<41> 安定感
人生をビクビクしながら疑心暗鬼に過ごすよりも安定感に満たされて過ごす方がいい…とは誰もが考えずして思うことだろう。一歩、家を出れば、上から下から右左斜めと十方から見えない魔の手が忍び寄るのが私達が生きる人間世界だ。ああ、嫌だっ!^^ とはいえ、生まれた以上、人生は生きていかねばならない。人生で安定感を得られやすい人は、それなりの天性とか工夫する力がある人だろう。もちろん、人生には宿命や運があることは間違いがない。だが、その逆境下にあっても個人差は出ます。^^
万年係長で異動無しの中年職員の卯川は、町役場の係長として働いている。
「卯川君、今日の食堂のB定は何だい?」
主監の課長、正尾が少し小さな声で訊ねた。
「えっ? ああ、今日は鯵フライ定食だったと思います…」
仕事は今一ながら、食べることにかけては職場で一、二を争う食通である卯川が即答で返した。
「そうか…。鯵フライか…」
「課長だったらA定食の方が…」
A定食はB定食に比べて値段がやや高めだったから、管理職の多くが選んでいた。
「いや、私はそんな偉くないからB定でいいんだよ、卯川君」
「そうですか…」
偉くないって、十分偉い主監じゃないですか、僕なんか管理職になかなかなれないんですから…という羨望の眼差しで正尾を見ながら卯川は返した。だが、毎年、春の人事異動でビクビクする正尾に比べ、万年係長の卯川には管理職には絶対なれない…という人事異動に対する安定感があった。ただ、安定感を保持し続ける正尾にも、いつの日か課長補佐になりたいな…という朧げな深層心理が、あることはあった。^^
職場での安定感・・大事ですねっ!^^
※ 聞いたところの話では、卯川さんは去年、課長補佐に昇格されたようです。おめでとう、卯川さんっ!! 安定感は下がりますが…。^^
完




