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173.『上』

 そもそも三年目でB級の一員になっているだけでも充分に優秀だ。A級とB級の間にある壁の方が厚いことで有名とはいえ、B級にだって上がれない者は上がれない。俗に言われる万年C級とは、実はそこまで珍しい例ではないのだ。


 無論、たとえC級から脱せずともそれはそのテイカーの無価値を意味しない。昇級試験の傾向によっても向き不向きが出る上に、「個人での強さ」と「チームでの強さ」。これらを画一的に推し量る都合上、どうしても評価範囲から零れ落ちてしまう者も出てくる。


 システムの避けられない欠陥とでも言うべきそれの煽りを受ける代表と言えば完全サポート特化のテイカー。気質にしろ唯術にしろ「他者を補助する」ことのみに能力が集中しているテイカーは、チーム内に一人いれば任務の成功率にダイレクトな影響を及ぼすほどの存在になるが、言わずもがなそれはその人物ただ一人だけでは発揮できない力である。


 そこが昇級試験におけるネックとなり、「個人での強さ」が足りていない以上は昇級基準を満たせない。これは逆のパターンもまた然りであり、どんなに個人で強くとも仲間とまったく連携を取れないようでは話にならない。それこそ単独戦力としての価値だけで等級を上がっていくには、等級外等級と称されるS級に値するほどの頭抜けた実力があって初めて検討される事案。これがどれだけ高いハードルであるかは、歴代のS級たちの顔ぶれとその異常なまでの強さを知っている者なら容易に理解できるだろう。


 それくらいにテイカー協会では個とチーム、どちらの要素も等しく重視されるということ。補助特化の者が自力のみで基準を満たすには難しく、反対も同様だとなれば、まずもって高い水準でその両立を叶えているテイカーがむしろ貴重な例であることがわかるはずだ。


 そういう前提を踏まえるに、アルバス・ペトルー。訓練所も経ずに研修をクリアし、そこから二年でB級へ上がっている彼の経歴は相当に優秀なものである。聞けばあのライネも訓練所の世話になっていないという。おそらくだが、両者共にイオという巨悪の出現がなくとも順当に昇級を果たしていったことは疑いようもない……しかしとびきりの有事が起きたがために、期せずしての飛び級となった。


 モニカやアイナなども含め、これを彼らにとっての幸運と取るか不運と取るかは難しいところだ。中でも唯一イリネロだけは憑き物が落ちたと自らを評するほど現場員への転身&S級への昇級を喜んでいるようなので例外だろうが、何はともあれ。


 若い才能の芽吹きがある。これ自体は素直に喜ばしいことだ。彼ら彼女らが今後のテイカー協会を支え、未来の礎になっていく。そう思えばこそ先の戦いで散ったテイカーたちも報われるというもの。そして、仲間を失いつつも生き残った者の心の傷にも多少は慰めになってくれることだろう。


「どんな唯術か聞いても?」

「【猛進】という直線運動に限り自身を加速させるものです!」

「へえ、それはまた……シンプルで強そうじゃん」


 詳しくアルバスが語ることには、以前は体全体でしか発動条件を満たせず体当たりや飛び蹴りといった大きく隙を晒す攻撃しかできなかった(そこをチームのメンバーに助けてもらっていた)が、孤立し魔人数体に嬲り殺しにされかけたことで覚醒、部位ごとでの【猛進】の適用が可能となり、拳だけを加速させて超速の打撃を放つ、などという戦い方もできるようになった。


 元々攻撃モーションが分かりやすすぎる点と後隙が大きすぎる点、これらの弱点もあれど威力だけはピカイチであったために、アルバスが唯術を決められるシチュエーションさえ作り出せればその時点でどんな魔物にも必勝であった、とのこと。


「なーる。そんだけ威力がある唯術をパンチやキックでも使えるようになったとくれば、そらー強いわな。魔人をまとめて返り討ちにできるのも頷ける」


 などとマクレアンが無精髭の生えた顎をさすりながら述べた感想にアルバスは嬉しそうにしていたが、エミウアが気にかかったのは彼の能力以上に、以前までの使い方。その重要なサポートを果たしていた彼のチームについてだった。


「仲間と離れ離れになることについてはどう思ってる?」


 チームに関して語るアルバスの表情は明るく、自慢げですらあった。仲が良かったのだろう。その上でテイカーチームとしてのまとまりもあったのだろう。そのことはアルバスを勧誘するにあたっての下調べでエミウアも存じている。人間関係に不和が見られなかったことも彼を特A級へ誘う上での大きなプラス要素になっていた。それ故に、元の仲間たちと離れて一人で昇級してしまうことに何かしら思うところはないのか、そこをエミウアは確かめたかった。


 いきなりの問いかけにアルバスは少し意表を突かれたようなリアクションを見せて……しかし、きっぱりと言い切った。


「迷いはありません。いえ、振り切ったと言うべきでしょうか。昇級のお声がけがあったときチームの皆に相談したんです。自分はどうすればいいだろうかと……すると全員が言ってくれました。迷うなんてお前らしくない、チャンスなんだから絶対に挑むべきだ。そう、背中を押してくれたんです。ですから自分はここに来ました」


 アルバスも己だけが昇級を、それも飛び級によるそれを果たしてしまうことに少なからず寂寥や申し訳なさを仲間に対して感じていたのだ。だが、チームメンバーはそんなものを笑い飛ばした。いつでも猪突猛進なのがアルバスのいいところであり、尻込みなんてらしくない。自分たちのことは気にせずに上へ行っておけと、彼を送り出した。


 勿論、彼らとてわかっているはずだ。アルバスはA級を飛ばして特A級にまで一気に昇級する。そして特Aに認められる人材は全テイカーの中でもほんの一握り。A級こそが一般的なテイカーの最終地点ゴールだと言われる程度には難度の高いことであり、チームのメンバーが揃って特A級にまで至れる可能性は限りなく低い……いやいっそゼロと言い切ってしまっていいくらいだ。


 アルバスに追いつくことは、同じ面子でまたチームを組むことはきっともう叶わない。と、それを承知の上で自分の門出だと祝してくれた彼らの気持ちはしっかりとアルバスにも伝わり、だからこそ彼は迷いなく決断することができた。


「S級もそうでしたが、特A級も人数が減ってしまっていて。だから自分にも声がかかったのだと理解しています。そして、その責任の重大さも。ですのであらゆる意味において! 自分は特A級に相応しい男になります! 覚悟はできているつもりです!」

「……聡明だね、アルバス。拾う神ありってやつか? 確かにS級も特Aも頭数を減らして協会の戦力はガタ落ちだった。けど、知っての通りS級にはライネとイリネロが。特Aにはあなたたちが来てくれた。よくぞ見つかってくれたと思うよ、才能の原石たち」


 アルバスだけでなく、モニカもアイナも。現時点でもその実力は確かであるが、特A級として活動する内にもっと成長するだろう。そのために必要な自覚・・──何よりも自分たちには今後の飛躍こそが求められていることを、ちゃんとわかっている。


 頼もしいことである。有事だからこそ発見された強者たち。こういう者が途切れない限りは、協会はきっと安泰だ。その努力さえ怠らなければきっと、これから先に再びどんな災厄が起こったとしても「なんとかなる」。そう信じられる。信じていきたいと、エミウアは思っている。


「ま、言ったようにここにミーディアやコメリもいてくれたら本当に言うことなしだったんだけど……三人だけでも充分だね。改めて歓迎するよ。ようこそ特A級、狭間にして半端の等級へ。ここで与えられる任務は良くも悪くも今まで受けてきたものとはガラッと変わるだろうから、そのつもりでね」

「「はい!」」

「……はい」


 アルバスとモニカは威勢よく、アイナはやはりぼんやりとした様子で返事をして。そこで折よく残りの特A級の面々も合流したことで、今日の会議が始まった。議題はふたつ。


 ひとつは新顔の周知、そしてもうひとつは──つい先日ライネが行なったという「予言」に関してだった。



◇◇◇



「予言なんて大袈裟な言い方をされたら困る、とあの子は零していたけどね」


 その時の彼のしょぼくれた顔を思い出して忍び笑いながら、出された茶に礼を言ってずずっと啜る。ふう、とひと息を入れたユイゼンは話の続きを待つ彼ら──テーブルを挟んで対面のソファに座るグリンズとガントレットへと目線をやった。


「だがまあ、軽視できることじゃあないからね。あんたらが神経を尖らせるのもわかろうってもんさ。そこは坊やだって承知の上だろう。ただし」

「ただし、なんですかな」


 エマの用意した茶にも、たった今出された茶菓子にも手を付けず、むっつりと腕を組みながらグリンズが問う。いつにも増して気難しい彼の様子にも苦笑を漏らしつつユイゼンは続けた。


それ・・ばっかりに振り回されるってのもどうなんだろうねぇ。あんたらの言う通り、ことイオの動向に関しては──その『考え方』も含めて怖いくらいにピタリと言い当ててきたライネだ。末期の言葉にイオ自身が仕込みを語ったとなれば尚更にあたしらは備えなくっちゃあならない。そいつはまったくもってその通りだよ」


 ライネが警告と共に口にしたもの。正確には死に際にイオが残したセリフが「特大の爆弾」であった。己が敗北も見据えて彼女が用意していたそれが、いつかどこかで起爆する。すると協会は、否、世界は再び魔人軍の侵攻と同規模の危機に晒される……らしい。何も確定していない不確かな、けれども確かな予言。今、協会はそれにどのような対処を取るかで非常に悩まされている。


「対処なんて言ってもなーんにも情報がないんだ。ライネが言うにはイオも具体的な内容に関しては一切触れなかったそうじゃないか。そんなもんに適した行動を求められたってどうにもならんだろうに」

「ええ、確かに。ライネとイオの決戦場となった旧大都の跡地には魔人の拠点もどこぞにあるそうなので、まずはそこを探し出すところからですが……何せ旧大都は広大だ。地上も地下も手付かずのまま、一からの捜索となる。容易なことではありませんな。これだけでも相当な手間と費用になるでしょう」


 淡々とユイゼンの言に賛同を返しつつ、「ですが」とグリンズはそこから幾分か重苦しさを増した口調でこうも自分の意見を告げた。


「だからといって何もしない、というわけにはいかないでしょう。費用対効果の面で言えば仰る通り最悪。挙句には捧げた労力が全て無駄になる可能性も大いにある、としてもです」


 グリンズにはユイゼンの言わんとしていることが正確に伝わっていた。即ち、イオの今際の言葉が真っ赤な嘘なのではないか。単に敗北を喫しての嫌がらせとして口から出まかせを吐き出したに過ぎないのではないか、という疑念だ。


 伝え聞くイオの言動や思考法からしてその可能性は捨てきれない。というのがグリンズを始めとしたこの場の一同の共通見解である。多少なりとも苦労をして整えた、自身に絶対の忠誠を使う魔人の軍隊という圧倒的な「力」。それすらも雑に使い潰すことへ少しも躊躇いを見せず、また己がライネに負けるようであれば他の何もかも知ったことではない……そういった究極の自分本位とも自暴自棄とも言える生き方をしていた少女だ。


 そんな人物が果たして敗北後の保険を残すことを、「自分がいなくなった後の世界」に関して手を打つようなことをするだろうか?


「この点に関するライネ坊の意見は簡潔でしたな。『イオはひどく気分屋。だから、普段の彼女らしからぬこともここぞという場面でやってもおかしくない』……ま、なるほどとは思わされましたよ。計算高い一面もあるってぇことは間違いないわけですからね」


 顎を掻きつつ──こちらは茶菓子を出された途端に一口で食べ終わっている──ガントレットがライネから直に聞いた情報を付け加えれば、ユイゼンはそれにひとつ頷いて。


「そうさね、あたしもそこには同意するよ。あれは如何にも言うこと・やることを気分次第でころころと変えそうな面をしていた。その点に関しちゃ何もおかしいとは思わない……だから引っ掛かっているのは別の部分だ」

「というと」

「中途半端なのがね、どうにもすっきりと来ない。やるにしろやらないにしろ決めた方向にはとにかく吹っ切れるのがイオって奴の印象だ。奴が死後の爆弾を用意したと言い切ったのならおそらくそれはあるんだろう。だが『ある』とだけ伝えてその中身をほんの少しも明かさないってのが……あたしには思える」

「……そりゃなんですかい、つまり『隠している』のはライネ坊の方だってことですかい?」


「あるいは、イオがそういうらしからぬことをするだけの理由があった。つまり奴よりも『上』がいるか、のどっちかだね」



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