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捕らわれの美術準備室

【光の檻、影の檻】


放課後の廊下はしんと静まり返り、蛍光灯の明滅が老朽化した校舎の脈拍のように点滅していた。


美香は、四階の美術室の奥、準備室の扉をそっと開けた。重い引き戸の音が、空間の静けさを裂く。


美術準備室――そこは細長く、使い込まれたイーゼルや石膏像、木炭の匂いに満ちた、時間の止まったような部屋だった。


窓のカーテンは半分ほど閉じられ、外の光はそこに浮かぶ埃を照らすばかり。だが、南向きのガラスをいっぱいに開け放てば、眩しいほどの午後の陽光が差し込み、陰影の輪郭を際立たせた。


諏訪男はすでにそこにいた。白衣のようなスモックを羽織り、机の上に一枚の写真を置いていた。


「……座れ。補習をはじめる」


彼が差し出したのは、かつて授業で何度も取り上げたマイヨールの彫像とらわれのアクション。その女性像は、縄に縛られながらも、どこか甘美な苦悶を湛えていた。


「描くのではない。今日は……“見る”側ではなく、“在る”側を体験してもらう」


美香は眉をひそめた。


「モデルに、なる……んですか?」

「そうだ。お前はまだ本当の意味で“描く者の視点”に立っていない」


諏訪男の声は、決して怒気を含まない。むしろ、教師としての熱意のようなものすら帯びていた。


「この像のポーズを、再現してくれ。自分がどう“かたち”として空間に在るか、知るには、それが一番手っ取り早い」


言い訳のような、しかし周到に準備された台詞だった。


美香は戸惑いながらも頷いた。諏訪男が示すものに、まだ明確な悪意は見えなかった。ただ、胸の奥で何かが鈍く警告を発していた。


「それと……服装だが」


諏訪男は目を細めた。


「授業でも言ってきたが、人体の構造を学ぶには、ジャージのような余分な布では意味がない。“夏服”でないと」


その言葉は、かねてより彼が美術の授業で繰り返してきた理屈だった。


「“夏服”が一番、線が見える」


美香はわずかにためらった。しかし、それは命令ではなく“指導”であり、反論の余地を与えられたふうを装っていた。


【夏服の官能劇】


美香は無言でジャージのファスナーに指をかけた。


美術準備室の窓から差し込む午後の陽射しが、額に滲む汗をやわらかく照らしている。


ファスナーが静かに音を立て、肩をすくめるようにして脱いだ上着から、熱のこもった空気がふわりと立ち上った。白い夏服のシャツの襟元から、体温がゆっくりと外の空気にとけていく。


上着を脱いだ美香の夏服の体操着の白い半袖シャツは、彼女の胸の輪郭を容赦なく浮かび上がらせた。


午後の斜光が硝子を溶かすように準備室に流れ込み、シャツの薄い生地を通して、彼女の乳房の下縁に鋭い陰影のラインを刻んでいた。


彼女は上履きを脱ぎ、ジャージのパンツのウエストバンドの内側に指を滑り込ませ、臀部にぴったりと張りついた伸縮性のある生地をゆっくりと押し広げながら、慎重に下ろしていく。


汗ばんだ肌が少しずつ解き放たれ、冷たさと温もりが交錯するその瞬間に、彼女の息づかいが静かに揺れた。


ふくらみのある臀部がブルマの薄い生地に包まれたまま浮かび上がり、太腿のなめらかな曲線が陽光を弾いた。


ジャージを脱いだ瞬間、張り詰めた肌とブルマのコントラストが空中に白い楔を打ち込んだようだ。


鼠径部から隆起する恥骨の輪郭が、白い半袖シャツの裾の下から、呼吸するたびにその陰影を変えていた。


ブルマのゴムが食い込んだ辺りから、新雪のような肌がくっきりと浮かび上がり、まるで暗闇に浮かんだ蒼い星座のように、動くたびに腿の内側の柔らかな膨らみが、光の粒子を弾き飛ばすように揺れた。


ふと彼女が膝をすぼめた時、腿の付け根のしわが紡いだ闇が、逆三角形の頂点をさらに鋭くしていく。


まるで午後の密室で、白亜の彫刻が突然息を吹き返したかのような生々しさだった。


【解剖者のまなざし】


諏訪男はその様子をじっと見つめ、爬虫類のような冷たい目で、まるでメスで切り開くかのように、美香の肢体を執拗にイメージの中で解剖していた。


諏訪男はすでに彼女の輪郭、骨格、癖、呼吸の仕方さえも観察し尽くしていたようだった。


彼の視線は夏用体操着の食い込んだ縁を這い、布地と肌の境界線で蠢く汗の粒を数え、半袖シャツの下で揺れる乳房の重みを計測していた。


大腿部の内側に浮かぶ静脈の青さ、肩甲骨が羽ばたくように動く時の背中の襞、鎖骨の窪みに溜まる汗の軌跡。倒錯者の欲望の視線は、体操着の下の彼女の裸身を透視するX線のようだった。


「……では、はじめよう。」


準備室の窓ガラスに、二人の姿が歪んで映る。


まるでルネサンスの工房で師匠が弟子を指導する図のようであり、同時に、何か禁忌を犯す前の静かな瞬間のようでもあった。


「……では、このポーズを……両手を背中へまわせ」


諏訪男は一枚の写真を取り出した。《とらわれのアクション》──女体がねじれ、腕を背に回し、どこか諦めたような表情で立ち尽くす裸婦像。それは、抗わぬ者の象徴のようだった。


【目に見えない縄】


諏訪男は、ためらいがちに震える体操着姿の美香の両腕を背中へと導き、そっとねじり上げて手首を重ねた。


抵抗は、ごく微かな熱のように彼の指先に伝わっていた。


彼女の半袖シャツはわずかに捲れ、背中の起伏をなぞるように光が這った。ブルマの縁が太腿を締め、呼吸が乱れた。


美香の両腕は背中でぴたりと交差し、「指導」という「目に見えない縄」が存在するかのように、がっちりと後ろ手に縛られていた。


肘は鋭角に折れ、その姿勢が肩甲骨をくっきりと浮かび上がらせ、二つの乳房を強く前に突き出していた。拘束されることで開かれる身体──その矛盾が、見る者の意識にじっとりと絡みついてくる。


「昭和の体操着」に包まれた彼女の肢体は、鼠径部から肋骨へと滑るように続く曲線が、少女の身体が未成熟さと官能性を同時に孕むことを暴き出していた。


へそから恥骨へと流れる、逆三角形の陰影――。

それは、白い半袖シャツに覆われた上半身と、紺色のブルマが包む下半身。その白と濃紺の鮮烈なコントラストによって、いっそう際立って見えた。


堂々と開かされた両脚は、内側から張り詰めるような緊張が走り、大腿のふくらみ、ふくらはぎの張り、太腿はいまにも弾けそうなほどに膨らんでいた。


その姿勢からは、彼女の「逃れようとする意志」が、むしろ甘美な従順として浮かび上がる。


諏訪男はいつまでも見飽きることなく、耽溺した表情で舐め尽くすような視線を美香に向けていた。彼の視線は衣服を透かし、骨格を撫で、肉体を剥いでゆく。


【溶解した欲望】


美術準備室に降り注ぐ午後の光は、美香の身体を解剖台に固定し、その生のありようを残酷なまでに可視化する──


「もっと堂々と....脚を開いて」


開かれた腿間の暗部は、かえって深い闇として強調され、光との境界線に微かな震えを生じさせていた。


諏訪男の指先が、美香の開脚姿勢を「調整する」ふりをしながら、ブルマのナイロン地に刻まれた腿の皺をなぞる。その動きは解剖学者のようであり、同時に密林を探索する探検家のようだった。


開脚を強いられた美香の太腿内側に、諏訪男の指が蛇のように這い上がる。


その動きは一見、「ポーズ指導」という美術教師の役割に隠された正当なもののように見えたが、その裏側には明らかに教育の枠を超えた何かが潜んでいた。


窓からの日差しが美香の開かれた股間を貫く。


その光は残酷なほどに鮮明で、ブルマのナイロン生地はもはや衣服としての機能を失い、生体を晒すための薄いヴェールと化していた。


太陽光は皮下3mmまで侵入し、大腿静脈の分岐を浮かび上がらせ、「公式指定」の紺色の体操着は逆光によって事実上透明化し、クロッチの縫い目は陰唇の形状に密着して、縫合痕のように皮膚に刻印される。


教育委員会が規定した「適正な覆い」は逆説的に性的想像を刺激し、運動機能を優先した設計は陰部の形状をさらに強調する。


諏訪男の瞳孔は3mm拡大し、彼の喉仏が不自然に上下した。


【「指導」という名の触手】


美香の心には、「内申点のため」と自らに言い聞かせる冷静な打算と、「芸術のため」という優等生としての仮面が張りついていた。だがその下では、触れられるたびに走る微かな震えが、言い訳では覆いきれない何かをゆっくりと芽吹かせていた。


紺のブルマが腰をなぞるように食い込み、その下に隠された白の小さな秘密を、まるで意地悪く押しつけるように縁取っていた。微かに張り出したその端からは、白いレースの下着の縁が息をするように顔を覗かせていた。


それを見た諏訪男は、反射的にその触手のような指先でそっとブルマの縁をめくった。


ほんの数ミリ布がずれたその瞬間、彼女の臀部を覆う下着が白い光を放ち、室内の空気が一変した。


そこに漂っていた静謐さは、濃密な緊張へと染まり変わった。


「……先生」


美香の膝ががくんと傾く。


それを諏訪男の手が素早く支える──その動作自体は正しい補助だったが、掌の位置が明らかに大腿部の必要以上に「高い位置」に固定されている。


「……すみ……ません」


美香のその声は、抗議でも感謝でもなく、ただこの曖昧な状況そのものへの困惑だった。


彼女の瞳孔が開き、額に浮かんだ汗が、午後の光に照らされてきらめく。


窓の外からは、まるで遠い世界の出来事のように、野球部の歓声が響いてきた。


その無邪気な声の波は、ここで繰り広げられている静かな侵犯の残酷な対比となり、美術準備室の閉鎖空間に深い影を落としていた。


【「教育」という名の辱め】


美香は何も言わなかった。できなかった。ただ、時間が過ぎるのを待った。


彼女の思考は、終わりの見えない迷路を彷徨っていた。自分は何を責められているのか。どこが悪いのか。その答えのない問いが、頭の中をぐるぐると回り続ける。


与えられた反省文は、まるで「罰」の仮面をかぶった偽りの文章だった。


それよりも、諏訪男による補修授業──彼の手による「追加刑」こそが、本当の罰として彼女の身体に刻まれていた。だがそれは理不尽なものであり、何かが間違っているという感覚も確かにあった。


美香はその場で恥辱的なポーズを強いられ、教育という名のもとに辱めを受けていた。


その理由は家庭の事情と、そこから逃げるように外出したことだった。なぜそれほどまでに重い罰を受けなければならないのか──理解できないまま、彼女はその「罪」を背負わされていた。


(私の、何が悪いの?)


心の中で問いかけたその言葉は、ただの疑問ではなかった。もはや彼女にとって、それは自分の行動を問うものではなく、自分という存在そのものを見つめ直す問いへと変わっていた。


【罪と罰のパラドックス】


いつ終わるとも知れない「特別補修」の時間のなかで、美香の意識はじわじわと麻痺していった。


時計の針の音だけが、かすかな律動となって、時間の終わりを告げることなく空気を打ち続ける。


美香はついに問いかけた。声は擦れ、しかしはっきりと。


「これは……何の罰なんですか?」


諏訪男は静かに顔を上げた。その瞳には、怒りとも苛立ちともつかない、不思議な色が宿っていた。


「お前は……先生のことを、たいして好いてはいないんだろう。それは日頃の態度からも分かっている」

「けれどな、池本。先生はお前のことを、娘のように思っている。だが、お前はそれが分かっていない。その素直でない心持ちが——今回のようなことを引き起こすんだ」


その言葉は、形なき暴力のようであり、歪んだ父性の皮をかぶった愛情のようでもあった。


「そうだ。……お前の……この身体こそが罪なんだ」

「お前のような身体は、本来なら……もっとひどく罰せられるべきだ」


諏訪男の言葉が、美術室の石膏像に冷たく反響した。


その瞬間、美香の内側で何かが音を立ててひっくり返った。


わかったようでわからない。それでも確かに、この痛みと共にあるときだけ、自分の存在が輪郭を持つ気がした。


「それが……私の……罪ですか?」


自分でも驚くほど自然に、口をついて出たその言葉。


その問いは、彼女の奥深くに眠る感情と欲望を、ほんの少しだけ顕在化させた。


罰されること。それは苦痛であると同時に、彼女が自分自身でいられる唯一の時間かもしれなかった。


遠く、廊下から放課後の笑い声が聞こえる。


その明るさが、かえってこの空間の異質さを際立たせる。


彼女にとって「罰」とは、もはや他者から与えられる刑罰ではなく、自ら選び取る存在証明になりつつあった。


その逆説は、快楽でも悦びでもなく、ただ静かに、自分の深部を震わせていた。


そしてその震えこそが、美香を彼女自身として確かに立たせていたのだった。


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