<46> 軍勢
軍勢と聞けば、ああ、戦国時代か…と誰しも思うだろうが、現在の人生を生きる私達の周囲にも見えない敵、味方の軍勢が鎬を削り戦っているのである。今の世では武器の使用による争いは紛争地帯や戦争さなかの国のみに思えるが、そうではなく、私達が暮らす平和な一般社会の中にも敵味方に分かれ、軍勢は争っているのである。これからお届けするお話は、その一例です。^^
百地は、とある大手ホールディングスの情報部に勤務する社員だった。早い話、産業スパイと呼ばれる部類の社員である。この大手ホールディングスには日勤、夜勤、中勤、フレックスタイムA勤、フレックスタイムB勤の五種類の勤務体系があり、多くの社員がその勤務体系の中で働いていた。日勤、夜勤、中勤の三種類の勤務体系には会社が定めた出勤時間→退社時間という一定枠内の就労時間[約八時間]の拘束時間があった。だが、フレックスタイムA勤とフレックスタイムB勤にはそれがなく、どの時間帯から出勤しようと自由だった。ただし、フレックスタイムA勤の場合は一就労日の0時から24時以内という一定枠の就労時間[約八時間]の拘束があり、フレックスタイムB勤には拘束時間はなかったが、与えられたノルマを一就労日の0時から24時以内に達成しなければならないという勤務規則が定められていた。この勤務体系の中で百地が所属する情報部の社員だけは、課せられたノルマの達成義務だけで時間、期間的拘束は一切なかった。要はミッション。インポッシブルである。^^ そうした体制の下、百地は暗躍した。そしてついに競合企業から社運を左右する重要な機密情報の入手に成功し、情報部次長へと昇格した。百地の的確な判断や発想、機敏な行動・・孰れをとってしても百地の体内の中で見えない多くの軍勢が活躍していた。無論、競合会社にも情報部はあり、百地と丁々発止の鍔迫り合いならぬ情報戦を繰り広げはした。だが、百地はその情報戦に打ち勝ち、勝利したのである。
『ついに俺も情報部次長か…』
百地はニンマリと哂った。部長と次長にだけは社内での自由勤務の権限が与えられていたのである。ところがどっこい、そうは問屋が卸さなかった。百地は働き過ぎの過労で入院する破目になった。情報部次長に昇格した百地も忍び寄る病魔の軍勢には、ついに勝てなかったのである。^^
『人生は健康だな…』
病室で見舞いのリンゴを頬張りながら、百地はしみじみと思った。
人生には健康を維持させる見えない軍勢が一番、大事ということですね。^^
完




