かめようにも残念ながらこの口がさせてくれないので晴らせないままでいる。


 執事がエレベーターに居た時とは打って変わって全く喋らなくなってひばりを先導するに徹しているのは彼女の父親であり、彼の雇用主である醒次が存在する階層にいるからだろうが、何をそんな恐れるのだろうと不思議に思う。

(…いや私も同じか)

 この家が持つ力に逆らえないまま流れに身を任せ思うように動き続けたのは紛れも無い『私』に他ならない。

 だから、彼女にこの館に住まう全ての人をとやかく言う資格なんてありはしないのだ。


 豪華な内装が遠慮無しに自己を主張している。

 それに対抗するような重厚な扉。

 二回鳴ったノック音は両方とも見た目通りの重厚な音を響かせる。

「醒次様、ひばりお嬢様を連れて参りました」

 冷たい声は淡々と感情を乗せず「入れ」とだけ告げる。それを聞くや否や執事がノブを押し手を体の前まで運んで「どうぞ」とでも言いた気に頭を下げる。

 逡巡、ひばりの脳内で思考が走り回る。

 入るべきか否か。進んで何になるのかそれともならないのか。逃げるべきか、今ここでかつてそうしたように逃げ出してしまうべきか。

 それらは結果として泡沫のように浮かんでは消えるだけの妄念に過ぎず、すべからく凪いで払われる。

 一呼吸置いて一歩を踏み出す。

 小さく片手を上げ執事の前を通り過ぎてまた一歩進む。

 ひばりが完全に扉の向こうまで進むと重い音を鳴らしつつ扉が閉まって二人きり。

「ままごとは楽しんだか?」

 部屋の外とは異なり、一見豪華に見えるも華美過ぎずあくまで「仕事場」であることを主張しているが、後方の窓ガラスには庭一面を見下ろせるほど開かれている。

 書類の山に通す目には老眼鏡が掛かっていて、手の内の万年筆がサインを綴るのをやめ、自由となった両手を組む。

 彫りの深い初老の男性、それが彼女―明星ひばり―の父、明星醒次だった。

「馬鹿娘」

 彼女にとって、天地がひっくり返ろうが陸と海が入れ替わろうが到底愛することが出来ない人物。

 息が詰まる。




―――――――――――――――――――――――――




 猿川への情報共有は終わり、議題は次へと移って先に続いて「紅葉の状態」。

 ささっと済ませた先の議題とは違ってこちらはより慎重に進める必要があるのは彼がまだ年端もいかない子どもであることが大きい。

 思春期真っ只中の男子は影響を受けやすいし些事に敏感。それを抜きにしても彼は背負ったもの、背負わされたものが大き過ぎる。

 だって想像も出来ないだろう?

 自分が急にとんでもない悪党に仕立て上げられ、右も左も分からないまま連れて来られたと思えば「自分で自分の無実の証明をしろだ」なんて言われて頑張ったのに酷い言われようは変わらず終いになったとき、自分が正気でいられるかどうかなんて。

「少なくともしばらくは何もさせない方がいいだろうね。サカズキくんの言う通りなら相当キてるだろうし」

 先日の激戦の最中、サカズキが垣間見た紅葉の本音は他三名にもほんのりと共有済み、そして猿川にもまた同じように共有済み。

「アイツはこの世界じゃ珍しいホンマにイかれとるガキや。その癖して変なとこ普通なガキでもある」

 あの時、倒れ込んでいた紅葉の最中にかつての自分を重ねる。

 ここは似たもの同士が集まっている。

 己を取り巻く環境に抑圧され、論理を取り上げられ奔流に従うままだった者共が肩を組んだ場所がここ。

「…かもな。それでも」

 猿川も理解している。

 この世界に足を踏み入れてすぐの子どもの殆どが(殺すこと』を忌避し、断念するのに対しあの子にはそれが無いことも、一端の思春期の感性を持っていることも全部。

 それでもどこか諦めきれないのはやはりあの子が…

「期待するのは結構。だが、英雄の孫にしろ()()持ちにしろ、お前の理想を押し付けるのはワシが許さん」

 神河紅葉が他ならぬ誰よりも彼が欲した物を虜にしているから。


 ブツリと切れた電話は誰の声も通さない。

「ルター。アイツのスマホ出したり」

 スカジャンを翻し指示を出すがとんがり帽は目に見えて嫌そうな顔をする。

「え〜、あれ開けるのメンドウなんだけド」

 彼の能力の特性上、鍵のかかった場所にしまったとて意味はないだろうと電子ロックをかけた金庫を思い出したのだろうか。

 確かに面倒ではあるがそこは見て見ぬ振りをした。

「ええから」

「ハァイ」

 そう言ってルターはどこかへ行ってしまう。「手伝ってくる」と言い残してサカズキも。

「俺らは先に行く?」

 ストの問いに言葉は返って来ず、ただ当然の如く少年が眠る部屋へと向かう。



 日はまだ高く昇っていて、熱されたコンクリの上で空気が揺れている。

 そう遠くない山々では緑が生い茂っている。ここまで響く蝉の合唱はざわつく心には何故か心地よい。

 数日ぶりのベッドだろう。

 ここに来てからは雑魚寝ばっかりでまともな布団で寝れることのありがたみを感じたばかりだった。

 包帯は別に久しぶりって訳ではないか。

 ここに来てから毎日欠かさず行われた()()()()のお陰でちょいちょい着けることはあったし、もっと前にはぐるぐる巻きにされたことだってある。

(また、あいつに負けたのか)

 目玉の奥、網膜を灼くような突き刺すような痛みがこの事実を忘れさせず、この感情を払拭できないままでいる。

 それでも世界は滞りなく回っている。

 たった一人の苦しむ少年を気にする素振りもないまま円滑に回っている。


 ドアノブが下がり、若干開いた隙間からリビングを満たす光が覗いてる。

 光を受けて部屋に入ってくるのは慶猯とスト。

 二人の目に最初に映った紅葉はベッドに座り込んで窓の外をひたすらに眺めていた。

 それがなんだか寂しく見えて仕方がなかった。

「電話終わりました?先生僕のことなんか言ってたりしました?」

 なのに、二人に気づいたこの子はいつもと同じトーン、同じ表情、同じ言葉で語りかけてくる。

「いやでも調査結果の方が大事っスよね。調査っぽいことあんまやった記憶ないけど…」

「紅葉くん…」

 どうして?

 どうして君はそうなんだ?

 なんで我慢してしまうんだ

「紅葉」

 やっぱり似ているんだ、この子は。

 何も言えず言われた言葉を、行われたことをただ呑み込むしか出来なかったかつての自分に。

「『耐える』のは強さとは違う。『隠す』なんて尚更や」

 どうして子どもは無意識のうちに大人が泣かないものだと思うのだろう。何故人は強い人は涙を見せないのだと信じて疑わないのだろう。

 彼は重く響く声を紅葉の心まで届かせる。

「ワシはお前のことなんぞ全然知らんし何を目指してるんかも知らん。それでもこれだけは言える」

 そうだ。彼は、彼らは相互理解が足りていない。

 この子が目指す先にどんなもんが広がっているのか、どうしたいのか何も知らないまま先に進んでしまった。

 だから、この責任は誰かが取ってやらないといけない。何があっても紅葉に押しつけてはいけない。

「我儘を言えないまま強くなれると思うな。泣かないまま弱さを知れると思うな。『我慢』は美徳とちゃう」

 紅葉の瞳が揺れている。

 外のアブラゼミが紅葉の心まで喧しく騒ぎ立てる。

「泣いていい。我儘は当たり前。それでいい。んなもん大人にやらしときゃええ。泣き方を知らないまま大人になんてなるな」

 ドアからまた二人の人影がこちらを覗いている。特徴的なとんがり帽とイカ足がベッドに近付く。

 その手には何かを大事そうに握り込んでいた。

「それでもどうしても何も出来んようなら、まずはお前のことを見てくれてる奴らのことをちゃんと見ろ」

 慶猯が受け取ったそれを紅葉に手渡す。手の中にすっぽり収まるそれは紛れもない紅葉のスマホであった。


 少し戸惑いながらも電源を入れ、再起動後のパスワードを入力してロックを解除。

 メッセージアプリには多くの通知が溜まっている。

 見るのが恐ろしくなって来る。

 もしも中にあるのが罵詈雑言だったら?

 間違いなく疎ましく思われているはずだ。心配されていないかもしれない。

 吐き気がせり上がってくる。胃酸が喉を灼く感覚が気持ち悪い。


 体をぬるりとしたものが包む。

 不思議ともうこれを気持ち悪いと思うことはなく、寧ろ暖かいものが伝わってくる。

 面を上げれば真っ直ぐな瞳がこちらを見つめていて、イタズラに笑う顔も安心感のある微笑みもこちらを向いている。

 全てが「大丈夫だ」と伝えている。


 アプリを開いて真っ先に目に入ったのは紅葉の思っていたのとは全く違うもので、友人たちからの激励に始まり、なんでもないくだらない会話まで。

「頑張れよ」「いつか帰ってこいよ」「信じて待ってるから」「あーしらはダイジョブだよ」「早く戻ってこいバカ」「紅葉夏休み補習祭りだってさ」「ひばり先輩に隠しきれんかった、すまん」「あんたの分のプリントいい加減貰ってくれない?」

 ああ、そういえばそうだった。

 何を怖がっていたんだろう。

 彼らはあんなことを言うような人間じゃないことなんて分かっていたのに。


 友人やクラスメイトや先輩やらのメッセージが見終われば次は家族からの物にも目を通す。

「紅葉のお陰でパンの試作が作り放題だ。ありがとう」

「どんな慰め方だよ…バカ親父」

 恐ろしいのはこの父は多分素でこれを言っていることだ。こっちを変に気遣った結果の言い回しとかじゃなくて本当にパン作り放題にしてくれたことを喜んでいるんだろう。

 母からのメッセージは特に多かった。

 というか毎日欠かさず送られていた。

 最初の方こそ戸惑いが見え隠れするものではあったが次第にそれも落ち着いている。

「我が家の家訓は『ご飯は一緒に!』どこにいるかは分かんないけど母さんたちの今日のご飯を送るよ」

 雰囲気だけでも一緒に食べたような気持ちになる。

 この人はずっと紅葉の心を放さないようにしていた。ずっと、ずっと独りにしないようにしていた。

 こうしてずっと家族でいてくれていた。

「風邪は引いてない?ちゃんとご飯は食べてる?なんにせよ元気で帰ってきなさい」

 風邪は引いてない。ご飯は食べさせてもらえてる。

 元気はちょっぴりとないかもしれないけど、概ね元気です。

 貴女の息子は今も、こうして元気に涙を流しています。

「すみません…オレホントはもう…」

 大粒の涙が液晶に落ちる。一つ二つと落ちた雫は次第に頻度を増して頬を伝っていく。

 四人の腕の中に抱かれる。

 泣き声は蝉よりも大きく木霊していた。




―――――――――――――――――――――――――




 高く昇った陽光を背に受けた醒次がひばりを睨む。

 日向の中に彼女は入れない。

「しばらく放っておけば頭も冷めるかと思えば、随分と毒されたものだな」

 家を出て早二年。

 連れ帰ろうと思えばいつだって出来ただろうに明星家(この男)がそうしなかったのは興味が無かったとか愛情が無かったからではなかった。寧ろそうあってくれた方がどれだけ幸せだっただろうか。

『いつでも出来る』。これこそが彼女らが放置されていた理由だった。

(猛毒のくせによく言うわ)

「だがもう分かっただろう。お前は占星術士になんぞなれんと。馬鹿げた理想を捨て、私の教えた合理的な『女の幸せ』を追うことこそが正しいと」

 この家で過ごしたたった十四年の内のほんの四分の一にも満たない頃からひばりは『明星の女』としての教育を受けた。

 貞淑でいて男を立て、支える女に成る為の教育を。

 礼儀作法から話し方、歩き方やピアノやらなんやらの習い事も全てその為に叩き込まれた。

(その先に幸せなんて見えそうになかったけど)

「分かったらさっさと部屋に戻って見合いの準備でもしていろ。私は忙しい、これ以上お前なんぞの為に煩わせるな」

 唇を噛み締める。

 たった今、『私の幸せ』が音を立てて崩れて消えていく。

 私の足が踏みしめていたものが、消えて奈落に落ちていく。

 あぁ、漸く父が私を連れ戻した理由が分かった。放っておいても問題がない、利用価値の無かった私をわざわざ連れ戻した理由が。

 占星術士の私を見て気に入ったどっかの貴族(バカ)が私を欲しがったんだ。

 その貴族が持っている利権をモノにする為に私を使えると思ったのだ。

 家を継がせる昨架ならいざ知らず、私の利用価値なんてそんなところしかない。


 憎い。

 この家が。


 憎い。

 逆らえない私が。


(ごめん、昨架。お姉ちゃん、ダメになっちゃったや)

 乳母さんに世界に()()の家族を託す。

 もうそばに居てやれない姉のことなんて忘れてあんたたちだけでも幸せになってね



 内開きの扉を強引に閉める。

 部屋の内から「閉め方」と怒鳴る声が聴こえてくる。

「それではお部屋までご案内いたします」

 微笑む執事のこの顔が嫌いだ。

 部屋の中での会話も全部把握している癖に、行われていたことも全部見ていた癖に、見て見ぬ振りを重ねたこの顔が。



 右薬指の華奢なシルバーリング。

 0.2カラットのアウイナイトが細いネオンブルーの輝きを反射させている。


(ごめんね、力也)


 愛しき人よ、さようなら


 言葉にならない想いを貴方に馳せよう


 どうか


 どうか貴方の歩む先(未来)が光に満ちていますことを

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