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京子は武志のアパートへ行った。
何か手掛かりが見つかるかもしれない。
アパートの鍵は開いたままになっていた。
京子は、机の中、テーブル、タンスの中、本棚と何か手掛かりになるものはないかと探した。
本棚の本の間から何かが落ちた。
写真だ。
手にとって見ると、女性とツーショットで写っている。
滝の前で撮ってあり、どこかの観光地のようだ。
二人とも浴衣姿で、おそらく旅館の部屋で撮った写真もある。
武志はニヤけている。
右下に日付けが入っている。
ついひと月前じゃないか。
それによく見ると、その女性は、あのレストラン、タクシーで武志と一緒にいた女性だ。
京子は愕然とした。
やっぱりそうだったんだ。
武志はこの女性と付き合っていたんだ。
京子はその写真を鞄に入れて部屋を出た。
京子は悲しさと切なさと悔しさが入り混じった何とも言えない気持ちになった。
そして、自分にも呆れた。
なんでこんな人のために人生を費やしていたのだろう。
駅までの道を歩きながら、涙が出てきた。
「京子ちゃん」
背後から呼ぶ声が聞こえた。
振り向くと礼司だった。
京子は思わず礼司に抱きついた。
「京子ちゃん、大丈夫か?少し休もう」
京子はうなだれて、礼司に言われるがままについて行って、礼司の車に乗った。
礼司の家に着いた。
都心のマンションだ。
最上階の部屋で、正面にはベイブリッジ、横を見ると東京タワー、その奥にはスカイツリーが見える。
まるで、東京を独り占めにしたような感覚になる。
京子はこんなマンションが現実にあるんだと驚いた。
「京子ちゃん、ご主人の件は俺の会社の責任だ。社長として謝る。本当に申し訳ない」
礼司は頭を下げた。
「礼司君、おそらく主人は女の人と一緒にいなくなったと思う」
京子は武志のアパートから持ってきた写真を見せた。
礼司はその写真を見て言った。
「この写真、少し預かっていいかな」
礼司は写真を鞄にしまった。
「京子ちゃん、俺はこれからこの女性が誰だか調べてみる。この部屋で休んでいていいよ。冷蔵庫にいろいろあるから適当に食べてね」
礼司はそう言うと、京子を置いて出て行った。
京子は疲れ果てた。
ソファに横になったら寝てしまった。