<5> 世の波
私達が生きる上で世の波には抗えない。その流れが濁流であろうと清流であろうと、抗えば人生がチィ~~ン! と鳴らされることになり、一巻の終わりとなるのですから怖い。ただ、その抗いを上手く暈して主張する方法はあります。そこはそれ、個人の力量次第といったところでしょう。^^
とある省庁のとある課である。
禿川は、すっかり疲れ果てていた。
「課長、部長がお呼びです…」
「またかっ!!」
こう毎日、呼び出されては、気の長い禿川もさすがに疲れ果てる他はなかった。
「いったい、何用だっ!!」
「私に言われましても…」
「…」
そらまあ、そうだな…と思えたから、禿川は二の句を告げなかった。仕方なく課長席を立つと禿川は部長室へ向かった。
「ははは…毎日、呼び出してすまないねっ!」
なにが、ははは…だっ! とは思えたが、そこはグッ! と我慢して禿川は訊ねた。
「…何でしたでしょう?」
「昨日、言ってたアレね」
「はあ、アレですか…」
「アレをナニにするよう審議官の抜毛さんから直接、指示されてね…」
禿川にしてみれば、勝手に指示されてろっ! くらいの気分である。
「はあ、ご指示が…」
「申し訳ないが、そういうことだから変更してくれんか。よろしく頼むよ」
「はい、分かりました…」
口では応諾した禿川だったが、ナニの内容がサッパリ思い出せなかった。だが、分かりません…では世の波に乗れない。そこはそれ、分かった振りをしたのである。はて、何だったか? 思い出してみよう…くらいの気分で禿川は部長室をあとにした。どうせ明日また、変更になるんだから…くらいの軽い気分である。
その翌日、アレからナニに変更された案件は突如、審議官の指示で中止となった。禿川はナニをとうとう思い出せず、どうしよう…と思っていた矢先だったからホッ! と安堵の息を漏らした。
このように、世の波は突然の変化を繰り返して私達に喜怒哀楽を与えるのです。だから、軽く人生を流れた方が楽でいいようです。^^
完