サバ缶みたいな女になれ
今日は金曜、『金曜 女のドラマシリーズ』です。
いくつかの片想いを積み重ねた上で陽太の事を好きになって……私から告った。
恋が成就した事自体が初めてだった私は……
何もかもが初めてづくしの、毎日毎晩ジェットコースターに乗ってる様な“テンション爆上がり”で…… その挙句の“押しかけ同棲”だった。
でも、私、陽太には随分と尽くしたと思う!!
例えば、魚好きのくせに不器用なカレの為に私はサバの塩焼きを丁寧にほぐして骨を取り除いてからカレの前に出してあげてたりしていた。
ちょっとワルぶっていてオンナを邪険に扱うところもあるけれど、すっごく甘えん坊な一面に私はメロメロになっていたから、それこそ甲斐甲斐しくお世話していたのだけど……
陽太の帰り時間がまばらになり、知らないニオイをくっつけて帰って来る様になると、カレの部屋に取り残された私は、堪らずに独り泣きした事も一度や二度では無かった。
それでも……
カレが最後に帰ってくる場所に私は居るのだからと……
耐え忍んでいたのに……
自分の部屋なんだから当然持っている筈の鍵を使わずに、陽太は真夜中にドアを盛大に叩くものだから、私はセミダブルのベッドから跳ね起きたままの恰好でドアを開けてカレを引き入れた。
色んなニオイをくっ付けて酩酊ぎみの陽太はそのまま私を押し倒し
「続きをするぞ」って宣ったものだから私はカレを突き放した。
涙声で「あんまりじゃないの!!」って叫んだら
「オレの部屋に居座るんなら、サバ缶みたいに面倒のないオンナになれ!」と怒鳴られて
さすがに堪忍袋の緒が切れて出て来てしまった。
前に住んでいたアパートはとっくに引き払っていたので……キャリーバッグで持ち出せる分の体面を保てる最低限の物が今の私のすべて!
取りあえずコインロッカーに預けて会社には出社したけれど、定時になっても帰る当てが無く街を彷徨った。
「住むところを何とかするまではネカフェに棲息するしかないかな……」
カフェバーでボンゴレをフォークに巻き付けていると情けない気分が高じてしまって……飲み慣れないワインを頼んだら間違えたみたいで、口の空いた白ワインのボトルが氷を満たしたアルミのバケツでやって来た。
「いったい!このボトルどうしよう!!」と途方に暮れていると向こうの方になんだか知った顔を見つけた!
私はもう藁にも縋る気持ちで白ワインのボトルを掴んで突進して行った。
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私が持って来たのを含めると3本のボトルが空になり、私はすっごく陽気になっていた。
苫米地くんは会社では別のフロアーだし、殆ど知らなかったのだけど、こんなに良い人だったなんて……
酒がなせる業なのかもしれないけど、私は苫米地くんの事をいたく気に入ってしまい“元”カレの事を洗いざらい愚痴ってしまった。
苫米地くんは延々と続くこんなオンナの愚痴を最後までキチンと聞いてくれた上で、酒のせいだけじゃなく(と私は思いたい)、怒りで顔を真っ赤にして「絶対に許せないから、何か法的手段が取れないか考える!!」とまで言ってくれた。
こんな事を言ってくれる苫米地くんに私は感極まってしまい
「苫米地くんになら『サバ缶みたいな女になれ』って言われても我慢できるのに!!」って泣いてしまったら、カレ、ますます顔を赤くして「オレ!キミにそんな事、絶対言わない!!」って怒鳴ってしまって、一瞬、周りの時間を止めてしまった。
「『どうしよう!!』」って
お互い、涙と間接照明でキラキラした目を見つめ合ってしまったら……
「そりゃ~告るしかないんじゃない?」って酒に染まったお姉さんの声に押されて……
二人同時に告って店中の喝采をいただいてしまった。
で、その日から私は苫米地くんのお家だけでなくお布団まで“ヤドカリ”してしまったのだけど……
カレのお家へ行く前に“うれしはずかし”のお泊まりグッズと一緒にコンビニで調達したサバの味噌煮缶が、何戦か交えた後の翌朝の……私達の初めての朝ごはんのおかずとなった。
そういう訳で我が家では……
家族全員、サバ缶のファンだったりする。
おしまい
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