表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

3.完チュートリアル

「わかりません」


僕の答えに、博士は微笑んだ。


「君も葛藤している。できる限り私の話を聞いて、時に共感し、時に理解しようとしている。姿勢が少々、前のめりだったことは気がかりだが、それは礼を逸しているとは言わない。私にとって君は愛すべき患者だ」

「患者が医者を理解しようとする必要はありますか?」

「自分と相性のよい医者を探すことは大切だ。そういう意味で、患者の方もアンテナを張っておく必要はあるのではないかな?」

「そう、ですね」


少し、沈黙が降りた。カフスを弄り、ネクタイを正し、ハンカチーフをたたみ直す。


「そろそろ私の時間は終わりのようだ。少しは参考になったかな?」

「貴方の言動は、共感できるものもあれば、理解できないものもある。でも、貴方自身の印象が、あまりにも素敵だから……僕は容易に丸め込まれてしまう。具体的な被害者を知らないからこそ、貴方のような人が言う、無礼な人間は、本当に無礼だったんじゃないかと、そう思ってしまいます」

「常に相手を疑うことは大切だ。もちろん、リスペクトを持ったうえでの話だけれどね。私も君のような生徒にあえて楽しかった。最期に、素敵な時間をありがとう」

「……最期、ですか?」


彼は微笑んだ。


「捕まってしまったからね。刑の執行の直前になって、ここにいた。この時間が終われば私は、椅子に座ることになるだろう」


口を開く。言葉が出ない。


「……あなたにとって、自分の死とは?」

「他の被害者と変わらない。無礼な連中と同じ姿になるのは、悲しむべきことだが、報いと言えば報いだろう」


立ち上がった彼が、手を伸ばしてくる。こちらも気がつけば立っていて、相手の手を握っていた。握手。


「幸運を祈るよ。では」


瞬きをする一瞬で、彼は消えていた。がらんとした部屋に、僕一人。まだ温かいコーヒーだけが、彼の唯一の痕跡だった。


『チュートリアルを終わります』


そんな声がどこからか聞こえてきた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ