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虚の機繰  作者: 浮海海月
新人戦編
17/17

17.屍達の舞踏会序幕−幕引き−

 泥中に沈む。


 地獄を裸足で進む。


 例え業火に肌が灼かれようと、例えその身が焦がれようとも。


 地獄は『彼』の見知った景色とよく似ている。


 友と笑い合った教室。


 走り回って怒られた廊下。


 皆で残った図書室。


 彼女を待った正面玄関。


 部室も、校庭も、体育館も、トイレも。


 よく似ている。



 重い…



『彼』の背を、脚を引く手は無数に増えて、全身が黒く濁っている。



 泥中に沈む。


 呼吸すらも赦されず、絶え絶えに歩く。


 吸って吐く、それだけの行いですらお前には罪深い。


 生きるな。


 生を捨てろ。


 命を享受することさえ烏滸がましい。



 苦しい…辛い…



 苦痛をフルコースで食す。


 カトラリーは辛酸。


 彼女も喜ぶフルコース。


 お前に悦など与えない。



 業火の上を歩く。


 見知った景色は変わり果て正しく地の底と云うに相応しい様に。


『彼』を引く力が増す。


 足を止めることは出来ずに溶けきった罪と岩肌の上を進み続ける。


 顔を上げれば見えてくる。


 出口。


『彼』の目的地。


『――――――』の原罪の眠る場所。


 思い出したくない。


 けれど脳裏について離れない穢れになったのは誰のせい?


 お前だろう。


 よく噛み締めて味わうと良い。


 あの子らの苦痛は、怨念はこんな物では済まされない。


 出口に光はない。



 助けて…



 死にたい…



 海底に沈む。


 身体にのし掛かるのは重圧。


 空気はなく、泡を吐きながら歩みを進める。


 朦朧とした意識の中で漠然とした死亡希望を抱いている。


 己の身が朽ちることを望んでいる。


 自分では出来ないくせに。



 泥中に散る。


 辿り着いたのは暗闇に照らされたスライド扉。


 ふざけてぶつかって簡単に外れるあの扉。


 開けば見えてくるあの日の光景。



「見るな」



 扉を開ける。


 脚を踏み入れる。



「入っちゃダメだ」



 地獄に堕ちる。


 それが『彼』に最も相応しい居場所だから。



「見ちゃダメだ、――――――」



 ここは何処だっけ



 見渡せば窓の外には夕暮れの斜陽が浮かび、遮光のカーテンの裏から教室の中を赤く染めている。


 ひぐらしが五月蝿い。八月の暮。


 座席表には見慣れたいつもの名前。



 ああ、そっか


 ここか、ここだったっけ



 教室の中は先刻までいたあの教室よりも酷く、綺麗だった。


 カーテンは窓の隙間から吹く息吹に喜び舞い踊り、机たちは整列し居場所を守っている。


 唯、『彼』の心を抉るのは中心にいる。


 唯一人の人間が『彼』を締め付ける。



「見るな」



 目を閉じることは赦されていない



 目を見開いた。


「なんで…?あれ?どうして…?」


 中心にいるのは少女。


『彼』もよく知る一人の少女。


 手が震える。


「思い出せない。なんで?分からない…」


 身体が震える。顔を覆う。


 少女は倒れ、虚ろな目をして体には力が入っていない様子だった。


 記憶の奔流。


『彼』の脳内を震わすのはあの日の断片。


 そうだ


 そうだった


 俺はここで、


 彼女を


『――――――』を、



 壊した



―――――――――――――――――――――――――


 最悪の気分で目を覚ます。横ばいのままの体には冷や汗が結露し、微かに震えている。

 見覚えのない天井。触り心地の知らない掛け布。

「お、起きた」

 授業中に寝ていた人間でも見ているような感じで喋っているが「あんた三日も寝てたのよ!心配させたからしばらく私の言いなりね」とか言っていた。

(ならもっとリアクションしてもらいたいとこだったけどな)

「あんたそこで寝てなさいよ。私は先生とお母さんたち呼んでくるから」

 深雪はここが病院であること、紅葉の怪我の具合のこと、他にも被害が出ていること、聞けば分かる範疇で教えてくれた。

 一通り聞き終わったら足早に走っていってしまったが。

 いや、戻ってきた。スライド式の扉からひょっこり肩から上だけを覗かせて帰ってきた。

「そーいえばさ、あんたさっきすっごいうなされてたけど、どんな夢見てたのよ?」

「夢…?」

 なんて言えば良いのだろう。

 正直なところあまり人に話すような内容でもないのだけれど…

「あれ…?」

「?」

 深雪の顔に明らかにハテナマークが浮かぶ。明らかすぎて「?」なんて書いてしまうくらいにはっきりと。

 紅葉の顔に苦渋の表情が浮かぶ。

 歯と歯の間に挟まった何かが取れない、そんな表情を浮かべて――

「どんなだっけ?」



「処置があと五分遅かったら死んでましたよ」

 それが担当医師から告げられた印象的な言葉だった。聞いたところによると紅葉の怪我の状態は心臓に穴が空いて肋ボロボロ、出血多量。

 心臓の穴は猿山が塞いだらしく、出血もそこである程度抑えられていたようだが、危篤は危篤。

 割とちゃんと死にかけてたらしい。

 しかし、こんな時にもあの両親は呑気なもので、

「流石私の子供!よーく生きて帰ってきたね!」とか「父さんのパンのお陰だな」とか言っていた。

(喜んでるのは伝わるから嫌な気はしないんだけどなぁ…)

 そう、嫌な気はしない。

 ただ少し、ほんの少し、場所を選んで欲しい。

 ああ、ほら違うんですよ、先生。オレはこれより多少はまともなんです。まとも…ですよね?

「おじさんもおばさんも嬉しいのは分かるんだけどちょっと落ち着いて!まずは紅葉に色々説明しなくちゃいけないことがあるでしょ!」

 軽く起こされてからずっと両親に撫で回されていた体が深雪の割り込みによってようやく解放されて、改めてここが病院であることを知覚する。

 猿川ともこれで初めて目が合った。どこか息苦しさを覚えていそうな面持ちだったが。

「…家族仲が良くてなによりだな」

 先生、誤魔化しきれてないです。


 医者から受けた説明は主に入院のこと。

 傷自体はどうにか治りはしたが、やはり大怪我は大怪我なので念の為にもしばらくはここで様子を見ること、その間の運動等は控えることなどを説明された。

 両親もその説明を受けた後、もう一頻(ひとしき)り息子の無事を祝った。今度はスキンシップ控えめで。

 軽く頭を撫でてから父と母は帰路に着いた。


 開いたままの扉。

 昼前の揺蕩う光のベールと明るい声が靡いている扉。

「…よう」

 透馬は控えめにそこから顔を出した。

「おー!トウマー!元気そうじゃん!」

 変わらぬ笑顔でグーサインを作る紅葉に、いつもより大人しく「お前もな」と返す。

「よし、これで全員揃ったかな。それじゃ改めて現状の共有をしておくから」


「俺が二人の回収に行ったのは丁度切頭が気失ったくらい。紅葉は心臓貫かれてて、恐竜の子は奮闘してたけどジリ貧の状態だった。敵は俺の到着を確認して逃げ仰せたよ」

 紅葉の心臓を埋めたのは猿川の治療魔法だった。

 おそらく、敵を逃してしまったのは三人の負傷者のせいだろう。

 本来であればあの場で捕らえることだって出来たかもしれないのに、と自分の未熟さと弱さに憤慨する。

 しかし、猿川の口は止まらず情報を流し込み続ける。

「そんで、今は事件の日から三日が経ってる。切頭は割とすぐに起きたけど神河はそうはいかなったかな」

 まあ、怪我の度合いはお前の方がひどかったから、なんてフォローもついでに。

「三日?!三日も寝てたんスかオレ?!」

 そしてここでようやく自身の状態の重大さを自覚した。

 正直フォローはロクに聞いてなかったし効いてなかった。

「そ、三日。相川と本間には後でお礼言っておけよ、色々手伝ってくれてたから。切頭もな」

 勝ち誇った顔の深雪が視界の隅っこに映る。さっきまではちゃんと言おうとしていた言葉が引っ込んでいく気がした。

(本間さんには後でお礼しとくか)

 後に、後頭部に大きなタンコブが浮かんだのはここだけの話にしておこう。


「それで、ここからはちゃんと聞いておいてくれよ」

 猿川の顔が至って真剣そのものにすり替わる。

 先程までのどこかゆるい雰囲気のあった病室にも緊張が走る。

 猿川の口が開いた。

 紅葉の口も。

 透馬も深雪も、知らなかったのか知らされていなかったのか。

「明星の意識がまだ戻っていない」

 それは恩を受けた先達の不幸だった。



―――――――――――――――――――――――――



 紅葉が目を覚ます数分前。とある病室の前に一人の教師と生徒が並ぶ。

 生徒は力無く病室前のベンチに腰を掛け、教師はそこからそう遠くない距離で壁にもたれている。

 互いに思うところがある。

 言いたいことも、言って欲しいことも。

 沈黙が重く、二人の両肩にのし掛かっている。

「…俺のせいです」

 沈黙を破ったのは生徒の方だった。

 力無く吐いた言葉は二人の間を揺蕩い、教師の下へと辿り着く。

「一人称、直してるんじゃなかったっけ?」

 揺蕩う言葉に揶揄うように音を返す。

 生徒は思っても見なかった返事に驚き目を丸くしたが、お陰で二人の間にあったしこりが落ちた気がした。

「…僕のせいです」

「お、言い直した。律儀だね、ホント」

 一息ついてから放った言葉にも軽いものが乗っかって返ってくる。

 教師も教師なりに気を遣っているのだろう。

 元より変に責任を、負い目を感じてしまいがちな思春期真っ只中の生徒たちの肩荷を担ってやろうと、少しでも軽くしてやろうと思っての軽口だろう。

 真面目な話はその後でいい。


「別にお前は何も悪くない。今回は俺たち…大人の責任だよ。『ホール』に侵入を許したのも、その事実に気づくのに時間がかかったこと、対応が後手に回り過ぎてたこと、どれをとってもお前は何も悪くない。寧ろよくやった方だろ」

(S級とはいえまだ学生。経験値はまだ少ない方で格上相手に競り合った。よくやったよ、ほんとに)

「お前のおかげで相手の能力に戦い方、それに残渣までもが明らかになったんだ。これだけでも十分な活躍だよ。それこそ、そこら辺のやつじゃこうはいかないような、ね」

 賞賛、というよりは頑張った成果を出しきれなかった子どもを元気付けるように褒める。


 それでも他のことは何でも卒なくこなす彼であっても自分を慰め、許すことだけは力也には出来なかった。

「でも、俺…僕がもっと気を付けておけば、油断なんてしなければ… 神具を盗られることはなかったかも知れない、人死にだってあんなに出さずに済んだかも知れない…のに」

 言いかける生徒の頭に少し強めに手が添えられる。強引に、それでいて優しく温かいその手は大人びた子どもの頭をくしゃくしゃと撫でる。

「自分の力を過信しすぎなんだよ、お前は。周りがお前をおだててもそれに応える義務なんてどこにもないだろ」

(それでも悔しいもんは悔しいだろうがな)

 この子は強い、それもすごく。だからこそかかってくるプレッシャーというのはあるだろう。そして、それに応えようとすればする程に―



 ガラスの窓の奥を覗けば見えてくるのは淡い水色のボブカットヘアーに、今はアザや傷が目立つが凛と整った顔立ち。

 ―ひばり。

 沢山のチューブや機械に繋がれた明星ひばりがそこにいる。


「ー僕がやらなくちゃいけなかったんです」


―――――――――――――――――――――――――


「センパイが目を覚さないって…どういうことスか?!」

 声を荒げてでも問いただしたい。

 あれだけ手を交えて来ても一本も取れなかった人が、あんなにも強い人が、自分の憧れた人が。

 何故?何があってそんなことになった?

 荒ぶるのは不可解ゆえ。

「どういうこともなにも戦って気失って、そこから目覚めないんだよ。怪我の度合いが東間高校(うち)の中じゃダントツで酷かったのもあるけど、一番は呪いのせいだろうな」

 呪い。

 それはこの世の中を跋扈(ばっこ)する魔法の中で解除が困難な物、ないしは不可能な物を指す。

 その殆どが人類の魔法系体の外に位置しているがために、理解が遠く及んでおらず解呪方を探すことすらも難解を極めることが多い。

 そんなものがひばりにかけられている。

「そんなん納得いかねえ!誰が!どうしてそんなことを―――ッ!」

「まだ傷埋まりきってないのに騒ぐから…ほら、ちょっとは落ち着きなさいよ」

 痛むは紅葉の傷だらけの体の方か、心の方か、もしくはその両方か。

 声を荒げてしまったのが傷に触ったのか鈍い感覚に呻く。

「納得いかないのはそりゃ理解るよ。だけどそれはお前だけのもんじゃない。違うんだよ、神河」

 苦虫を噛み潰したような顔の猿川も、顔を俯け表情の窺えない透馬も、不安げな深雪も、まだ飲み込みきれてない紅葉も、異能部の全員が同じことを思っていただろう。

「あぁ!クソ!ワケ分っかんねえ!」


 東間高校は今回の一件での被害者を最小の『死傷者三人、重傷三人、軽傷十四人』に抑えた。

 ―しかし、その代償として失ったものはかなり大きかった。


 白く、閑古鳥の鳴く病室の中で一人の咆哮が鳴り響いていた。


―――――――――――――――――――――――――


 事件収束五日後、紅葉が目を覚ましてから一日後。

 BMC主要部ー


 薄暗い部屋の中、青白い画面の光を背に受けた八人の人影が二人を囲う。

 重い緊張が張り詰めた室内に若輩者と老婆が立ち尽くす。

「先の一件、どう落とし前をつけるつもりだ?」

 しゃがれた声は低く放たれ、二人の中に響き渡る。

「あの一件でこちらはロクな成果を上げることも叶わんかったようだな。結果は完敗、被害者は学生、イクサビト含めて約40人に加えて、負傷者はこれの倍に及ぶ。おまけに神具と優勝賞品の強奪と来ている。弁明の余地はないぞ」

 先の一件、ホール内で行われた異能部の新人戦を狙った襲撃事件。

 そこで発生した人的被害、及びに物的被害は多岐にわたる。

 未来ある高校生達、力有る戦士達を失い、強力な神具

『比比羅木之八尋矛』までをも失ってしまったこと。これらは確実にBMCの失態として銘を刻まれることだろう。

「弁明も何もするつもりはないよ。あの時はあれが最善だった。相手の目的が分からない以上、変に混乱を拡大させて限られてるホールの出口に人が殺到するよりも静かに終わらせるか内に留めて終わらせるかの二択が最も安全に捕らえられるからね」

 ホールの特性上、一つのホールの外縁には必ず()のような物が存在している。

 人も魔物もそこから出入りするため、ホール内でパニックが生じれば必ずその穴に数が集中する。

 人を隠すなら人の中。こうなればいとも容易く襲撃犯たちは人混みに紛れ脱走を果たしていただろう。

「もし奴らの目的が人殺しだって分かってたら全力で外に避難させてましたよ。だとしてもあそこにいる人間の半分以上が未熟な子供なんだ、本物(マジ)の事件に冷静になってられる訳もないし、静かにやりますけど」

 生憎、猿川にはこの場に張り詰めた緊張もさして効いておらず飄々とした態度でいる。

()()?その割には凄惨な結末になったものだな。猿川、君がいながらこの被害。愛する生徒の命は随分と軽いと見えるな」

 逡巡、猿川の表情が歪む。しかし、手も口も出さない。耐える。

「…これ以上要件がないのであればこれで失礼させてもらう。じゃ、夜道には気をつけなよジジイたち」

 張り詰めた空気の部屋の中から光指す廊下へと二人が出ていく。その影に何かを隠して。



―――――――――――――――――――――――――



 病室。

 三人の子供たちだけが残った狭い部屋の中でポツリと透馬が漏らしたように呟く。

 それは静かな部屋に反響して紅葉の耳にも残る。

「…悪い、モミジ」

「トーマは悪くねーだろ。オレのケガはオレが弱いせいだろ。トーマは悪くねーよ」

「いや、俺のせいだよ」

「だから…!」

 バツの悪そうな顔。

 さっきから顔も見ずに話していたせいで全く気づかなかった透馬の表情。

(オレ今どんな顔してんだ…?)

「俺の方が経験もあった。お前よりよっぽど力だってあったんだ。とっくに差なんて埋まってたけど、それでも()()()真っ先に動かなきゃいけないのは俺だったんだ。お前じゃないはずだったんだよ」

「ちげーよ」

 少し気が立っていたかも知れない。

 ひばりの様子も気になるしまだ頭の整理もついてないしで少々荒ぶっていたかも知れない。

 だから、一息置いてから落ち着いて言葉を放つ。一つ一つしっかりと選んで。

「トーマのせいじゃない。オマエだって結局は戻ってきてくれたじゃんか。それは何も間違ってないだろ。それに、オレは何も知らないから動けただけだ。何も知らないから逃げずに戦っちまった。今じゃもう戦える気もしねーよ。だから、戻ってきたトーマはすげーよ」

 柔らかい微笑みを透馬に向ける。

 今言った言葉に嘘はない。寧ろ、本音にすら近い。それはこれからも。

 紅葉が凄いと言った透馬と、透馬が認める勇気を持った紅葉ならきっと出来るだろう。

「だから、今度こそ二人でアイツぶっ倒してやろーぜ!」

 いつかの約束。

 二人の突き出した拳は辿々しく重なった。



―――――――――――――――――――――――――



ホール内に一つ取り残されたドローン。

その一つが遠く離れた管制室へと一つの記録を残す。


砂嵐の吹く画面。記録の中のノイズが映像を乱す。

二、三転明滅を繰り返してようやく映像を映し出す。室内の職員たちも皆記録を残そうと躍起になっている。

ノイズ混じり、砂嵐の中から人影が現れる。

黒のタキシードにモノクロの仮面。金糸の髪が揺れ、ハット帽に拵えた鳥のアクセントが輝く。

「やあ、諸君。我々のショーはご満悦いただけただろうか。…随分と気に入ってもらえたようで何よりだ。さて、このまま暫しの間談笑といきたいところではあるが、生憎仕事があるのでね早速本題に移らせてもらおうか」

荒れた背景の中、奇術師と一人の女が画面に残る。

全身を黒のドレスで包み、頭と手はレースで覆い、ヴェールから映える緋色の長髪と隙間から覗く深紅の瞳が魅了する。上背はそこまではない。平均より小さいくらいの少女。

と、仕事をおろそかにしてはいけない。さっさと記録に戻る。

「それでは…」

奇術師がわざとらしく喉を鳴らす。本波が来る。

「レディース&ジェントルメン!君たちには我々『オッドマウス』の活躍を目に焼き付けてもらおう!手始めに先ずは…そうだな、この国一番の貴族を潰して見せようか。さあ!チャンネルはそのまま、どうか今後とも我らのショーを…お楽しみに」

また、この映像は十秒後に破棄されることになっている…

画面に砂嵐が戻り、人影は跡形もなく消え去った。



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