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教室を越えた支配

【教室を越えた支配】


美術教室での逸脱は、諏訪男の中でとうとう制御不能となり、ついには全校集会という公然の舞台にまで踏み出していた。


当時のその中学校では、午後になると、生徒たちが一堂に会して行う「全校ストレッチ」という奇妙な習慣が存在していた。


本来ならば保健体育の教員が、均整と規律をもって指導すべきその場に、諏訪男はいつの間にか混ざり込んでいた。


あたかも、自身がそこで何か「指導」をする役目を担っているとでも言うように。


紺のスーツから白ジャージに着替えた姿は、かえって彼の異質性を際立たせた。


彼は美術教室を飛び出し、いつの間にかこの保健体育の時間に侵入していた。まるで嗅ぎつけた獲物の前に滑り込む野獣のように。


美術教師が「ストレッチ」に執拗に介入する不自然さ。


女生徒たちは諏訪男が背後に立つたび、無意識に肩を硬くした。彼の気配が背後に立つたび、ぴくりと肩が揺れ、太腿の内側に微かな緊張が走る。


「もっと深く……そう、その角度で」


諏訪男の「指導」は、もはや教育という名を借りた官能の儀式だった。


校庭の光が全てを照らし出し、晒し、そして──諏訪男の眼だけが、その生々しい美しさを貪り尽くす。


【午後の校庭──「指導」という名の公開陵辱】


午後の校庭で股割りをする女生徒の肢体は、光に晒された標本のように無防備だった。


大腿の内側に走る毛細血管が、薄紫の樹枝状の模様を描き出し、鼠径部のリンパ節の膨らみが影絵のように浮かび上がる。


対照的に、ブルマの股間の中央には影の縦線が走り、光と闇の境界をくっきりと際立たせていた。


諏訪男はブルマ姿で開脚の姿勢をとる女生徒にゆっくり近づき、その太い指で彼女の太腿を鷲掴みにした。思春期の肉体は一瞬、びくりと震えた。


「もっと大きく開いて」──彼の声は正当性を装いながらも、どこか湿り気を含み、彼の動作には不自然な熱が込められていた。


諏訪男の掌が、女生徒の汗ばんだ腿の内側に張り付く。


彼の指が女生徒の太腿の内側をなぞり、いつの間にか急所へと滑り込んでいく。女生徒の膝小僧が微かに震え、ブルマのゴムが腿肉に食い込みながら不自然な襞を作る。


諏訪男の指先は、「指導」と称しながら、女生徒の太腿を行きつ戻りつなぞっていた。


やがてその目が、彼女のブルマのクロッチに滲んだ濃いシミの輪郭をなぞる。


その瞬間、彼の爬虫類のような瞳孔がすっと開いた──周囲の者たちは、皆その兆しを知っていた。


女生徒の喉奥で押し殺された息遣い──その光景を、午後の陽光が無惨な儀式のように照らし出していた。


【誰もが見て見ぬふりをする「義務」】


周囲の空気が張り詰める。男子生徒たちの冷笑が起こるたび、諏訪男は一瞬手を止め、潮時と悟ったように不自然に頷く。そしてまた、新たな『犠牲者』を求めて、次の列へと移動していった。


教員たちは、見ていないふりをしていた。


“彼は美術の教師なのだから、本来関係ない場面だ”誰もが心のどこかでそう思いながら、けれど口には出さなかった。


そこにあるのは、責任の所在をあいまいにした組織の沈黙。その沈黙こそが、諏訪男の行為をさらに“正当化”し、許容する温床になっていた。


「諏訪男は変態」──生徒たちの間では、そんな軽口が公然と交わされていた。


しかしそんな声さえ、むしろ彼の耳には甘美な賛美と化していた。集団の黙認が欲望に油を注ぐことを、この男は本能で理解していたのだ。


誰も何も言わない。いや、言えなかったのかもしれない。

誰も止めなかったがゆえに完成してしまった、ひとつの“構造的な暴力”だったのだ。


【沈黙の構造】


諏訪男の異常な授業――それを最初に「おかしい」と口にしたのは、ある女生徒の母親だった。


娘が震える声で語った「美術室での出来事」に、彼女は最初、言葉を失ったという。けれども、事実を確かめるべく学校に足を運んだ彼女は、職員室で見たものにさらに打ちのめされた。


教師たちは目をそらし、校長は曖昧な笑みを浮かべながらこう言った。


「……まあ、あの先生は昔からちょっと芸術に熱心すぎるところがありましてね。でも指導の一環ですよ」


そのうち、同じように諏訪男の授業に違和感を抱いた保護者が、次々と名乗りを上げた。女子生徒の保護者たちは小さな会合を開き、連名で抗議文を提出した。


だが、学校側は動かなかった。


「誤解です」

「過剰な反応かと存じます」

「教育の現場は、外から見て分からない部分もありますから」


PTAは静観を決め込み、教育委員会も「学校の判断を尊重する」と言うだけだった。まるで透明な壁があらゆる声を跳ね返すように、あらゆる通報は無力化された。


当時の学校は、教育という名の「統治機構」だった。


管理主義という名の正義が、上意下達で絶対化され、個人の感情や倫理は「和を乱すもの」として排除された。教師は絶対者であり、生徒は従うもの。保護者ですら「外部」として黙ることを求められた。

学校は密室であった。


教室も、職員室も、教育委員会さえも、同じ屋根の下にある一枚岩の沈黙だった。諏訪男の「異常さ」は、そんな構造の中で、あまりにも自然に、あまりにも長く、放置されていたのだった。


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