十
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礼司はそのまま『日本太陽食品』に向かった。
受付にレイカンパニーの社長だと告げ、人事部長と面会させてほしいことを告げた。
すぐに人事部長が来た。
応接室に通され、礼司は事の経緯を話した。
「この女性はご存じですか?」
人事部長に写真を見せた。
「うちの会社の社員です。池田順子ですね。ちょっと呼んできましょう」
人事部長は内線電話でどこかに電話した。
「あ、そう、分かった」
電話を切った。
「社長、彼女は先週から休暇を取っているそうです。事情は分かりましたので、住所を教えましょう。そこに山下さんと一緒にいるかもしれませんね」
人事部長は住所をメモにして礼司に渡した。
「この件は内密でお願いします」
「分かってます。ご迷惑はお掛けしません」
礼司は池田順子のマンションに着いた。
しばらく、マンションの様子を伺っていたら、順子の部屋から男女が出てきた。
武志と順子だ。写真の人物に間違いない。
礼司は陰からスマホで写真を撮った。二人は腕を組んでいる。
まるで、仲が良い夫婦のようだ。
礼司は武志に近寄った。
「山下武志さん」
礼司は武志の正面に立った。
武志はおののいている。
「みんな心配してますよ。せめて、京子ちゃんには連絡をしたらどうですか」
「あなた、誰ですか?何か関係あるんですか?」
武志は語気を強めて言った。
「私は京子ちゃんの幼なじみです。今、疲れ果てて、私の家にいます」
礼司は冷静だ。
「もう、俺は戻りたくない。ほっといてくれないか、
あんたには関係ないだろう」
武志は今度は懇願した。情緒が不安定なのだろう。
「このことは、会社と京子ちゃんには、話しておく」
礼司はキッパリと言い放ち、踵を返した。
「勝手にしろ!」
武志は礼司の背中に向かって放った。