⑥
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家に戻ると、武志はテレビニュースを見ていた。
「おかえり。同窓会はどうだった?」
テレビを見ながら聞いてきた。
「うん、楽しかったよ。あなたいつ帰ってきたの?」
「今日は随分と早かったかな」
変わらずテレビを見ながら答えてた。
嘘をついている。
さっき女とタクシーで帰ってきたじゃないの。
翌日、いつものように朝ご飯を作り、武志を呼んだ。
「今日は人事の内示があるんだ。次はいよいよ取締役だろう。先日、社長から内々そう聞かされてきたから」
武志はもう嬉しそうな顔をしている。
そうか、そうならケーキでも、買ってお祝いをしようかと京子は思った。
武志は浮気はしているのは心外だが、仕事をしてくれているおかげで自分も生活が出来ているので形だけでもお祝いをした方がいいかなと思った。
武志が出かけた後、京子は、駅前のケーキ屋に電話でお祝い用のケーキを予約した。
プレートには『取締役昇進おめでとう』と入れるようにお願いした。
夕方にケーキを取りに行き、掃除をしていたら、玄関が開いた。武志が帰ってきた。今日は早いな。
「あら、あなた今日は早かったのね」
京子は掃除機を止めた。
武志は顔色が悪い。
「体調でも悪いの?」
武志は何も言わず二階に上がって行った。
しばらくして、武志が一階に降りてきた。
まだ顔色が悪い。
「大丈夫?」
京子は武志を見た。
「出向になった。社長が辞めさせられて、副社長が社長になるんだ」
社長のセクハラ問題が今日の取締役会で急遽議題となり、これ以上大きな問題となると企業イメージが悪くなるので、辞めさせられたとのこと。
副社長派が用意周到に準備をしていた。
社長と副社長は対立していて、武志は社長派だった。
その煽りで武志は出向に行くことになった。
「出向と言っても、片道切符だ。もう日本太陽食品には戻れないだろう。しかも、関連会社でもなくて、少しだけ取引している会社だ」
「なんていう会社?」
「レイカンパニーだ。お前も知っているだろう。そこの課長だ。課長と言っても俺が行くためにに急遽作った課長職らしい。事実上の降格人事だ。幸い勢いのある会社に出向なのは武士の情けだろう」
京子は思わず手にしていたコップを落としてしまった。
レイカンパニー。
礼司の会社ではないか。
こんなことがあるのか。
想像もしていないことが現実に起こるんだ。
礼司はこのことを知っているのだろうか。
京子は買ってきたケーキをゴミ箱の一番下に潜り込ませて捨てた。