<95> 慌(あわ)てない
人生を無難に過ごすためには、何事が起ころうと慌てない心の持ちようが必要となる。誰しも、突然、不測の事態が起これば戸惑うものだが、有事の際に慌てないためには、心を鍛えておく必要に迫られる。絶えず慌てない心は一朝一夕には備わらないからだ。私なんか、些細なことで、いつもアタフタ慌てる手合いだから困っています。^^
倉島はすぐ慌てる男だった。他人が別に慌てることはないだろう…と思う出来事でも、慌てに慌てた。
とある駅の待合室である。倉島は旅の途中であった。次の目的地に向かう列車は11:52発の特急乳牛2号の指定席だったが、腕を見れば、まだ三十分ばかり時間があった。
『十分前でいいか…』
倉島は、ゆったりし気分で買った新聞を読み始めた。しばらく読んで紙面を捲ったときだった。ふと目の当たりに改札口の電光掲示板の文字が見えた。[{7} 猪豚線 特急 乳牛2号 11:52発]とその近くの電光掲示時計だった。電光掲示時計の針は十一時四十七分を指していた。倉島は慌てに慌てた。もう五分しかなかったのである。腕時計がどういう訳か遅れていたのだ。
『しまった!!』
とは思ったが、まだ五分ほど発車には時間が残されていた。倉島はバタバタと改札口を通ろうとした。切符を通さそうとしたが、扉が開かない。戻った券を見れば、バスの切符だった。倉島は慌てて服を探したが見つからない。改札に入る人の邪魔になるので一端、脇へ移動し探し続けた結果、背広の内ポケットに切符は入っていた。ふたたび改札口を通り抜け、ようやくホームへ下りられた。そのとき、発車を告げる前の警報音が鳴り響いた。間一髪、倉島は列車に乗り込むことが出来た。ただ、指定席に座ったとき、列車で食べる駅弁とお茶を買っていないことに倉島は気づいた。
『まあ、いいか…』
何がいいのか分からないが、倉島は取り敢えず自分を納得させ、ウトウトし始めた。^^
慌てると、いろいろと忘れるミスが生じます。そういうときは、慌てる優先順位の最優先事だけをクリアーし、あとのミスは、まあ、いいか…くらいに軽く考えるのがいいようです。^^
完




