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同窓会の日になった。
都庁の一階のロビーで里佳子と待ち合わせだ。
京子は時間より、先に着いて、ロビーで座っていた。
急に後ろから肩を叩かれた。
振り向いて、驚いた。
「京子、久しぶり。元気だった?」
里佳子か?
びっくりしたのは、里佳子がハッキリとした顔になっていたからだ。
里佳子は一重まぶたで鼻が低くてあまり印象的ではない顔だった。
しかし、今、目の前にいる里佳子はクッキリ二重まぶたで鼻も高く、いわゆる美魔女になっていた。
「ビックリしたでしょ。ちょっといじったんだ。目と鼻をね」
京子は何と反応していいか分からなかったが、確かに以前よりは遥かに綺麗になっている。
「驚いた。でも、今の方が素敵だよ」
京子の素直な気持ちだ。
同窓会会場にエレベーターで二人で乗り込んだ。
都庁の最上階が会場だ。
「内緒にしててね。三十五年振りだから、誰も気付かないと思う」
里佳子は楽しそうだ。
受付には、幹事の女性二人がいた。
「あれー、京子久しぶり、元気だった?相変わらず美人だね。変わらないね」
幹事が出欠表の京子の欄にチェックを入れた。
「こんにちは」
里佳子が幹事二人に言った。
「ごめーん。お名前教えてくれる?」
「里佳子だよ。分からない?」
笑いながら里佳子は答えた。
幹事二人が目を合わせた。
「あ、里佳子か。随分と雰囲気が変わったね。なんか華やかになった」
幹事二人が驚いた表情を見せた。
「えー、そう、変わってないと思うけど」
里佳子はサラッとしている。
そのうち、同窓生たちが会場に集まってきた。五十人位いるだろうか。
みんな同じ年なのに、年寄りに見える人、三十代に見える人、もっと若く見える人、いろいろいる。
みんな、どんな人生を歩んできたのだろう。
会が始まり、一人ずつ自己紹介の時間となった。
「皆さん、久しぶりです。内田です。元気でやっています。今、早慶大学で先生をしています」
「そういえば、内田は一番勉強が出来たもんな。うちの息子の家庭教師をやってくれよ。もちろん無料で」
誰かが冷やかし、皆、笑った。
「おー、久しぶりだな、みんな。坂田だ。俺は実家の酒屋継いでる。小学校の目の前の酒屋だよ。覚えてるか」
「お前、小学生に酒を売るなよ」
また、誰か冗談を言って、皆、笑った。
和やかな感じで続いていった。
京子の番になった。
「こんにちは。山下京子です。今は専業主婦です。子供はもう独立しました。久しぶりに皆と会えて、嬉しいです」
当たり障りのないことを言った。
「山下、相変わらず美人だな。予定ではオラと結婚だったのにな」
「いや、俺だろ」
「違う、ワシじゃ」
何人かが合いの手を入れて、大笑いとなった。
京子は自己紹介がうまくいきホッとしたのと同時に、やっぱりまだ自分は男性から見て魅力があるのではないかと思った。
次は里佳子の番になった。
「浅田里佳子です。小学校の時はおとなしかったので皆さんあまり記憶にないかもしれませんが、元気にしています。今は、輸入雑貨のお店を青山で開いています。近くにいらしたら、ぜひお寄りください。ちなみに今は独身です(笑)」
里佳子は、ピシッと背を伸ばし笑顔で美しかった。
「浅田か、ずいぶんと垢抜けたなぁ。芸能人みたいになったな」
「青山にお店を開いてるなんて素敵」
里佳子の姿と雰囲気に皆感心していた。
ひと通り、自己紹介が終わり、お開きの時間が近づいてきた。
「積もる話もたくさんあると思いますが、そろそろ、お開きの時間に近づいてきました」
幹事がそう話し始めた時、会場のドアが開いた。
「すみません。遅くなりました。戸井礼司です」
皆、ドアの方を向いた。
そこには、黒いスリーピースの見るからに高級仕立てだと分かる背広、腕にはフランクローラーの時計をした男性がいた。
「もうすぐ、お開きの時間となりますが、自己紹介を」
幹事が礼司を促した。
「皆さん、こんにちは。戸井です。遅くなり、申し訳ありません。私のこと覚えていらっしゃいますか。小学六年生の時、転校したので、お忘れかと思います。現在、レイカンパニーという会社を経営しています」
『レイカンパニーって、マスコミでも話題になっている一代で築いたあのレイカンパニー?』
『確か、ホテル経営とか飲食店とかいろんな分野に進出している会社だよね?』
皆が疑問符をつけながら、話している。
京子は、驚いた。
あの礼司がこんなに立派な姿でいることに。