「魔法の言葉」
私には魔法の言葉がある、どんな悩みも問題も解決できちゃうんだ。
「ねぇねぇ、あんたなんてここに居てもなんの意味もないから早く帰れよ。」
「それな〜マジ邪魔。」
「…ごめん…」
大丈夫、こんなのなんともないよ。
「あんたなんて産まなきゃよかったよ!死ね!死んじまえ!」
「…。」
大丈夫、大丈夫だから。
こんなことで泣くな、私。
頑張れ、こんなこともう慣れたでしょ?
私は、絢瀬癒愛。なんの取り柄もないただの高校生だ。
…急だけど私には魔法の言葉がある、どんなこともこれで解決できる魔法の言葉。
私に安らぎを与えてくれて不安も消してくれる。
そして…満たしてくれる、私の孤独さえも。
ね?すごいでしょ?私の唯一の心の支えなんだぁ
「…朝…か…学校、行きたくないなぁ…」
そう思いつつも学校を休むなんてそんなことできない。朝食も食べずに制服を着て玄関で呪文のように自分にいう。
「…大丈夫大丈夫!…よしっ、行ってきます。」
まぁ…「行ってきます」なんて言っても「いってらっしゃい」って言ってくれる人なんていないんだけどね…
ガラガラッ
「…おはよう…ございます。」
教室に入った瞬間、みんなが一斉に私の方を向く。私に冷たい視線を送ってから何ともなかったかのように過ごし始める。
「あいつ今日も来てるよ。」
「うわっ、早く不登校になればいいのに。」
今日も変わらず誰かが私の愚痴を言ってる、まるで息を吸うように。
もはやここまでくると…なんも感じなくなるなぁ…
ドンッ
「あ、ごめん…」
「チッ、ふざけんなよ。」
「帰れよ。」
学校では早く帰れと言われ、
「ただいま…」
「…。」
「お、お母さん…あのさ」
「うるっさい!」
「ご、ごめん。」
「聞こえないわよ!もういい、出かけてくる。」
「…いってらっしゃい…」
家では帰ってくんなと言われ、
…なら私はどこに行けばいいの?私の居場所はどこにもないの?
自分の部屋に入り自分に言い聞かせる。
「大丈夫、心配ないよ。今日あったこともほんの小さなことだから気にしなくていいよ。」
思ってもいない嘘の励ましの言葉がどんどん口からでてくる。
…でも仕方ない、頑張るためには嘘でもこうしなきゃ。
いつだって私はひとり、だけど私自身がいるから…大丈夫、なはず…
でも…どうしても…不安な孤独は消えはしない。
「…よく聞いて、私。」
涙を拭いて鏡に映る自分を見つめて
「私が大丈夫って言えば私は絶対大丈夫だから。もし世界中の全員が私のことを嫌いだとしても。私だけはずっと私の味方だから。」
大丈夫…私は、だい、じょう、ぶ…
「…本当に…?」
どんなに大丈夫って言い聞かせても心は本当は大丈夫じゃない、けど助けてと言えない。言えたのなら苦労なんてしていない、本当は辛いけど辛くないふりをする。
「お!癒愛!」
「り、李桜!?」
「一緒に行こーぜ!」
「う、うん。」
俺は篠崎李桜、癒愛の幼馴染だ。癒愛は昔からひとりで何でも抱え込む癖がある、俺はそれを見て何もすることができない。ただただ隣に居てやることしか、俺にはできないんだ。
俺は最低だ、癒愛が悩んでることを1番知ってるのに見て見ぬふりをしている。だって俺なんかが癒愛を助けられるか不安だったからだ。
李桜はいつも私の心配をしてくれる、とっても有難いけど…私のせいで李桜に迷惑を掛けたくない。だからバレてるとわかっていても嘘をつく、積み重なった嘘が崩れないように心に重い蓋をする。
泣き崩れてしまいそうないじめも考えたって仕方ないよ。今日もまた心に言い聞かせるよ。
「私が大丈夫って言えば私はきっと大丈夫だよ、もし死にたいときがあったとしてもそんなことくだらないよ。どんなにどん底に落ちても私は壊れないよ…ね?」
「あっ、癒愛…」
「おい、絢瀬!マジでうざいって言ってんじゃん。なんでわかんないわけ?」
「ごめん…」
「てか、こうなってんのはお前のせいだからな?うちらのせいにすんなよな。」
「…うん、わかってる。」
「…クソッ…」
いじめられたのは私のせいと癒愛はまたひとりで抱える。
俺には聞こえる
「辛い、助けて」
とお前の心の声が訴えてるよ。
なにもないように気丈に振る舞い、誰も居ないところでひとり泣きじゃくり誰かに助けを求めることもしない。
癒愛が助けを求められないのなら…俺が助けに行くよ…!
「はぁ…死に、たい…なぁ…」
「…そんなこと言うなよ。」
「!」
「いいか?癒愛、よく聞け?」
「うん…」
世界を変えてやるよ、俺の言葉で届かせる。癒愛の心の奥の奥底まで。
「お前が悩む度にお前に伝えよう、癒愛は決して悪くないと。」
「で、でも!」
「もうお前は頑張ったし自分にたくさん言い聞かせた。だから今度は俺がお前に言おう。」
「え、?」
「俺が大丈夫って言えば癒愛はきっと大丈夫さ。俺じゃ頼りないかもしれないけど…俺が大丈夫って言ったなら癒愛は絶対大丈夫だ!辛いときは俺がずっと傍に居るし何かあったのなら俺が守るよ。」
「李桜…」
「そして周りの奴らはいつか癒愛に言う。」
「癒愛、いじめられてたのに助けてあげられなくてごめん…」
「癒愛…許して貰えないのはわかってるんだけどほんっとうにいじめててごめん…」
「癒愛、あなたのこと…本当は愛してる。ただ上手く言葉に出せなくて…強く当たっちゃってごめんなさいね…」
「心を開いた癒愛に世界中が愛をくれる。お前の名前のように癒しの愛を。もう言わなくてもいいな?これで最後、だいーじょーぶ!」
「ありがとう…ほんとに…ありがとう…」
「俺はいつでもいつまでもお前の味方だからな!」
戻った笑顔、そのまま癒愛で居てよ。ずっと。
李桜が私にそう言ってくれてから数ヶ月後、いじめがピタリと止んだ。
その日から私のことをいじめてきた子達が謝ってきてくれて仲直りできたしクラスメイトとも仲良くできてる。
「癒愛!一緒に帰ろーぜ。」
「今行く!」
「…ゆ、癒愛!俺…癒愛のことが好きなんだ!」
「え」
「俺じゃぁお前につり合わないかもだけど…」
「嬉しい…!私も李桜のことが好き!」
「よ、かったぁ…」
李桜が告白してくれるなんて…凄く嬉しい…!
こんな幸せなこと…一生ないかも。
「ただいま~!」
「おかえり。」
「あれ、お母さん。お父さんは?」
「帰ってるぞ〜」
「ねね、今日ね!」
「なになに~?聞かせてちょうだい。」
「面白そうだな、父さんにも聞かせてくれ。」
それに、家族とも仲良くできてる。母は父と結婚してとても幸せそうにしている。
こうなれたのはぜんぶあの言葉のおかげ。
この世界では沢山いじめられてる人がいる。
みんなそれを見て見ぬふりしてる。
心の奥では助けたいと思っているのに怖くて助けられない。
でも、この世界には誰だって誰かのヒーローになれる言葉がある!
みんなも誰かのヒーローになってみて!世界が一瞬で変わるから。
「大丈夫」その一言で人は救われるんだよ。