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虚の機繰  作者: 浮海海月
烈火皆塵編
20/28

20.着火

 相も変わらずこの部屋は薄暗い。部屋を灯すのは燭台の上の蝋燭だけ。電気もガスも自由に使える時代に逆行した部屋の中に幾人が在中する。

「ボス、ようやく()()売りに行くのか?ならオレも連れて行けよ。倍にして増やしてやっからさぁ」

 目を輝かせるのはジェフリーだけでなくボスも同じ。例の事件から一週間が経ってもなお質屋にも入れず、鑑定にも出さずに宝物のように抱え込んでいたソレをついに換金しに行くこととしたからには期待値は大きく膨らんでおり、少年の頃と同じ輝きを目に宿している。

「ああ、そうだな。今の今までだーいじにしまい込んでいたアレも遂に手放す頃合いだ。奇術師の話じゃ遺物としてはとっくに死んでるが価値は消えちゃいないってことだ、さぞかし期待出来るだろうよ」

 奥の方にしまい込んでいたのは本当に遺物としての力が失われているのかを確かめるための実験を行なっていたからなのだが、結局望ましい結果は得られず、何も無いということだけが分かった。

「さ!そうと決まったら鑑定所まで急ぐぞ!俺たちの宝を持って行って…持って…行って…」

 見当たらない。空虚を掴んでいた手がわなわなと震え出す。最悪の事態が頭の中で点滅する。しかし、つい昨日までは確かにあったし片時も離さず抱えていようとすらしていたはず。あのジェフリーですら何かを察した様子でいるしアルナも驚愕している様子でいる。

「いや、まさか…この部屋の…奥に…しまって…しまって…しまっ…て…ない!」

 ない。何処にも。鞄の中も、机の中も探しても見つからない。夢の中にでも行ってしまったのか、姿形跡形もなく消え去ってしまった。まだまだ探しても見つからない。何処を探しても、何処を漁っても見当たらない。

 ない。

 ないのだ。S級を冠する遺物が、売値にして億は下らないとされる代物が何処にも。

 心当たりは?

 昨夜はこの部屋に、アジトの片隅に置かれた鍵のついた物置のそのさらに奥に確かにしまって、鍵は自室に置いたはず。


 …そういえば今日いつ鍵を開けた?


 大焦りで開けはしたものの扉は軽快に開いた気がする。というより鍵穴に何も刺さっていないのが論より証拠だろう。


 盗られた


 誰に?


「…ッ!修道女(シスター)修道女(シスター)は何処に行きやがった!?まさかあの(アマ)俺たちを裏切りやがったか!?」

 下顎鉄仮面のボスは見た目よりも頭に血が上りとっくに茹で上がってしまって冷静さを見失い、近くにあった箱がバラバラに潰れる。

 それとは裏腹に冷静であることに努めるアルナは一枚の紙切れを見つめて離さない。

「…裏切ったのは一人だけじゃないみたい」

 ひらりと向けられた紙切れには二等辺三角形に二つの円を付けただけのネズミを模したマーク。

 今日、巷を賑わせている怪盗が訪れた場所に決まって残されている象徴(シンボル)

 ネズミの上にはodd moues(オッドマウス)。姿の知れない奇妙な鼠。

「探せ!地獄の果てまで追いかけて絶対に、確実にバラせ!」

 鼠はいつの時代も駆除されるべきだろう。薄汚い獣は間引かれて然るべき。




―――――――――――――――――――――――――




「遺物ゥ?」

 白髪の少年は懐疑な顔で言ってみせた。

 今の今まで知らなかった遺物や武具、神具のことまでも教わりはしたもののよく分かってないことから生まれた声だった。

 それに加えてもう日は暮れかけている時に言うことかという疑問もあった。

「大体は全部一緒なんだけどね。使うときとかに応じて呼び名が決まってるんだよ」

(なるほど。化学を『かがく』って言ったり『ばけがく』って言うのと同じようなもんか)

「一緒なのはどれも術式が刻み込まれてるってことと、魔力を流せば能力が使えるようになるってこと。遺物は道具に、武具は武器に術式が刻まれてるものを呼ぶってわけ」

 明確な違いはこれだけだと加える猿川。それらにも人間と同じように階級分けがされていることも説明された。

(どおりで最近遺物が盗まれたとかよく聞くわけだ)

「そんでその中でも特に異例なのが神具。これは道具が使用者を選ぶ。選ばれなければ弾かれるか最悪呪われるけど、代わりに能力は絶大。S級以外無いチート仕様になってる」

 祖母―雪の愛刀であった『石楠花(しゃくなげ)』が良い例らしい。譲ってもらえなかったのはそういった理由から来るものだった。

「チートってことは自分が使える神具を探せば手っ取り早く強くなれるってことスか?!」

 思いついたことをそのまま口にしたバチが当たったか、頭に鈍い痛みが(ほとばし)る。猿川の硬い拳が深く突き刺さる。

「ふざけたこと言ってるようなヤツが神具に選ばれるか。そもそもアレに選ばれる人間はそう多くないし、探す労力と時間を訓練に使った方が手っ取り早い。分かったら黙ってかかってこい」

「押忍!」



 脇から抜き出す木刀は猿川の胴元へと飛び込む。

 抜刀術。剣術において最速かつ最強の技と呼ばれる技法。

 それを片手で撃ち落とされたとくれば相手の化け物具合が透けて見える。

「ちゃんと魔力強化してましたよね?!」

 転がされながらも一応確認を取る。もしや上手く魔力が乗せれていなかったのかも知れない可能性が。

「雑。ちゃんとメニューこなしたか?」

 ありませんでした。

 それどころか反感すら買った可能性が急速に上昇する音が聞こえた気がした。

「ちゃんとやってますよ!」

 上段に振り抜いた刀をそのままに振り下ろす。

 に、見せかけた中段への左の蹴り上げ。最初から木刀への警戒はなく、しっかりとぶつかる前で足を掴まれる。

 続けるように、放せと叫ぶように今度こそ木刀を袈裟へと向けて振り下ろす。

 足から離れた腕は猿川の全身を連れて紅葉に接近する。左手は刀を握った拳を左から右へと飛ばし、右手はガラ空きとなった下顎へと容赦なく掌底を。

 吹き飛びそうになる身体を無理くり動かしてバランスを取りながらの反時計回りの回し蹴り。裏拳で受け止められるが今度はそれなりにいいのが入った(紅葉体感)。

「『柱』」

 蹴りに続けて見えざる物質をぶつける。




 同刻。夕暮れのビル屋上。柵上、舞台の上で翻るは漆黒のタキシード、夕陽に照るは金糸の髪。逆光の先に覗くは嘲りの仮面。

 非常口に控えるは助手ではなく筋骨隆々の屠殺鬼。手に持つのは小道具ではなく片手斧。剥き出しに晒されているのはエンターテイメントの精神とは正反の嗜虐欲。

 舌舐めずるのはヒトゴロシのキマリからか、裏切りの制裁という名の下の私刑への興奮からか。

「…用があるなら手短に済ましてくれるかな、ジェフリーくん」

 振り向きざま、オッドは迷いなく何処からも知れず大鎌を抜く。返答次第ではすぐさまに刎ね飛ばせるように研ぎ澄まされた三日月が夕陽にギラつく。

「いやぁオレは別にお前に用はねぇんだけどよ、ボスがお前のことはぶっ殺してでも連れて来いってうるせぇからよ。だから仰せのとおりにぶっ殺してやろうってワケさ」

 どうやら手短には済まされないそうになさそうだ。

「残念だよ」

 声色が低い。

 胸ポケットから取り出した懐中時計を覗く。

「18時48分…頃合いだな」

 ()()懐中時計を見せびらかすように扱ってみせると、予想通り逆上したジェフリーがオッドに向かい突撃する。


 パチンと小気味良い音が鳴る。(ひさし)に手を添え整える。

「始めようか」

 金色の時計の飛翔。ジェフリーの頭へと向かう。

 目を逸らせば柵上に居たはずのオッドは音もなく姿を消す。

 唸るは大鎌。狙うは頸。

 構えるは手斧。狙うは頭。

 リーチの分大鎌が有利か、否、手斧は背後に現れたオッドの鎌に衝突し守備する。

 片方余った手斧は狙いを変えず脳天へと定め、走る。

 それは回転した大鎌が許さず、柄は非情にもジェフリーの脳天へと落ちる。

 続くのは上段、左の頬を狙う蹴り。大男が瞬間、揺らぐ。



 数メートル飛ぶ。というより蹴り飛ばされるもすぐさまに立ち直る。

(受け身の方が上手くなってね?)

 渾身の柱を使った攻撃も流れ作業さながらにさっさと受け流された。

「どうした?!疲れたならこれで終わりにするか?!」

(そう煽られたらはいとは言えないでしょーに)

 肩で息を吸い、吐き出しながら叫ぶ。

「まだ…まだぁ!」

 大きく踏み込み木刀を一文字に振り払う。一歩引かれただけで軽々と躱されたそれは行き場を失うことなく左切上へと走り続ける。切上げたら唐竹を割り、足を右へと運び左肘を突き出す。右は裏拳をぶつける。

 それらを飄々と避け、肘鉄には迷うことなしに右と、裏拳は左と掌で受け止める。合間を作らず互いに身体を向き合わせるが猿川の掌底が速く紅葉の鳩尾に突き刺さる。

 苦し紛れ。掌底の威力と咄嗟の後ろ飛びで足を引き摺りながら後退する。

 接近してこない猿川へと向けて不可視の鎖を振るう。鞭よろしくしなる鎖が猿川を襲うも的確に間をすり抜け躱される。

 夕暮れに二人の笑みが照らされる。



 立ち直り、払うは双斧。

 翻り十字を躱すはマジックか。妖しく嗤う仮面の奥すらも嘲ているように見える。

 鎌は回転を続け、遠心力そのままに袈裟を切り裂く。流れるのは鮮血。血で洗われた薄汚れた鮮やかな赤色が左の肩から胸骨までを切り捨てる。

 動転。

 屠殺鬼の動きが瞬間停止する。

 隙を与えれば格上の相手が許してくれることもなく一瞬にして接近。下顎に突き刺すのは右掌底。左は肘鉄を右胸に打ち付ける。



 反撃(カウンター)困惑。

 どれだけ徒手空拳で応戦しようと紅葉の拳も脚も猿川への決定打にはなり得ない。

 ゼロ距離での応戦。互いの殴打の応酬。否、ここまで来るとリンチか。

 純粋に手数で負ける。速度も重さも正確性でも負ける。

 ならば、と作戦を反撃(カウンター)重視に切り替え、捌くことに集中する。



 蹌踉(よろ)めく。

 屠殺鬼の動きにバグが生じる。

 バグが生じたならば叩いて直しましょ。悪い箇所(とこ)何処だ。頭か、心臓か、それとも腕、脚か。全身に構わず拳を、脚を殴りつける。

 肉が弾けて骨が折れる。




 狼狽。

 教師が見開かれる。

 生徒の動きが変わった。元より柔軟に様々に対応出来るように鍛えられたのだ。今は実力不足故に自分の流れを作ることは出来ずとも、合わせることは可能。合わせつつ反撃の機会を狙い、識別不能の弾丸を撃ち出す。



 後退。

 屠殺鬼は柵のある方へと接近。

 どこから現れたか、抜き身にされた銃身が照準がジェフリーを捉える。

「バン」

 火薬の香り立つ。硝煙が上る。鉛に似せた弾丸は額に命中。威力はそこまで高くない。即死は免れる。

「テメェ…!」

 柵にもたれかかり、落下を防いだジェフリーの頭に血が上る。真っ逆さまになった訳でもあるまいに。

 少し押してやれば自由落下一直線。

 仮面が嗤う。

「18時59分。こんなものか」

「ア?」

 逡巡、元より足りない脳内CPUがエラーを吐く。

 足元にはネオンライトに照らされた街を行き交う人々に固まったように動かずに画面を見つめる人々。

「47…48…49…50…」

 秒読み。足音は屠殺鬼へと寄ってくる。

 エラー吐きのCPUから正答が導かれることはない。

「なんだ?なんなんだ!寄るんじゃねぇ!」

 絶叫。

「57…58…59…」

 絶句。

 軽く肩を押すだけ。

 後は物理法則に任せて地面にダイブを。

「0」

 時刻は19時00分。

 屋上の人影は消え去る。



 衝突。

 木刀と裏拳が勢いよくぶつかり合い停止する。

 玉の汗が浮かんでは滲む。

 一息ついてから猿川の号令。

「よし。今日はここまで。途中からは良かったからあれを自分からやれるようになることをしばらくの目標にしな」

「…ッス」

 猿川が深呼吸する間に何度横隔膜を上下させたか。それでも呼吸は整わないながらに返事を。

(褒めてもらえた。このまま、もっと、もっと…強くなってやる…)

 膝に手を置き肩を揺らしながら決意を固める紅葉の目の前にタオルが差し出される。差し出された手は幾らか小さい。

「神河くん。これ…風邪ひいちゃうから」

 セミロングの黒髪が揺れ、瞳が映す表情がコロコロと変わる玉のような少女、静の手。心配した表情をしながらタオルを差し出す。

「サンキュー、ほんと助かるよ本間さん」

 遅い時間まで二人の自主練に付き合ってくれ、マネージャーの仕事をしてくれていた静に頭が上がらない。いや、ただ疲れ切ってるからか。

 感謝を伝えるとまた表情が変わった。



 激突。

 ジェフリーは八階建てビルの屋上から一台の自動車の上に落下した。落下の勢いで天井は軽く凹み、ジェフリーの口からは血が吹き出る。

 回転し、追撃するオッドを避ける。

 自動車は完全にひしゃげて、オッドが跳躍した次の瞬間には炎上し発破する。

 上がるのは悲鳴か歓声か。

 受け身を取り立ち上がるジェフリーに向かい勢いよく跳躍。

 鎌をジェフリーの正面に突きつけ行動を制限し、自身は軽く跳躍。鎌を軸に背後にぬるりと移動。流れるように肘鉄を右脇腹に打ちつけ、足を払う。鎌は勢いよく右から振るわれる。

 背中に血が滲む。痛みが皮膚を貫く。三日月が赤く輝く。

 行き交う人々は逃げ惑う者と愚かにも携帯端末を二人へと向ける者、泣き喚く者等々と様々。

「ガァッ!」

 手斧を振るう。片方は逆袈裟に、もう片方は左薙に、タイミングをずらして。

「馬鹿の一つ覚えだな」

 嘲笑する仮面。無情。

 ジェフリーの視界からオッドが外れる。滑らかに体を下へと滑らせ攻撃対象から外れる。

 視界の中に両の手がない。手首より先の感覚が無い。

 落ちたのは誰の手?誰の指?誰の血?

 枷がついたのだぁれ?

「いくら君でも前足を失うのは惜しいか。そうだな、これがなければお前の大好きな女も金も抱くことは叶わないだろうからな」

 立ち上がり胴へと突き刺す蹴りを穿つ。

「テメェはナニが目的だ…」

 蹌踉めくジェフリーが力無く問う。拳を失った腕を振るい応戦する。

 奇術師は静かに囁き、嗤う。

「ニュースはしかと確認しておくことだな」


 人々の頭上を屠殺鬼が飛ぶ。

 道路上に落下する屠殺機能を失った屠殺鬼は即座にオッドへと向かう。

 その目の前にはトランプカード。

「ハートの3」

 三連の爆破。その爆煙すらも切り裂く鎌が追撃する。

 かろうじて繰り出された上段への蹴りも上体を逸らして躱す。

 起き上がりざまに被っていたハット帽をジェフリーの顔面に突きつける。

 蹌踉めくジェフリーに打ちつけるは右肩に左脇腹、胸、鳩尾への正拳。極め付けに回転蹴りを加えては軽やかに飛んだハット帽を取り直して終い。

 ハット帽から取り出すのはジャックナイフ。

 振るうは拳のない拳。

 仮面に一撃、一滴の血が付着する。振り抜かれた腕は首を傾けられただけで容易く躱され掠りもしない。

 ジャックナイフはジェフリーの肝臓を貫いたと言うのに。

「ア…アァア!」

 窮鼠猫を噛むとはよく言ったもので、ジェフリーの頭突きが確かにオッドの首元を捉える。

 たったの一撃。されど確かにそれは『攻撃』として処理される。

 全身の筋肉が緊張し強張る。身動ぎ出来ない。

(『良心的屠殺(スタニング)』か!これは…!)

 彼の能力はまだ死んでなどいない。

 空虚な拳を地面に叩きつければコンクリの地面は割れ、大小様々に破片が舞う。

 効力が無くなれば乱雑に鎌を振るい付近の破片を砕き、切り尽くす。

 目の前のジェフリーはいない。

(破片をチャフにしたか)

 となれば背後。背後からの飛来物を柄で打ち上げる。

 破片。これらを殴り飛ばして投擲する。

 一つ一つを的確に処理する。

(おそらくはこの全てが『良心的屠殺(スタニング)』効果対象。一つでも受ければ隙を与えることになるな)

 殴って、蹴って、また殴って、殴り続け攻撃を続ける。

 切って、砕いて、打ち上げて、撃ち落とす。

 着々と二人の距離が縮まる。もう互いに間合いの一歩手前。迂闊に攻め込めば死か勝ち逃げかが決する。

 歓声に似た悲鳴が湧き上がっている。オーディエンスにサイレンが加わり熱が上がる。

「オレは賭け(ギャンブル)がしたかった訳じゃねぇ!安全圏からぶちのめしてえだけだ!だからテメェはくたばりやがれ!」

 号哭する。

 屠殺鬼が死への恐怖に狂っていては世話がない。

「そうか、ならば俺が君に本物の賭け事(勝負)と言うものを教えてやろう!さぁ来い、若僧!」

 大手を広げ声高らかに宣告する。両者ボルテージは充分に上がり切った。


 踏み込んだのはジェフリー。右手の大振りは嘲る仮面へと。

「賽を投げろ、武器を構えろ!闘うなら己の武器を示せ!」

 ひらりとそれを躱し左へ抜ける。すれ違いざま、喉笛に鎌柄をぶつける。

「金を賭けろ、命を賭けろ!ベット無しに得られるリターンなど有るものか!」

 左の足刀。中段へと向けて蹴り上げる。

 軽く跳躍し空振りに。そのまま鎌を振り抜き唐竹を割る。

「運は待たずに掴め!実力で勝利を引き寄せるものこそが真の“強者”である!」

 白目をむくジェフリーの右薙を払う。

 (はらわた)が露わになり溢れ、鮮血は周囲に撒き散らせ。

 呻き声にすらならない呻きを上げる。

 手を伸ばしたとて掴んでくれる神も仏もいやしない。いるのは地獄へと引き摺る死神だけ。

 最後に残されたカードはJOKER。決め打ちはJACKPOT。

「御来客の皆々様!今宵は私、オッドマウスのショーを観覧頂き誠に感謝する!()()()()、私の名を騙る悪党はこの通り処分してみせた!私はこれにて失礼するが、後のことは諸君に委ねる。それでは」

 そう残して奇術師は夜の闇の中に紛れ消えていく。

 警察隊も急ぎジェフリーの身柄を拘束し傷を手当てなどの後処理を進める。

 一連の出来事に呆気に取られる民衆の端末の画面には二等辺三角と二つの円、odd mouesの象徴(シンボル)に今日の日付と19時が示されている。



 翌日の一面はオッドマウスを正義か悪かと問う題目が飾り、世論は更に揺らぐ。

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