人は、人生の折り返し地点に立つと、昔を思い出す
①
「あなた、朝食の用意が出来ましたよ」
山下京子は、いつものように二階でスーツに着替えている夫の武志を呼んだ。
武志は慌しくゴハンをかけ込んだ。いつもギリギリだ。
「今日も夕食はいらないんでしょ」
「ああ、今日も仕事で遅くなる。夕食はいらない」
ここ一年くらいは、ほぼ毎日武志は夕食は家では食べない。
毎日残業で、タクシー帰りの日もある。
土日の休みも接待ゴルフや、平日やり残した仕事をやりに会社に行く。
武志の会社は一部上場の食品会社だ。『日本太陽食品』。名前をいえば、誰もが知っている。
そこで、部長をしている。おそらく、取締役までは固いだろうと会社の皆から思われている。やり手だ。
二人の間には、一人息子がいるが、一昨年、大学を卒業し、商社で働いている。今は、イタリア支社で働いており、家に帰ってくるのは、正月くらいだ。
息子が家を出てからめっきり夫婦の会話が減った。
京子はそれに対しては不満はなかった。お互い、あまり干渉しないのが私たちにはいいのかもしれない。
専業主婦として、家のことをしてきたことに後悔はない。
ただ、息子が家からいなくなり、毎日、夫を送り出すだけの生活に、少し疑問を感じ始めていた。
いつものように、掃除、洗濯をし、庭の花に水をやった。花は京子が種から育てたものだ。今日も綺麗に咲いているな、でもいずれ枯れてしまうのだろうかと思いながら、水をかけた。
郵便受けに、京子宛の手紙が来ていた。
自分宛の手紙なんてあまりない。なんだろう。
小学校の同窓会の案内だつた。
卒業してから、三十年経っている。
『皆様、お元気でいらっしゃるでしょうか。泉小学校を卒業して、三十五年が経過しました。もう、立派なおじさま、おばさまになっていることでしょう(笑)
この際、お爺さん、お婆さんになる前に集まり、旧交を温めて、健康のことなどで盛り上がりましょう(笑)
突然のお誘いですみません。
ぜひ、ご参加をお待ちしております。』
一か月後の土曜日の午後六時、場所は都庁の最上階のレストランだ。
京子は、手紙をリビングのテーブルに置いた。
いまさら、同窓会に行っても面白いのかな。
小学校の友達とは一人だけ、浅田里佳子とは年賀状のやり取りが続いている。
しかし、里佳子と会ったのはもう三年前位になるだろうか。
急に連絡があり、離婚するだの言い出して、呼び出されて話しを聞いた。愚痴を言いたかったのだろう。
あれから、どうしたのだろう。
今日の夕飯も京子はひとりで食べた。最近はどうせ一人分なので、スーパーの弁当を買ってくることが多い。作るのが面倒になってきた。
食事は食べる人がいるから、作る気がおきるのだと、分かった。
弁当を食べて、お風呂に入り、テレビを見て、寝落ちして、気がつき、ベットで寝る。
朝、起きても、武志が昨夜、いつ帰ってきたのか分からない。
毎日がこの繰り返しだ。