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1章のその前に 赤い羊膜の子と白い羊膜の子

いろいろと粗はありますが、微笑ましく読んでいただけると幸いです。

 小さい頃に思ったの。

「何でこんなにも虚しいの?」って。

 だけどね…そんなもの意味が無かったんだって

 何処かで気づけるのをずっと待っていたわ。

 それを今、こんなタイミングで気づくなんて思わなかったの。

 だって…さ…やっと迎えに来てくれたのに

 その思いの意味に今更、気づくなんて…そんなの…


 不運過ぎるわ…


 だって…だって…私は×××の女王「■■■■」だから。


 彼女はそう言った。

 その悲しげな瞳と笑みで

 これがお互いの最後であることを

 知っていたかの様に。






 物事は必ずしも思うように行くわけではない。


 それは人生の中で誰もが経験し、そこに嘆き悲しみ神に救いを求めるのだ。

 この教会の神父は、これからそれを痛いほど痛感することとなった。

 彼は、神父になりたかったわけではなかった。たまたま、孤児だった自分は、たまたま、教会に拾われ、たまたま、やりたいことがなかったから、成り行きで神父になった。

 信仰心があるのか?と言われればいささか自分でも疑問を持つくらいには怪しかったが、忙しくもこの穏やかな生活は好きだったから、やっていけていると断言しても差し支えなかった。その程度には、彼は勤勉だった。

 だからなのかもしれないが、年に一度の定例議会に同行を許されたのかもしれない。

 その日、大司教と共に向かった首都の教会の豪華さには目が飛び出るかと思った。

 自分の治めている教会もそこそこ豪華だとは思ったが、首都のそれは格がけた違いだった。こんなところにたかが地方の司祭が来ていいものかと、目を白黒させながら大司教の後をついていくと、ある部屋に通された。

「お前は呼ばれるまでここで待っていなさい」

 一言言われて置き去りにされたその部屋には先客がいた。

 服装からすると、首都の教会に併設されている修道院のシスターのようだった。

「こんにちは」

そう、声をかけると同じく「こんにちは」と言う、鈴のような控えめな声が返ってきた。

 こんなことは神父としてはあるまじきことなのだが、少し覗くその顔に、心を奪われそうになった。

 白く透き通る肌に鳶色の瞳がどこか宝飾品のような印象があった。

「お待たせしました。お二人とも、こちらへ」

 若い神父に案内され通された場所は、各教区を治める大司祭たちと、顔と名前しか知らない枢機卿、そして、後光が射さんばかりの威厳を持った教皇が勢揃いに集まった会議室だった。

「良く来てくれた。司祭ジョエル。シスターアルマ」

 教皇から直々に声を掛けられ急に緊張が走った。それは隣にいるシスターも同じようで、緊張からか少し震えている。

「汝らに神託がくだった。そなたらは、所帯を持ち子供をもうけよ。そして、ガラム地方の集落にある教会への赴任を命ずる」

 それは、度肝を抜かれる言葉だった。司祭は結婚を禁じられているはずだ。

「あの…恐れながら、一つ質問があるのですが、よろしいでしょうか?」

 教皇を前に思わず言葉が震えてしまう。それでも、聞いておかなければならない。

「発言を許そう。」

「ありがとうございます。あの…神託とは一体どのようなものなのでしょうか?その…少々、困惑しておりまして…」

 教皇は彼の目を見つめ、何か品定めをしているようだった。そこには本当にこの者か?と疑問の色が見える。

 しばしの沈黙の後、教皇は静かに口を開いた。

「汝、悪魔に対抗すべく聖職者ならば、自然の摂理と均衡のもと司祭ジョエルとシスターアルマに子を持たせよ。彼ら二人の子、一人は災厄の女王なり、一人は救済の英雄なり。汝らの行いを正し、罪を悔やむのならば、人を唆し血を啜る者を滅せよ…これが神託者が受けた神託だ」

 神父はその神託がうまく頭には入らなかった。何だか、とても重大な役目を神から賜ったのはわかるのだが、災厄の女王?救済の英雄に血を啜る者?…それは最近、また、力を持ち始めた吸血鬼(ヴァンパイア)のことだろうか…?

「これにはまだ、続きがある」

 教皇は続けた。

「ナグルの森の古き王に助力を求めよ。必ずや、救済の道を示すだろう…とな。」

 その後のことは、あまり記憶にない。

 気づいた時には、神父とシスターは異例の結婚をし、司祭の役職はそのままに、ガラム地方の集落の教会へ赴任した。

 

 そして、数年を経てその時はきた。

 子供達が産まれたのは、嵐の夜で、強い風が吹きすさび、大地を揺らすような轟音を鳴らす稲光に不吉な予感がした。

 神託者が語るには…確か自分たちは「災厄の女王と救済の英雄」を産むらしい。それは自然の摂理であるから抗ってはいけない、神のご意志だと。

 その子供達が、今日この日に誕生する。

 そして、結果的に言えば、その神託は当たっていた。

 赤い羊膜を纏った女の子と白い羊膜を纏った男の子の双子の兄妹は、母を恐怖させその悲しみに精神を病ませた。

 赤い羊膜と白い羊膜のその意味は、聖職者だった彼女は良く知っていたからだ。

 神父は覚悟を決めた。森の王からも、この二人のことは聞いている。

「私は伝える者だ。…神よ…願わくばこの子達が何事もなく平穏無事に人生を歩めんことを…」

 山ほどある難題に頭が痛くなることも多いそんな中でも、日々は過ぎ去って行く。

 どんな問題が起ころうとも。


 

読んでくださりありがとうございました。

気に入って頂けたなら、次回もよろしくお願いいたします。

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