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1章ー1 集落の祭事

 この日、山間の小さな集落は感謝祭の準備に大忙しだった。教会の前には小さいながらも祭壇が組まれ、神様と恵みを与えてくれた大地に感謝するため、集落の皆々は老若男女問わずに世話しなく動いている。

 それは子供達も例外ではない。子供達は子供達で準備に熱心だ。

 この集落ではかつて土着の神様の信仰もあった。

 他の宗教が入ってからはその信仰も消えたが、その名残として何かしらの祭事や祝い事があると子供達は、森の木の実や葉、枝などを使ってリースを作り家々に飾りそして、祭事の終わる夜に火にくべて、神様に捧げる。

 所謂、願掛けの様なもので感謝を述べつつ、「これからも幸多きことを」と願いを煙に乗せ神に乞うのだ。

 元々は、土着の神様が子供がとても好きで、子供の願いを良く聞いてくれる事から始まったこの風習だけが宗教が変わってからも集落の習慣として残っている。

 集落では仲良し四人組で、有名なこの子供達もリース作りに励んでいた。

 集落の長の息子オリバー。

 赤毛とそばかすを気にする農家の娘エリー。

 神父の双子の兄妹でちょっと強気な妹のリリアと

 物静かで頭の良い兄アルベルト。

 いつも一緒の四人はリースの材料を集めるべく森に入っていた。

 冬も近づいた冷たい風の吹く秋の森は、物寂しい景色をしてはいたが、リースの材料集めをする集落の子供達で賑わっていた。

 皆、気合いを入れ理想の木の実や枝などを見つけようとあちこちを騒がしくお喋りしながら歩き回っている。

「わぁ、もうみんな来て拾ってるね。ちょっと出遅れちゃった」

「仕方無いよ。俺達、最年長だもん。大人の手伝いしないで来るなんて無理なんだからさ。」

 オリバーとエリーが不満げに話している。

 この集落では15歳で大人と同じ様に扱われるのだが、若者はみんな出稼ぎに出てしまう事が多く、よって年長の子供達は祭事があれば、しばしば手伝わされることも多かった。

 今年、12歳になった四人も家で祭事の準備を多少手伝わされてから森に集まったのだから、出遅れるのも無理のないことだった。

「まあ、とりあえず始めましょう!まだ、使えそうなものも残ってるかもしれないわ!」

 と一言言って、子供達の中へ駆けていくリリアの後ろをちょっと待てよ!なんて口々に言いながら他の三人も追いかけていく。

 いそいそと探し始める四人だったが出遅れてしまったせいか、なかなか気に入るものは見つからない。

「やっぱり使えそうなのはないわね。木の実なんかダメになっているものばかりだし」

「リリアの言う通りだな。どうするよ。」

 森に落ちているのは、繋げて大きな輪を作るには小さすぎる蔓の残骸、傷がつき茶色く変色し始めた木の実、割れた団栗、笠が欠けたキノコに、枯れてカサカサの落ち葉ばかりが残って綺麗で使いやすい材料は先に来ていた子供達に殆んど拾われてしまったようだ。

 そうでなくとも、ここ何日か子供達が材料を拾いに来ている。使えるものなんてもともとあまり落ちていなかったのかも知れない。

「何日か前から集めてはいるけど…ちっと足りないんだよなあ」

「そうだよね…うーん…あっ!ナグルの森の方にいってみようよ!」

「おっ!それいいなぁ!あそこなら誰も行ってないだろ」

「エリー!いいアイデアね」

 と、三人が意見を固めようとしたときだった。

「いや、あの森はやめよう。大人達にも入ってはいけないって言われているじゃないか」

 口を挟んだのはアルベルトだった。

 ナグルの森…その森はかつての土着信仰で神様の住む森として立ち入りが禁止されていた。

 宗教が変わってからはその話も廃れてはいるが、それを抜きにしても、その森はいろいろ不思議なこと不可思議なことが起きるとして大人でさえも入らない。

 昔、その森を切り開いて土地を広げようとしたこともあったようだが、大雨が降り土砂崩れが起きたり、作物が育たなかったり、果てはとんでもない流行り病が子供たちだけに起き多くが犠牲になるなど…集落存続の危機に見舞われたため、頑く立ち入りが禁止されたのだ。

 そして、今は教会に墓地があるが、昔は「人々が帰る場所」として、亡くなった人の埋葬をする場所も存在する森だった。先祖が眠る森を粗末に扱うのは良くないと言うのも理由の一つだ。

 そうでなくとも、教会が建ったときでさえ土着の神は、信仰の対象が変わることを嫌い、偉い目にあったと記録されている。

 それをどうやって治めたのかは定かではないが、何かしらの誓約のもと今の状態に保っているらしい。

 アルベルトはその事を教会にある書庫で読んで知っていただけに三人を止めに入ったのだ。

「僕達が入ることで集落に何が起こるかわからないんだ。ナグルの森は絶対に駄目だよ」

「つってもさぁ、それって俺達の父さん母さんが生まれるよりずっと前の話だろ?そもそも確かその神様って子供が好きじゃなかったか?」

「そうよ、アベル。子供が好きな神様ならちょっと入ってリースの材料集めをするくらい許してくれるわ」

 そんなことを言うオリバーとリリア。それにエリーも頷いて同意をしてしまっている。エリーに関しては農家の娘なのだから、ナグルの森については親から厳しく言われているはずなのだが。

 呆れてものも言えないとはこの事なのだろうが、こう三人に結託されてしまうと、物静かな(悪く言えば気弱な)アルベルトは敵うはずもなく、渋々三人と共に森に向かうこととなった。

 ナグルの森は、普段子供達が遊んでいる森とは、集落を挟んで反対側。教会と長の家の間辺りにその入り口があり、長と神父でこの森に立ち入るものが居ないか見張るような形になっている。

 のだが、そこは長の息子オリバーと言うべきか…親の目が届かない場所に入れる抜け道があるを知っており、四人はそこを通って森に入って行った。

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