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107.会議

「本部所属の全テイカーの六割近くが鬼籍に入りました。総数にして四百と十一。支部員の犠牲者も含めればもっとです。更に悪いことに上座も含めた上層部はルズリフ支部へ出向していたグリンズさんを除き『全滅』ですので……まあ、なんと言いますか。甚大な被害でも表現としては足りないくらいですね」


 お手上げとばかりに肩をすくめてみせた彼の言葉は軽かったが、内容はそれに反して非常に重たいものだった。


 命こそ助かったとはいえ動けない負傷者も多数いる。そういった面々も含めれば失われた本部の人材は六割どころではない。そして、協会絶対の切り札であるS級テイカー……その五枚の内の四枚が欠けたこともまた特筆すべき被害である。組織としては上層部の壊滅こそが最たる懸念となるが、協会を一組織たらしめる重大な要素として武力が欠かせない以上、その筆頭であるS級の敗北という事実は何よりも深刻なものと言えた。


 このことをあえて今更語る意味もあるまいと彼が伏せたのは、今ここにいる面子が余さずS級という立場に、その五人の強者に最も近しく、それ故に特別な感情を抱く者たちであるからだった。


 特A級テイカーのソリウス・オクオーン。望んだわけでもないのに自然とこの会の司会進行役となってしまった(これ自体はいつも通りと言える)彼は、一同を──自分と同じ特A級の八人を見渡して続ける。


「つきましては暫定的な処置としてグリンズさんを単独の最高指揮官に据え、私たち特A級がまとめてその直下に入る、という新体制に移行することになりました。何か反対意見のある方は、どうぞ。聞き入れられるかはともかく言うだけ言ってしまいましょう。機会は今だけですよ」

「自分は異論なし……つーかある人いねーでしょ、そうするしかねーんだし」


 と気だるげな手の挙げ方をして口を開いたのは、円卓である会議机の並びでソリウスの隣となっている少女だ。まだ幼年と言ってもいいくらいの見た目をしている彼女は、その特徴的なおさげを揺らしながら椅子へともたれかかり、これまた特徴的なそばかすのある頬を指先で描きながら「にへら」と笑った。


「ぶっちゃけ言っちゃうと生存者がグリンズのおやっさんで良かったよ。他の執務長はちょっとほら、あれだからさ。少なくとも現場畑の自分らにとっちゃこれがベストでしょ」


 グリンズの生存を喜ぶだけでなく、彼女の言葉の裏には「跡目争いの危惧」がなくなったことを喜ぶ──つまりはグリンズ以外の執務長の落命を僥倖と取る所見が見え隠れしている。これは聞きようによっては……否、どう贔屓目に取り繕っても協会に対する反意を指摘されて然るべき発言だったが、少女への怒りや注意の声が場から上がることはなかった。


 なんと言っても咎める主体である上層部が存在しない以上は注意などしても仕方ない、と一同が示し合わせて目を瞑ったのか。あるいはというぼかした言い方でもその意味するところを重々に察せられるくらいには彼らにもそれぞれに覚えがあったからかは、不明であるが。とまれその少女──エミウア・ヴォリドーの意見を受けてソリウスはしかと頷き、円卓の席につく一同を見渡して言った。


「というわけですから、これより私たちは一時的に本部所属に戻ります。いえ、この非日常時ですし本部の事務員も足りていませんからわざわざ手続きをしろということではなく、そういう扱いになるのだと理解だけしていただければ……ええ、それで充分でしょう」

「ほい、質問」

「なんです? マクレアン」

「死人と怪我人がここに呼ばれてないのはわかるけどよ、オールデンの奴はどうしたんだよ? なんであいつだけいないんだ」


 最強の切り札であるために──そして大抵の目的に対し過剰戦力になりがちであるために──協会としてもおいそれとは動かせないS級に対し、次点のランクである特A級は強さとその度合い、そして人数のバランスに優れており、実質的に協会の最高戦力はSではなく特Aだと見做す者も少なくなかった。


 ところがフロントラインの台頭を皮切りに度重なる特A級の敗北ないしは負傷によって、現在動ける……つまりは「戦闘行為に耐え得る」者は九人にまで数を減らしてしまっていた。


 そう、九人・・。今この場にいるのは司会役のソリウスを含めて八名だ。足りないあと一人が誰かと言えば、ドレッドヘアが印象的な男性マクレアン・アパシーが名を挙げた人物その人である。


 オールデン・ディアン。特A級最強と謳われた男ゼネベン──に次いで強いとされる、特Aの中でも重要度の高いテイカーだ。今後のことを思えばその重要度は更に高まっているとも言える。そんな彼が会議に参加していないなどあり得ない……あり得ていいことではないとマクレアンは言っているのだ。とはいえ、そのあり得ないことが起こっているのだから何かしら事情というものがあるのだろう。


 よってそれを存じているであろうソリウスへ訊ねたわけだが、案の定に彼は訳知り顔ですぐに返答した。


「彼の所属する支部が年に一度の繁忙期・・・のようでして。ほら、やけに同じ地帯で多くの魔物が湧く時期ができて、それが数年続くじゃないですか」

「淀み現象か。はーん、だからオールデンがその支部に出向してるってわけだな」

「ええ。彼なくして対処は難しいでしょからね。幸いにして繁忙期を抜ける目途も立っているようですし、数日とかからずに合流できると思いますよ」

「その数日でおじゃんにならなきゃいいけどねー。なんせたったの正味一時間で難攻不落を誇っていた本部ここがこの有り様なんだから」


 やはり気だるげな調子で実に嫌なことを口にするエミウア。同卓する何人かから窘めるような視線を向けられたが、当の少女はそれを気にした様子もなく隣席のソリウスを見上げて──ソリウスも席についているがエミウアの背が低いためにそういう形になる──「それで」と話を進めるように言った。


「この会議の主催者サマはどーしたのさ? あの人がいないことにはもう知ってることの確認くらいしかやることないでしょ」


 彼女の言は的外れではなかった。上層部もS級もそれぞれ一人を除いて全滅しているだとか、あるいは被害者の総数だとか。そういった「数字」に関しては改めてソリウスから聞かされるまでもなくこの場の全員が把握していることだ。


 無論、魔石結界を始めとした人材面以外での被害。それにテイカー内から裏切り者が出たことに代表される被害が生じるまでの経緯についてなど、より仔細を確かめる意味でも既に周知されている事実の再確認は決してやっておいて悪いことではない。ものの、現状においては何よりも「時間が惜しい」からにはソリウスの行いが言外に悠長だと言われてしまうのも無理からぬことであった。


 それをソリウス自身も認めて。


「ですね。あまり有意義な時間の使い方とは言えない、それは確かです。……が、どうせ私たちは揃って現場畑にして戦闘畑の人間。本部の『修復』を急いでくれている事務員さん方のお手伝いができるわけでもなし、そう焦ることもないでしょう」


 正確にはここで焦っていても仕方がない、と言うべきか。


 ロコンドというS級の唯術の助けもあった従来の魔石結界の構造が崩壊してしまったからには、その代わりになるものが必要だ。本部の建物に空いた大穴の修繕も含めて──こちらはそれに適した唯術持ちが生き残りの事務員にいるために然程根を詰めた作業にはならなそうだが──居城・・の立て直しは必須にして急務。


 とはいえ、建物はともかく結界の方はシステムの再構築の難度に加えてロコンドの【遮断】の代替が利かないという大きな問題をふたつも抱えており、どれだけ事務員が完璧な仕事をしようとも元の魔石結界並みのものなど土台作れっこない。


 新結界が完成したとしても以前ほどの防御力は得られない。そして完成まで本部は常に無防備である。そこをグリンズが勘案した結果が、各々籍は違えどこうして一堂に会している特A級の面々だった。これだけの人数の特A級がひとつ所で顔を合わせるなどこれまでにはなかったことだ。つまり本部に集められた彼らこそが現状、魔石結界の代わりとなる生きた「本部を守る壁」なのだ。


 ならば彼らは、戦うことしか取り柄がないとソリウスは半ばの自虐も込めて言うものの、戦える者であるために本部ここにいる意味と理由がある。彼らという守りがあるからこそ事務員たちも自身の仕事に集中できる上に、時間を置かずの再襲撃という考え得る限りの最悪の事態がもしも起こった場合、すぐさま現在の最高戦力をぶつけるという攻撃的な布陣を敷けてもいるのだから、やはり特A級が集まっている意義は大きい。


 なので、いざその時が来た際のために滞りなく行動できるよう「待ち時間」の間に情報の共有と精査を行なっておくのは合理的だろう。そうソリウスは主張しているのだ。


「ま、そだね。その通りだ。それでもやっぱり自分なんかは、後ろを振り向くことよりも早いとこ前だけに注意を払いたいな、と思うけどね」

「ああ、そうさね。あたしもそう思うよ」

「!」


 いきなり聞こえたこの場の八人の誰でもない声。それに反応した一同の視線の先では、声の主──ユイゼン・ロスフェウが部屋の扉を開けて入室してくるところだった。


 ごくり、と誰知らず喉が鳴る。ユイゼンは現在唯一となったS級にして最古参のテイカーとしても有名な、生ける伝説にも等しい存在だ。そんな人物の登場となれば特A級の猛者たちであっても心が揺れ動くのは致し方ないこと。それも会議室にいる八名の誰もがユイゼンの入室に、彼女が声を発するまでまったく気付けなかったのだから動揺も一入であった。


「ユイゼンさん。よかった、思いの外に早く来てくださって」

「なんだい、あたしの遅刻は織り込み済みだったような言い方だね」

「いえいえ、若輩としていくらでも待つつもりでいたというだけのことですよ」


 一段と早く驚きを引っ込めたソリウスは立ち上がり、にこやかにユイゼンを迎え入れる。そのお供として一緒に入室した数名の面子も諸共に。ソリウスは円卓の空いている席へ座るように勧めたが、ユイゼンが「立ったままでいい」とこれを拒否。それに合わせて着席している全員が立ち上がろうとしたのも制してやめさせ、鶴の一声を放った。


「平時じゃないんだからどうでもいいことにいちいち気を遣わなくていいんだよ。その子の言う通りさっさと話を前へ進めようじゃないか」


 最年長かつ最高位のテイカーにそう言われて反論を持つ者はいない。浮かしかけた腰を落ち着かせ、ソリウスを含め全員が拝聴の姿勢を取った。それを受けてユイゼンは満足そうに頷き、次いで己の背後へと──そこにいるメンバーの一人へと視線をやって、その発言を促した。


 それに従って三歩ほど前へ進み、ユイゼンの横へ並び立った少年……ライネは、多少の緊張を感じさせる硬い表情で重々しく口を開いた。


「これから話すことは、僕がフロントラインのリーダーであるライオットに攫われてから本部強襲事件が起こるまでの『全て』です。少し長くなりますがどうか最後までお聞きください」



◇◇◇



 前置き通りにそれなりの時間を費やして、けれどもできるだけ切り詰めて自身の体験を紡いだライネが一通りを語り終えて口を閉ざしたところ、場には沈黙が下りた。


 それは今し方聞いたものをどう飲み込むか、あるいはその咀嚼の仕方に困っているような間だった。円卓の面々の互いの顔色を窺うような静寂の後に、マクレアンが再びの挙手と共に口火を切った。


「根本的な確認をしたいんだが……ライネって言ったな。俺たちはどこまでお前の言葉を信じればいい?」

「それは」

「いや、何もお前が嘘つきだって言ってんじゃないんだ。だが情報源がそもそも敵の言葉だろ? やけに協会に拘っておきながら今回の襲撃での人の減らし方がおざなりなのも気になる。お前、騙されてんじゃないか? そしてそれを元にイオってガキは協会全体も騙そうとしている。その可能性がないとは言えない……というか大いにアリアリだろ。そこら辺はどう説明すんだ」

「……えっと」


 ライネは彼の視線と言及に言葉を詰まらせた。イオがやけに協会に拘っている、とマクレアンが感じたのはライネが体験を話す上で意図的に「転生者」にまつわる部分を省いているからだ。これは伝えても意味がない、どころか余計な混乱を招くだけと判断してオミットしたわけだが、さっそくその弊害に行き当たってしまった。


 さて、本当にどう説明したものか──。



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