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第43話 ”Attack on 大胆”




 よ、よし、い、いくど。俺、頑張れ俺、ファイトだ俺。やればできる俺。


 まだターゲットであるクロロンさんはこちらに気がついていない。戦は先手必勝。機先を制するが勝ちへの最短ロードだってじっちゃが言ってた。なお、今世でじっちゃに会ったことはありません。名をかけて! ができません。


 あーーーーーー、


 やばい、——思わずツバを飲み込む。


 た、たかがクラスメイトに話しかけるだけだというのに、ここが学校でないだけでこんなにハードルが上がるってこの世のバグだろ。


 気づけば歩幅がいつもの三分の一くらいになっている。今五分の一になりました。ええか! これがワイの、ワイの、ホンマモンの牛歩戦術っちうわけや!! 


 いかんて、現実逃避が過ぎる。慌てて懐からノートを取り出す。さながら聖書で戦うエクソシストみたくページをパッパッとめくりながら、祈る。勇気をくれ、何か言葉よ。勇気を。


『ルール6 四の五の言うな』


 ふぇぇぇん、でもでも、


『ルール7、でもでもだっては言わない』


 おい、この流れキレイすぎるだろ。あとで順番入れ替えてやる。


 ノートをパチと閉じてポッケに再び突っ込む。くそったれが。


 思い出せ。

 

 いずれにせよ、1ヶ月で女子(おなご)をどうにか確保せんと、まなめぐに魔の手が迫ってしまう。麻倉さんはやるといったらやるだろう。あの人は冗談で済ます時とリアルガチの時がはっきりしていることが段々わかってきた。きっと期限に間に合わなかった俺に動画を送りつけ、目隠しをされ椅子に縛り付けられている二人に対し、麻倉さんがカメラ目線で「いぇーい真条クン、見てるぅ〜〜?」とかやってくるんだ。


 そんなことは絶対にさせられない。どんなことであれ、俺のせいで二人に(るい)が及ぶことだけはできない。それは母さんとの約束を破ることになる。


 ——基、二人をお願いね。

 ——みんなを、幸せにしてあげてね。


 少しずつ歩幅は正常に戻っていく。一歩、二歩と、クロロンさんと俺の距離が近づいていき、


 とうとう、隣に並んだ。


 俺はやれば出来る子。ドヤ、並んだぞい。


 並んだ。


 並んだ。


 なーらんだ。


 あのー、並んだ。チューリップの花じゃないんですけど。


 だから、並びましたケド?


「…………」


 …………いや、気づかないんかい!!!


 立ち読みに夢中のクロロンさんは、明らかにパーソナルスペースを侵害している俺氏が文字通り眼中にないご様子。


 よく考えてみたら、あれだよ、近づいてみたらむしろ向こうが気づいて先にリアクションするじゃん、俺から声をかける必要ないじゃん。


 と思っていた頃が私にもありました。くぅ〜疲れました。これにて終了です。


 どうであろうと、俺から仕掛けねばならないようだな。……クックッ、いいだろう。見せてやろう、我が力——と、その前に、この黒髪女子、何を一生懸命読んでいるんだ。しかも立ち読みのくせに後もう少しで読み終わろうとしてるから、スタッフー、スタッフー! この子、ハタキで叩いて追い出しておやり! こんなことをするからビニールをかけられて立ち読み出来なくされてしまうのよ!


 一歩下がり、気持ち腰を下げてタイトルを見れば、


『ブスでも、お一つどうですか?7〜Guts&Signな学園祭!〜』


 げんなりした。


 なんか見覚えのあるタイトルが7を数えるまでシリーズ化していた。なんならクロロンさんの指で全ては判読できないが、帯にデカデカとおどるフォントには『シリーズ300万部突破!』『ブスつかTVアニメ絶賛放映中!』とあるっぽい。いやもう大人気シリーズなのよ。略称で浸透させようとしてんのよ。レーベルの看板背負(しょ)ってんのよ


 TVアニメ効果ってホントすごい。そのまま視線をスライドし、本棚へと目をやれば、かつて前世で胸をときめかせてくれたライトノベルがひしめきあっていた。


 一つとして心当たりのある作品はないが、異世界ファンタジーやら現代ファンタジーやら、ラブコメやら、ミステリーやらいつの時代も少年少女+大きなお友達の心を掴んで離さないフィクションが具現化したブツの数々。俺も久し振りに何か読んでみようかなと思う。もちろんここでは買わずに目星をつけるのみにし、図書室か図書館を頼らせてもらうが。


 カラフルな背表紙と煽り過剰なタイトルを左から右へ一通り確認し、平置きになっている新刊へと移る。げ、『ブスつか』の最新刊であろう8巻が残り1冊となっていた。周囲の新刊と比べても圧倒的な売れ行きなのが凹みでわかる。


 それは偶然だったのだろう。


 読み終わったのか、そっと7巻を閉じたクロロンさんが次なる8巻へと手を伸ばそうとするその瞬間と、


 俺が8巻を手に取ろうとしたタイミングがかぶった。


『あっ』


 『ブスつか』の表紙のわずか10センチ上空で俺の指とクロロンさんの指がふ、触れ……接触事故を起こした。


 トゥンク……いやならんならん。マズいことになったと思う。セクハラで訴えないでお願い。


 俺が右から伸ばされる腕の持ち主を、クロロンさんが左から伸ばされる持ち主を互いに見やる。

 

 すなわち、ようやく俺の存在を認識したらしいクロロンさんの長いまつげが印象的な目がパチクリを三回繰り返した。


 一瞬でぼふんと白い肌に朱が爆発したクロロンさんがバックステップを取る。


「え、え、な、なななんでし、真条くんが……?」


 動揺著しいのかクロロンさんは、激キョドりまくっていた。


 な、何が起きたんだ。この人なんでこんな焦ってんの……ま、まさか万引きでもしようとしていたんじゃあるまいな。だとすればこの反応もうなずける。


「ち、違うから、これは、違うの、その」


 もう台詞が完全に追い詰められた犯人そのものだった。一瞬頭がフットーしかけたが、急速冷凍される。さすがの俺もドン引きだった。越えちゃいけないライン(法)、考えろよという至言を知らんのか。


「だ、第一、アナタもアナタよ、なんでここにいるの!」


 若干ではあるものの落ち着きを取り戻し始めたのか、クロロンさんは話をそらすように他責にシフトし始めた。人これを逆ギレといいます。だがちょっと待ってほしい、その質問は俺に効く。君の尻を追っかけてきたんだとは口が裂けても言えなかった。


 灰色の脳細胞を高速回転させる。


 考えろ、ストレートに答えるわけにはいかない。であればだ。当意即妙に答えるまでだ。


「俺も——好きなんだ」


 誠に不本意だが本棚の『ブスつか』シリーズのあたりを指差して宣言する。まぁいいこれはたとえだ。俺もライトノベルとか好きだから、ここに立っている。


 それが理由だ。


 俺の発言ははたして、


「……そ、そう、なの?」


 有効と認められたようだ。なれば、ドカタバイトでの学びを再び、今ここに。たたみかけるのだ。勢いは全てに勝る——ッ。


「そう。だから————好きなんだ!!」


 高らかに8巻を掲げる。チラッとサブタイを見たら『〜WhyとCryなホワイトクリスマス!〜』。毎巻なんでしゃらくさい感じを出すんだよ。イライラするわ。どうでもいいけど『ブスつか』って連呼してたらヒューマンビートボックスみたいになるだろ。


 世が世ならば焚書(ふんしょ)の対象としていたであろう『ブスつか』のカバーと俺を交互に見比べながら、


「————ふぅ、」


 目をつぶり、息を吐き出すクロロンさん。まるで何かを噛みしめているかの表情と警戒感が緩んでいくのがわかる。……ん? というかなんなら、少し目元に光るものがあるような気がするんですが。いやいや待って待って、肩も震えている気がするんですが。


 やがて、クロロンさんは手元に持ったままの7巻を掲げると、


「そう。つまり……真条くんは、同士、だったのね」


 はい……? ドウシってなに、霊幻道士? キョンシーのこと? お札頭に貼ってあるアレ?


 ちょっと言ってる意味がよくわからなかった。

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