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右折の男

作者: 豚速

初投稿です!自分でも納得は行ってないし、これで良かったのか状態ではあるけど、よろしくお願いします!

 進む。T字路にでる。右に曲がる。

 男にとってそれは日常であり、普通の事。


「えーっと、高橋さん。この備考欄の『右折します』っていうのは、何なのかな?」

 中年の小太りの面接官が,ハンカチで汗を拭きながら質問をする。エアコンが壊れているのか、部屋は夏のムシムシとした熱気が立ち込めている。高橋は熱さを耐えるように少し顔に力を入れて応えた。

「文字通り、左折せず右折をして生きています」

 面接官は予測通りながら、その解答に少し困惑しつつ次の質問を投げる。

「なんで今時,右折してるの?」



 結局、面接官には面と向かって、金輪際うちの会社に顔を出すなと言われてしまった。これで89社目。今の宅配のバイトも、いつ辞めさせられるかもわからない。高橋は不安から心を落ち着かせるため、一旦ベンチに座った。しばらくして、木を囲むように作られたベンチの背中側から、女子高生くらいの若い声が聞こえ始める。

「私なんか、昨日右折しちゃってさー」

「見られてたら終わりじゃん」

「いや、めっちゃおじさんに見られてて、まじで終わった。警察呼ばれるほどの事じゃないけどさ、危なかったー」



 結局、女子高生の話がうるさく、しっかりベンチで休むことはできなかった。そのままアパートに帰ると、大家のおばさんが2階の自分の部屋のドアのチャイムを、しつこく鳴らしまくっている現場に出くわす。

「あ、高橋さん。こんばんわ。先々月の家賃含めて、そろそろ返してもらわないと困るのだけど・・・・・・」

 大家さんはこっちに気付くなり、すぐさま催促に入った。

「えっと、その・・・・・・ 今、まとまったお金がなくて・・・・・・」

「高橋さん、いつもそれしか言わないじゃないですか。宅配のバイトは、まだしてらっしゃるんでしょ。だったら、先々月分の家賃くらいあってもいいと思いますけどねー」

「いや、その・・・・・・ 食費とかで無くなってて・・・・・・ その・・・・・・」

 高橋は目をそらして応える。

「いい加減、そんな右折なんてやめて新しい仕事探してください。でなかったら、もう本当に出ていってもらいますからね!」

 大家さんは、そう吐き捨てて階段をどかどかと下っていった。

 高橋はキィーと鳴るドアを開けながら、その音にかぶせるようにため息をした。



 結局、翌月にはアパートを追い出されてしまった。宅配のバイトも辞めさせられて、ホームレスになり永遠と空を眺める生活。

「最後に食べたのはいつだったっけ・・・・・・ 3日前は・・・・・・ 石か。石?そんなの食べたっけ・・・・・・」

 橋の下で一人、高橋は瞼を落ちていくのを受け入れ死んだ。



 はずだったのが、俺の人生。どういうわけか、目が覚めると俺はふかふかのベッドの上で眠っていた。いったいここは・・・・・・

「あっ、お目覚めになりました! いま、リース様を呼んできますね!」

 薄い青髪の若い女の子が、目覚めた俺を見て、扉を開けどこかへ行ってしまった。

「日本人・・・・・・ いや、さすがに違うか」

 そもそも、ここはいったいどこなんだ。さっき、確実に死んだと思ったが何故俺は生きてるんだ。俺は、屋根の付いたメルヘンチックなベッドの上で、この不可解な状況を飲み込めずにいた。

 すると、部屋にさっきの青髪の子と今度は金髪の子が入ってきた。背は青髪の子よりも少し高く端正な顔立ちをした美人だ。

「ようやく、お目覚めになられましたか。お待ちしておりました勇者様」

「勇者?」

「なんだか、今の状況が呑み込めていないようですね。寝ている間に散々説明しましたのに」

「そりゃ、寝てたから」

「あっ、そういう事でしたか! 確かに、寝ているときは何も聞こえませんものね。気づきませんでしたわ」

「で、聞きたいんだけどここはどこなの?」

「失礼、それでは最初から説明を。ここは、西方の国『アブルンド王国』ですわ」

「アブルンド・・・・・・ 全然聞いたことが無いな。ヨーロッパか何かの国か?」

「ヨーロッパ? それが何かは分かりませんが、勇者様がこの国をご存じでないのも無理はありませんわ。なんせ、勇者様は別世界から召喚されたのですから」

「別世界・・・・・・ どういうことだ」

「別世界から勇者であるあなた様を、召喚させていただいたのです」

「俺が、勇者?」

「はい! 勇者であるあなた様にこの世界を救ってほしいのです! 申し遅れました。私、魔王討伐隊の『リース』と申します」

「同じく、魔王討伐隊の『ドナ』です!」



 よくわからないが、きっとこれは夢じゃない。ベッドのふかふかは鮮明に感じられるし、何より胃のあたりが痛い。

「さっ、いきなりですが召喚成功の報告を王様にしに行かないといけないので私達に付いてきてください!魔王討伐隊のもう一人も紹介したいので」

 リースとかいう奴も、俺の動揺具合なんて気にもせず話を進めるし、ドナって奴もリースに頷いてばっかだ。

「勇者様? 早く行かないとですよ。世界の滅亡は刻一刻と迫っているんですから」

 世界の滅亡? なんだよそれ。まだこの世界に来たばっかの俺に託すことか? 

「勇者様、お願いです。私達の世界を救ってください。もう頼れるのはあなたしかいないんです」

 そういってリースは俺の手を握ってくる。ドナも、真似するように握ってくる。

 世界を守る? 俺が? リースとドナの握る手に力が入ってくる。俺に、出来るのか?

「大丈夫です。旅には私達もついていきますから」

「そうですよ、リース様もいるんですからきっと出来ますよ」

「どうか、お力をお貸しいただけないでしょうか?」

「分かった。やる! 俺が世界を救ってみせる!」

 俺は、重い腰をベッドから上げて立ち上がった。



「それでは、私達に付いてきてください。この城の内部は結構複雑ですから離れないようにしてくださいね」

 そういってリースとドナはドアを左折して出ていく。俺は左折できないので右折を3回する。すると少し置いてかれる。そして、少し小走りして追いつく。

 この建物は左折が多い。結果的に俺が2人の後ろで右折3回をしていると置いてかれてしまった。なんて俺にやさしくないんだ、この建物は。

 何とかしがみついて2人の後を追って王の待つ部屋の前まで来た。

「大丈夫だとは思いますが、くれぐれも失礼のないように」

 リースが大きな両開きの扉に手を当て、俺に言う。

「では、行きますよ」

「分かった」

 ドアを開くとそこは、とても広い空間が広がっていた。上にはシャンデリアがぶら下がっていて、扉から奥へ一本のレッドカーペットが敷いてある。

「奥に見えます、あのお方が我が国王『アブルンド三世』でございます」

 奥には、白いひげを大量に蓄えたヨボヨボ老人が、たいそう豪華な椅子に座っていた。その横には護衛らしき騎士の姿があり、じっと俺を睨んできた。

「ホッホッホッホ、よく来たな勇者よ。ちょっと年であんまりしゃべるの辛いから端的に言うけど、今から魔王倒して来てね。報酬は好きなだけ出すから、頑張ってね」

 雑すぎる。こんなのが国王でいいのか? 俺は首をかしげる。まぁ、でもさっきリースから聞いた話と変わりはない。やるだけやってみるだけだ。

「そうだ、あとこの僕の横にいる騎士の『ルージー』君も一緒に連れてっていいからね」

「あの横にいる甲冑を着た男が、ルージーです。私達と同じ魔王討伐軍のものです」

 ルージーは赤髪で、銀の甲冑に身を包んでいて、いかにも好青年といった雰囲気だった。

 ルージーは、こちらに向かってきて言った。

「お前が勇者か。噂には聞いているぞ。なんでも、2週間も寝続けてるやつが城にいるって」

「ちょっと、そんな言い方無いでしょ!」

「いや、お前には言いたいことが山ほどある。だが、今は一刻を争う緊急事態だ。起きただけでいったん良しとしよう」

 さっきから、皆焦っているな。切羽詰まってるんだな。

「一刻を争うっていったいどのくらいなんだ?」

「もう、城の前まで魔王が来ている」

「は?」



 城の外に出るとすでに町は火の海になっていた。

「ひどい・・・・・・」

 ドナは目をそらす。

「あれを!」

 ルージーが、指を刺した方向に、体長5mほどの角の生えた筋骨隆々の怪物が立っていた。

「魔王め・・・・・・ 好き勝手やりやがって! おい、お前これを持て!」

 ルージーが剣を渡してくる。剣は思いのほか重く両手でないとまともに振ることはできない。

「あいつとはもう何回も戦っているが、毎回あの4連詠唱のファイヤーボールが厄介で倒すに至ってない」

「そう、4連の呪文で対象とその前、後ろ、左を同時に狙って退路を無くす」

「その攻撃にリース様も毎回苦戦を強いられてきました」

「でも、今回は違います。勇者様がいらっしゃるのですから」

 3人が同時にこちらを見てくる。

 俺にできるだろうか・・・・・・



 魔王はこちらに気付いたようで向かってくる。

「愚かな。そんな人間一人増やしたところでわしに勝てるとでも?」

「今回は違うは、だってこっちには勇者様がいるんだもの!」

「ほう、召喚魔法か。良い魔法を持っているではないか」

「あいつは、召喚魔法を使えないから配下を増やせなくてずっと一人だった」

「もし、この国が滅び召喚魔法陣を奪われたら、きっと人類に勝ち目はもう・・・・・・」

「頼んだぞ、勇者お前にかかってる」

「頼みました。私もリース様も応援してます!」

「勇者様必ずや勝ってください!」

 みんな、一緒に戦うって言ったじゃん。やっぱ、左折してるやつらはダメだな。



 城を囲む堀。城の入口へとつながる橋の上で俺と魔王は対峙する。

「人間よ。あいつらは一緒に連れてこないで大丈夫か?」

「左折してるやつらなんかダメだ! でも、世界が終われば俺も死ぬ。だから、魔王お前を絶対に倒す!」

「左折しているやつ? それはお前もだろう。詠唱『ファイヤーボール』!!」

 きた! 4連の回避不能ファイヤーボール。俺がこの世界に呼ばれた理由。それがいま分かった気がする。俺は全力で右に避ける。

「ハァーッ!!」

 ファイヤーボール4発は、右に避けた事で俺に一発も当たらなかった。

「何故だ。何故、ファイヤーボールが当たらん」

 困惑する魔王をよそに俺は間合いを詰め、足を切りつける。

「ウォーーー!」

 痛みで悶絶する魔王にもう一発、今度は腹を切りつける。

「な、何なんだこれは!」

「そ、そうか右折だ! 左折しかしない私達や魔王にとって右折をするものの未知のエネルギーは相性が悪い。だから、魔王はあんなに痛がってるんだわ」

 魔王はあまりの痛さに耐えきれず、翼をはためかせ上空へと上がっていった。

「人間よ。なかなかやるじゃないか。今の攻撃はかなり効いたぞ。しかし、上空へ上がってしまえば、もうお前の剣は当たらない。これで一方的に攻撃できる」

「なんて卑怯な!」

「ん、何だあいつらは。わしを卑怯などと言いおって。目障りだからあいつらから殺してやるとするか。『ファイヤーボール』!」

 リース達が危ない! 俺は右折で咄嗟に方向転換をして3人のもとへ走る。3人はその素早い詠唱に対応できず固まっている。俺が、守らないと!


 痛い。背中が熱い。左手も。俺は何とか背中を盾にして3人をファイヤーボールから身を挺して守った。

「ファイヤーボールをもろに喰らったか。厄介な奴だったがもうこれでおしまいだな」

 左手は焼きただれて使い物にならない。つまり、もう剣は振れない。何か、吐きそうだ。今日起きてから続く胃の痛み。それが今になって、嘔吐という形で爆発しそうだった。

「さて、さっき仕留め損ねたが今度こそこれで終わりだ。『ファイヤーボー」

「オェェ」

 俺は石を吐いた。

「おい、お前! 今何を吐いた? まさか石じゃないだろうな?」

「もしかして、勇者様。その石は異世界のものではないですか?」

「あぁ、きっと俺が前に食べたやつだ」

「それでしたら今すぐあの者に石を投げつけてください! きっと、その石が世界をつなぐ役目をして奴を別次元へ送ってくれるでしょう」

 リースはそう言うと、俺の右手に落ちた石を持たせ、ぎゅっと握った。俺は振り返り、魔王を睨む。

「まさか、おい! やめろ!」

 俺はしっかりと振りかぶって、勢いよく魔王に石を投げつけた。魔王はよけようとしたが、俺との戦闘の負傷で機動力が下がっていてうまく避けることができない。当たった石は、時空に穴を開け魔王を丸ごと吸い込んでいった。



 結局、魔王を倒した俺は、英雄になった。魔王討伐隊のみんなは俺を見習って、右折をするようになった。ルージーも俺への評価を改めたみたいで、俺はルージーの推薦で国王となった。そして、リース、ドナと結婚して、子供もできた。アブルンド王国に「右折」を広めた。左手は失ったけど。それでも、充実した生活だ。魔王はあの後、俺の元居た世界に飛ばされたらしく、あの世界を滅ぼしたらしい。まあ、それももう俺には関係ないけど。そして、俺は——————

 作:K内藤



「なにこれ?」

 編集長はデスクに足をのせ、椅子を左右に回転させながら、部下に言う。

「ほんとですよね。ひどい話ですよ」

「話のクオリティの低いし、文章も稚拙。やっぱ右折なんか言ってる奴はダメだね。文章から伝わってくるもん。こんな右折主義むき出しの小説、世に出すわけにはいかないでしょ。シュレッダーかけといて」

「分かりました」

「あと、今後右折主義者の方は、投稿お断りってホームページに書いておいて」

「分かりました」



 K内藤は、橋の下ただ一人で、ぼんやりと曇り空を眺めていた。


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