24.烈火
煉獄までと続く階段に冷たく堕ちる革靴が音を立てる。鬼火は過ぎるたびに灯りを消し、足元だけが仄かに照らされている。
煉獄の主人は玉座に座して待つ。燃ゆる烈火を宿し、裏切り者にその腕にて死を以ってして罰するその時を待つのみ。
従者は星の子。煉獄の遥かにて惨劇の数々を眺め己が眼に焼き付けた哀れな子。煉獄に魅入られ自ずから猛火の渦へと飛び込んだ愚かな子。今は玉座の側にて主人に訪れるその時を待つに順ずる。
音源が段下へと接近する。歩みを止めることは無く、着々と一歩また一歩と歩み続ける。道を照らしていた鬼火を飾る燭台に残された白蠟が生んだ煙を揺らして足を運ぶ。
「…ボス」
星の子の声は微かに煉獄に響いて震わせる。その声はしかと主人の鼓膜から耳小骨、細管を抜けて脳までと通り、烈火に焚べる薪となる。
「あぁ、分かってる」
煉獄にて煤を撒き続ける烈火の次なる標的はすでに定まった。星の子等しく自らこの地獄へと足を踏み入れた愚か者、だが貴様は違う。星の子と異なり煉獄を荒らさんとする痴れ者、貴様の居場所はここには無い。
「どいつもこいつも燃やしてやるだけだ」
「それはまた随分と息巻いたものだね、《ボス》。その様子では変わらず元気にやっていたようで何よりじゃないか」
気がつけばソファの背もたれに腰をかけ釜高の背後を取られていた。居座るのは奇術師―オッドマウス―彼らの裏切り者に他ならない。その手に握られた懐中時計が秒を刻んでいる。
「なっ…!」
ドアベルも鳴らさず入ってきた侵入者に咄嗟に弓を構え弦を引くアルナの首にすかさず三日月が狙いを澄ます。張り詰めた弦は静かに事切れて落ちる。
軽く手を上げ二人を静止させる。これ以上はアルナの命に関わると判断した。
「よお《奇術師》、手土産代わりの首ならとっくにもらってんだからよお現地調達したもんはいらねえぞ。随分生意気な挨拶だが挨拶ならあと二人くらい足りないだろ。…あのクソ女どもはどうした?」
仮面の口は常に開いているがその下の口はだんまりを決め込むハラのようで、鎌は寸分狂うことなくアルナの喉笛を狙い続ける。
「そうかよ」
宙を舞ったのは古びたソファ、刻まれ飛び出た白い綿は銀世界を彩る六花の如く辺りを漂う。
猛き獣の狙うは常に一点、弱者と言うのがこの世の常。血に染まる三日月は後ろ跳びで逃げ出すアルナを狙う。
それを追うのは釜高。両手につけた鉄甲を以てオッドの背後へと迫る。
三日月が床板を削る。
踵を返し、走っていた脚は止まり、大きく弧を描きながら振り抜かれた大鎌は釜高の下顎を貫こうとして止まる。
「ハハッその鉄仮面がまともに機能するなんてこれが最初で最期だろうな」
「オメエこそ、俺の首が狙えるのはこれが最初で最後だと思えよ」
(アルナは…気ぃ失ったか。それで済むんならいいだろ)
深く息を吸い込んで吐き出すのは120℃の二酸化炭素。稼働を始めたこの男の熱が下がることはない。勢い強く出された刺突はキレだけがある我流のそれ。道も筋も感じることの出来ない拳は今まで自らへと飛んできたものを遥かに凌ぐ程に強さを感じる。
それを遠心力を用いた大鎌で弾く。初撃の頭を狙ったものを落とすよりも速く繰り出された二撃目は回転する鎌柄で絡め取り、技として殺す。
迫る拳打も蹴り技もがすべてオッドの身体に触れることは一度もなく柄に弾かれるか受け止められるか流されるか。
鎌の斬撃は行われず、目には目を拳打には拳打を返していく。深く鋭く的確に打ち込んでいく。
釜高もまた胴元に受けた一撃の反動を利用してより速度をつけた突きをオッドの心臓に穿つ。
それをひらりとタキシードを翻しながら躱す。伸びた二の腕には銀のナイフを突き立てて、そのまま顔面に目掛けて肘鉄をぶつける。
「イッテェなあ!」
低姿勢のまま縦方向に伸びた上段への蹴りを放つ。遂にこれまでの一切を受け付けなかったオッドの左肩に釜高の脛が衝突する。蹴りのダメージと衝撃は脚と体幹だけでは殺しきれず壁まで飛んでいく。
飛んだ男にかける容赦など無く追撃の膝を煙立つ場所に。次の瞬間、血を噴いたのは釜高の左腕。膝蹴りを喰らう直前に床に転がり込み、回転を利用した大鎌が釜高の左腕を襲った。
鳴ったのはどちらかのあるいは両方の舌打ち。
低姿勢のオッドの腹部を踏みつぶさんと落とされる足裏の槌に低い位置から放つ回し蹴りをぶつけ相殺、一瞬両者の間に魔力の閃光が弾ける。
「せめてと思ってすぐに楽にしてあげようとしていたんだがね、杞憂だったかな」
服にかかった埃を払いつつ語る奇術師の思ってもいない思慮を聞く。
両者実力は拮抗。常に狙うは一瞬の油断と隙。
だと言うのに奇術師にはそれに該当するものが見受けられない。見つけたと思えば次の瞬間には消えていて、気が付いたら己の隙を突かれる。
「まずはオメエの顔面から叩き割ってやる」
馬鹿正直に突撃するのはどの火夫か。
大きく振りかぶった右腕が丸見え、目の前に現れるのは三日月の大鎌でもなければオッドの拳でも脚でもない。
「スペードのJ」
十一振りの両刃の剣が釜高に襲おうとして消える、トランプを粉微塵にして飛翔するのは高温に熱された瓦礫。大振りの右腕から放たれたそれは一切の障壁を受け付けずに駆ける。
ただし、それがちゃんと当たってくれるかはまた別の話だが。
だがこれで距離は詰まった。脳天高く昇った踵が奇術師に迫り、一も二も待たず落ちる。
それを背面に回り込み躱す。
周囲には割れた床板が舞う。
殴り込むのは右脇腹への肘、左の裏拳を肩に。
その間釜高は反撃せずに薪を喰らって、喰らって喰らい尽くす。尽くしたらもう受けてやる理由などあるまい、反撃といこう。
後方回し蹴り、眼前に広がるは床に突き刺さる大鎌。
放った蹴りは空振りとはならず脇腹を狙うオッドを捉える。高熱を帯びた脚が襲う。
体勢は崩されたもののそのまま跳躍し釜高の背後を滑るように反対側へと移動、道中にジャックナイフを突き立てながら。掴んだ後頭を大好物の床板へと投げ捨てて、ゆっくりと大鎌を拾う。
起き上がりざますぐに襲いかかる釜高の目の前に耳のないネズミ。
それは次の瞬間にはいなくなっていた。四肢はバラバラに砕けて頭と体はぐちゃぐちゃのスクランブルエッグ、内臓は隠していた全てをぶち撒ける。
ーネズミが爆ぜた
爆発の威力はざっとダイナマイト一本分。それをまともに喰らってなおこの男は止まらないらしい。
「マジシャンとしてはもう少しリアクションがもらいたいところなんだがね。まあ、煤と血に塗れたその顔を見られただけで良しとしようか」
襲いくる男を流すなんて不粋な真似はしない。今の流行りは向かい入れつつもタイミングを見計らって裁判に持ち込むのだろう?そんなものをやられた男からしたら大ダメージは必至だろう。
そのまま何発か打ち込む。気を失ってはいないものだから、すぐさまにカウンター上等の攻めの姿勢に戻られるがそんなことは今は問題ではない。
目下の問題はしれっと先程の膝蹴りの際に肩を噛まれたことだ。今だに焼けた感覚が離れない、その上彼の動きの機敏さが増して、一撃一撃に熱が込もり出した
「君の能力は本当に面白いね。是非とも良い関係を保っていたかったのに、残念だよ」
「ほざけ。ぶち壊したのはオメエの方のくせによ」
開いた口腔は人間の赤よりも明るく熱と白みを帯びた赤に、その中には木片。
『炉心』
己の肉体を炉心として燃料となるものを取り込み時間が経てば数千℃まで達する超高温を帯びるようになる。発した熱は口腔から放つも、全身に纏うのも燃料として扱うも良し。要するに――
「――面倒だな」
嫌味をたっぷりと込めて釜高が述べるのは「そりゃお互い様だ」。
両者ともに駆ける。オッドの立っていたところにはハット帽、釜高の立っていたところには陽炎が残る。
鉄甲と鎌は何度も何度も衝突してその度に激しい火花を散らす。
何度も鎌を回して、何度も腕を振るって、何度も、何度も何度も何度も。
両者の猛攻すでに高速に達して他の介入を許さず。
鉄甲が傷跡をつけた床板はなく、全てひっぺ返して口の中へ。
釜高の鉄甲は本来掘削により適した形をしており、それを殴打にも扱えるように改良したものである。そのためにこの猛攻も時間が経てば経つほどに炉心の温度は上がっていく―
(じゃあ何で…コイツはさっきから俺について来てんだよ!)
振るう大鎌は確かに幾許か肉を割き、柄は何度も肉を叩く。胸元から取り出したジャックナイフは決まって叩き落とされるが、鎌だけはそうはいかない。それどころかナイフを囮に決定打成り得るものを振るっているようにさえ見える。
大鎌、三日月の根っこを掴んで思いっきり投げ飛ばす。投げ飛ばした方へとすぐさま走って追撃。道中宝石の雨を受けたが気にせず突っ走る。
破った扉の向こうは埃が籠る倉庫、潰れた木箱をクッションにダメージは最小に抑えられ、追撃を躱すだけの余裕を持つ。
追撃の脚を受けて木箱が発火。その木片すらも喰らって身に宿す烈火への焚木とする。口からは既に赤々とした炎を漏れ、辺り一辺をまさに煉獄に変えるほどに熱を放つ。
スライディングを躱した足で木箱の裏を転々と、身を隠す。
「チッどこ行った?」
答え合わせは存外早くに訪れる。木箱の裏、釜高のすぐ真横、右手にオッドの魔力。
その芯をしっかりと潰す。潰れたそれは小さな灰色の体を撒き散らして爆ぜる。飛び散った肉塊と血が口に入ったり目に入ったりと好き勝手に暴れる。
奇術師が隠れるのは背後、左手の方。死神は懺悔など聞かずその魂を切り裂く。
壁を破って倒れた先はベットシーツの上。滑る鉄甲の指先がボロ布を割き、溢れるのは安物が故の硬いスプリング。パイプを撒きながら飛ぶ枕は無慈悲にも両断される。
「想像に易い、可愛げの無い部屋だな。彼女のことを思うなら君について来させるのは悪手ではないのかね?」
安いベットに安い枕、雑に並べられた本は全て兵法学やらなんやらばかりな癖に碌に勉強ができるような環境でもない。
そのほとんどがたった今血に塗れたせいで使い物にならなくなったところでもある。
「うるせえな。俺はアイツについて来いなんて言っちゃいねえよ。小せえ子供が勝手について来やがって勝手に強くなったんだ、なら俺がするべきことは一つ――」
――全力で応えるのみ!
踏み締めて床板にヒビが入る。舞う木片は皆口の中に掻き込んで炎を絶やさない。その瞳の奥にて煉獄の焔は轟々と燃え続けている。
「ウラア!」
左の大振り、ローテーブルがひしゃげて割れる。ベットは蹴り上げられ宙を舞う。両者共に二人の間に存在する壁ごと相手を潰す算段で、鉄甲が貫き、鎌が切り裂き、殴り殴られ、蹴り蹴られ、ついにスプリングさえも無くなって、果てにはこれがベットだったことすらも忘れてしまう程に成り果てて、終いには口の中へ。
(悪い、アルナ。机もベットも布団も枕も本も、後でまた全部買ってやる。今度こそお前に贅沢させてやる。だから今だけは…)
「許せよ、アルナァ!!」
「ハハッ…ハーハッハ!喚け!嘆け!泣き叫べ!この俺を見ろ、よぉく見据えておけ!炉を壊す者の姿をしかと脳裏に刻め!」
激しい火花が散る。烈火は常にそこにある。
腕についた切り傷に、足に貫いた刺し傷に、爆発に巻き込まれた全身に。
全身を灼く火傷に、折れた骨に、沸き立つ血潮に。
烈火は常にそこにいる。
ハット帽を軽く持ち上げて這い出て来るのは十匹にも満たないネズミたち。その全てが手足が少なかったり多かったり、毛がなかったり尾が欠けていたりと何処か常ならざるモノばかり。
「チッ、またそれかよ!」
釜高の身体に纏わりつくネズミの体が一瞬カッと光る。
光っただけで何も起こらなかったのは、爆散するよりも前に全て食らい尽くしてやったから。
鋭い爪は岩盤から成る壁すらも削りながらオッドの肩から胸へとかけてを切り裂く。鎌はその間に左脇を貫いて右肩へと抜ける。
貫いた刃を抜かずに振り回して頃合いで吹き飛ばす。
深手にも関わらず壁に着地、この場合着壁とでも呼ぶのだろうか、取り敢えず着地後即座に飛び出して炎を吐き出しながら側頭への蹴りを放つ。
嘲る仮面に余裕は見えず、その笑顔にヒビが入る。タキシードは元より黒く目立たないが、確かに燃えて血は滲んでいる。
ダメージはしっかりとある。
雄叫び。
叫び、振りかぶるは右の拳。
静かに、されど速く振るわれるのは大鎌。
吹き飛び姿を露わにしたのはどの男。
アルナの自室の扉は壊れず、そのすぐとそのすぐ隣の壁を破って大部屋まで飛んでいったのは大男。
大男が開けた穴からぬるりと顔を出したのは薄笑いの仮面と誰かの腕だったもの。
「テメエ…ふざけやがって」
倒れ込みながら凄みを利かせても対して効果はない。
ふざけているのは一体どちらか。
「人体切断マジック。痛みはないだろう?ふざけているどころか大真面目に君を葬ってやろうとしているんだが、まあ良しとしよう。その首もすぐに刎ねてあげよう」
刎ね飛ばされた二の腕から先がボトリと落ちる。
眼前に彼の姿はなく、耳元で長物を振るい風を切る音が唸りを上げる。
鎌は空を斬り、岩壁を裂く。釜高は滑るようにして身体を地面へ、彼の者の足元へと移動。
片腕だけで出来ることは限られる。だがしかし、まだ両の脚は残っている。まだ、片腕も残っている。
――まだ戦える。
さぁさ、踊れ。煉獄の焔の上で、抱えた罪の中で踊り狂え。ジャンルはストリート?クラシック?それともダンスバトル?
知ったことか。
この場に型も礼儀もあったものか。
勝者と敗者。
それだけを決めるだけの戦いなのだから。
放つのは変形胴回し回転蹴り。
爆ぜるのは烈火の如く燃え盛る魔力、燃え盛る炎を抱えた脚。
振るわれた鎌に防御の術など無い。放たれたこの蹴りはしかとオッドの側頭へと届く。
爆ぜる、爆ぜる、燃える。
ヒビの入った仮面は耐え切れずに割れる。
しかし、人一人を蹴り飛ばせる程の威力はなかったのか、それとも彼の体幹が強かったのか、飛んでいったのは仮面一つのみ。
「オメエ、その顔は…なんだ…?」
折角立ち上がって反撃の狼煙を上げられるところだったのに、そこで立ち止まってしまうからお前は弱いのだ。
「ははっ…なんだろうな?なんなんだろうな?考えてみろ。あぁ、必要はなかったな。どうせすぐに貴様は死ぬのだから」
金糸が残像、ここを駆るは死神。命を刈るは大鎌。
大男の首はまだついている。ならばその切先は何処へ。
この部屋にはもう一人居たはず。
そして、この部屋で眠っているはず。
――強者の視線は常に弱者の方へと向かうのが世の常というもの。
誰が強者の視界から弱者が消えたと言った?
凶刃、眠り姫の首へとかかる。金糸が靡き、示すは彼の者の辿った道筋。三日月が残した軌跡。
「アルナァ!」
駆け巡るのは誰の思ひ出。誰の、誰との記憶。
教会で歌ったあの歌も、暖かいあの陽だまりも、草原も、全部、全部覚えている。
だから、失わせる訳にはいかないのだ。
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どれくらいの間眠っていたのだろう。
ある程度、お世辞にも綺麗とは言えなくとも汚いとも言えない、小綺麗なくらいまでの状態になっていた部屋は随分と荒れているようで、自身の周りに散っている綿はその側に落ちている被せ布や足からソファの物だと分かる。
鼻をくすぐる臭いはすぐに物が燃えている臭いだと分かった。あちこちでパチパチと音が鳴っているものだからすぐに分かった。
それともう一つ、血の臭い。
自分の周りにも血が散っている。しかし、自分の身体には一滴も付いていない。
ふと気づく。
さっきからずっと何かの陰にいること。何かが私を守っていてくれていること。
顔を上げてみればそこに居た。
ずっとそばに居て、ずっと守っていてくれていたあの人が、そこに。
「起きたかあ…アルナ…」
アルナの頬に血が滴り落ちる。ほんの一滴、涙のように頰を伝って落ちる。
「ボス…ヤダ…ぃやだ…なんで…?」
理解ができない。頭が追いつかない。なんで?どうして?
「悪いなあ、オメエのもん色々ぶっ壊しちまった…大事にしてたもんばっかなのに、すまねえな…」
違う、違う。
大事にしていたのは物じゃない。物だけじゃないのに。貴方がくれた物だから、貴方との思い出がある物だから。貴方がいなければ意味なんてないのに。
「ずっとずっと…我慢ばっかりでよお…わがまま一つ叶えてやれなくってよお…オメエには迷惑ばっかりで…」
お願い。待って。
それ以上は言わないで。
口になんてしないで。
そんな最期の時みたいなこと言わないで
「ああ、チクショウ…ホントにオメエ…綺麗なったなあ…嫁衣装くらい見てやりたかった…」
待って。
止めて。
止まって。
血。
もう、流れないで。
この人を連れて行かないで。
「アルナ…」
流れないで。
涙。
私を、彼を、お父さんを、連れて行かないで。
「愛し…デッ」
鉄仮面は両断され飛んで行く。そこより上、上顎から先は既に無く、身体に付いたままの下顎からは血が噴き出して壁に、床に、アルナにかかる。
数回宙で回っていた顔がゴトりと音を立てて床に落ちる。
落ちた顔が、虚とした眼がアルナを眺める。その瞳孔は既に生気を感じず、網膜は光を捉えることはなくなっていた。
「あ…アァ…あああ…」
震える手は何も掴まない。何を掴めばいいのか分からない。教えてよ、ボス。いつもみたいに私に。
「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
倒れる釜高の身体の奥から奇術師の顔が見える。嘲笑う仮面の下、口元はやはり――
――無表情




