<27> 世渡り
人生は世渡りが上手いか下手かで大きく違ってきます。まあこれは、本人の才覚次第だからどうすることも出来ないので、そろそろ梅雨入りか…などと思っています。いや、諦める他はないと思います。^^
豚川は、今朝も、はて? と職場のデスクに座りながら考えていた。
『どうしてヤツは課長に好かれるんだろう…?』
窓際の課長席では同僚の堀田と課長の牛崎が賑やかに呵い合っているのが見て取れた。見ないでおこうと思っても否応なく前の正面席だから目に入ってしまう訳だ。
「君さ…さっき、課長と呵ってたけど、何かあったのかい?」
真横のデスク同士ということもあり、豚川はそれとなく堀田に訊ねてみた。
「ははは…課長とは趣味が同じで、よく山登りをするんだ。よかったら君も次の機会に登ってみないか?」
「ああ、有難う。僕は高い所が苦手だからやめておくよ…」
豚川は、なんだ、そういうことか…とブゥ~ブゥ~と内心で愚痴りながら合点した。取り分けて高い所が苦手だった訳ではない。^^ 豚川の趣味といえば盆栽いじりぐらいだったが、とても牛崎と意気投合しそうな趣味とも思えなかった。奴は世渡りが上手いな…と豚川には恨めしく思えた。
翌年の春、人事異動で課長の牛崎は副部長に昇格し、堀田は係長になった。
『やはり、世渡りか…』
そう豚川が思っていた矢先、アクシデントが勃発した。春山へ二人で登っていた牛崎と堀田が雪解けによる表層雪崩に巻き込まれ、あえなくこの世を去ったのである。
『世渡りが上手いのも考えものだな…』
豚川は内心でブゥ~ブゥ~と愚痴らず、小さく尻尾を振った。いや、納得しながら食堂で餌を食い始めた。いやいや、食事の大盛りのカツ丼定食を食べ始めた。
世渡りが上手いからといって、人生が必ずよくなるとは限らないようです。^^
完




