<30> 浮雲
二葉亭四迷氏の小説にそんな題名の小説があったかとは思うが、浮雲はどこか人生を思わせるかのように流れていく。雲の形もいろいろとあるが、浮雲が連想させる雲の形は、菓子パンのようなポッカリした形で、青空に浮かぶ雲である。小さくなったり大きくなったりと絶えず変化しながら、吹く風にどこへ流されるともなく、いつの間にか消え去っていく・・そんな人生を思わせる雲です。
鯖江は上空をポッカリと漂う浮雲を見ながら文学的ではなく人間的に思った。
『腹が減ったな…。よしっ! 今日はトマト入りダブル・チーズハンバーガーとエスプレッソにしよう…』
鯖江が店へ行くと店は臨時休業で閉まっていた。鯖江は貼り紙を見ながら恨めしく思った。
『チェッ! ダメか…。よしっ! ハンバーガーがダメなら、笊蕎麦にしよう…』
鯖江は蕎麦屋へ足を向けた。鯖江が蕎麦屋に着くと、どういう訳かその日は混んでいて、入口前には長蛇の列が出来ていた。
『チェッ! ここもダメか…。よしっ! 蕎麦がダメなら…』
次の食べ物が鯖江には浮かばなかった。鯖江は、どうでもいいや…といつも寄る喫茶店へ入った。
「あの…パスタを」
「すみません。今日、パスタは…。アップル・パイならありますが…」
「そ、それでいいです…」
鯖江は食べられるものなら何でもよい…と思っていたから、ホッ! とひと息ついた。
このように人生は妥協しながら浮雲のように流れて生きていく他はないのです。
とにかく食べられてよかったですね、鯖江さん。人生は食べられないとあの世へ行くしかありませんからね。^^
完




