<37> お金
人生を渡る上で、お金は欠かせない。紙幣や貨幣は食べることが出来ないし、直接、役立つことはないが、必要な食料や物資を買うことが出来るから、結果として役立つのです。
現役を引退し、大手ホールディングスの名誉会長に退いた大金持ちの禿岡は、お金が邪魔になっていた。日々、手放そうとするのだが、住み心地がいいせいか、お金の方から禿岡に近づいてくるため、大迷惑をしていた。実に羨ましい話である。^^
そんな禿岡がお忍びで深夜、こっそりと街へ出た。そのままの姿では目立つから変装して裏口からひっそりと抜け出たのはもちろんのことである。まあ、多少はお金もいるだろう…と百万円の札束を一つ和服の袂に忍ばせて出たが、これといって行き先がなかった。禿岡は、適当にブラつこう…と、商店街を漫ろ歩いた。すると、辺りからいい匂いが漂ってきた。禿岡はその匂いがする方向へと歩を進めた。すると、前方にスイートポテトを販売する店が見えた。小腹が空いていた禿岡は、札束から一万円札を一枚抜き取り、販売する店員に手渡そうとした。
「あのう、すみませんが、これで買えるだけ下さい…」
「ええ~~~っ!!」
店員は驚愕して腰を抜かしかけた。
「まあ、そう驚かれることもないでしょう。ははは…冗談、冗談ですよ。一袋でいいですよ」
「はい…」
一袋と聞き、店員は一応、ホッ と安堵した。買い終えた禿岡は適当に食べる場所を探し始めたが、人通りが激しく、食べられそうな場所がない。仕方なく、禿岡はデパートの休憩所の一角で食べることにした。休憩所の椅子に座り、ひと口、パクつこうとしたときである。禿岡の袂に忍ばせた携帯が振動した。
『経団連の黒髪会長がお目にかかりたいとお越しになられましたが…』
禿岡は携帯を持って出たことを悔やんだ。だが、時すでに遅しだった。
「分かった! すぐ帰るっ!」
不機嫌な声で答えた禿岡は、邸宅へと踵を返した。ホカホカのスイートポテト入りの袋はすでに冷えかけていた。禿岡は忌々しい気分でタクシーを拾うと乗り込んだ瞬間、ポテトにムシャぶりつき、喉を詰めかけ、そのまま病院へ緊急搬送された。病院の個室の片隅でスイートポテトがニヤリと嗤った。^^
このように、お金があったとしても、必ず人生が意のままになる・・ということでもないようです。^^
完




