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イタリアのヴェネツィアに来てから三年が経った。
来てからすぐに運良く日本料理店で働くことができ、イタリア語もだんだんと不自由なく話せるようになった。
優治は京子が来てから一年後に、会社の異動で日本に戻ることになった。
京子はイタリアに残ることにした。
日本にある実家は優治に譲ることにした。
イタリアの男性は女性に対して積極的で情熱的だ。
こちらでは人生の重きを置いていることが、男女関係のようだ。
アラフィフでも若い子たちと同様だ。
京子もアプローチをかけられる。
今では自分から声をかけることもある。
そして、その時の感情に任せて行動をするようになった。
一夜限りの時もあるし、数ヶ月付き合うこともある。
そして、別れても、友達同士の関係になる。
日本では、そういうことはあまりないと思うが、イタリアでは普通だ。
こちらの空気が自分には合うことが分かった。
京子は、夕方になると、サン・マルコ広場からドゥカーレ宮殿を横切り、運河の方に行き、ゴンドラの行き来を眺める。
ゴンドラに乗っている誰もが幸せな笑みを浮かべている。
そして、見渡す限りの空やレンガ造りの建物が夕日で真紅色に染まる。
ここから見る景色は天からの贈り物だ。
神様は私に怒ってなんかいなかった。
毎日、新鮮な感動がある。
私に新しい素晴らしい人生をくれた。
京子は夕日に向かって手を合わせた。
今夜もまた新たな出会いがありますように。
完