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金蘭の友にもう一度  作者: 文 透色
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二度目の人生を(二)

雨玄視点です。短め。

 コケコッコー!!!


「!?」


 騒がしい鶏の声によって雨玄は飛び起きた。


「…ここは、何処だ?」


 寝台から動けず辺りを見渡す。


(鎧も剣も無い。あの目に痛い赤の装飾も無い。楽家の邸では無い?)


「…あー?」


 雨玄は自分の膝に乗っていた自分の手を見て驚いた。子供の柔らかい手。剣だこは無く、細かな傷も全くない手、綺麗な手だった。


『私は女神アルフリーデ。愚かな人類に慈愛の光を与える者。』


「あの女!何しやがった⁉︎」


 雨玄が激昂したと同時に部屋の扉が開いた。


「あら、雨玄。元気そうでよかったわ。」


 振り下ろした拳が掛け布団にポスッと落ち、静止する。


「すごい熱だったのよ。昨日雨に打たれすぎたせいね。動けるなら水汲みを頼んでいいかしら?」


「えっあ…うん。わかった。」


「無茶はしないでね。」


(ははうえ……母さんだ。)


 雨玄の母は水瓶に水を入れ、雨玄の頭を軽く撫でて部屋を出ていった。


 拳に温かい水が落ちた。止まることを知らないそれが、雨玄の頬を伝って零れ落ちる。


(夢……なのか?)


 ぐしゃぐしゃに濡れた手で頬をつねる。


「痛い……。ははっ。」


 雨玄は目に溜まる涙を拭い立ち上がった。冷えた水で顔を洗い、懐かしい服を纏う。


(緑色は久しぶりだな。)


 笑みをこぼしながら部屋を出る。


 雨玄と雨玄の母、香佳が住むのは下級武官の屋敷である。香佳は下働きの一人でその子供の雨玄も男衆に混じって力仕事をする。


 雨玄は水桶を二つ抱えて裏口から外に出る。すると先に出ていたらしい男衆が前を歩いている。


 しかし困ったことに雨玄はその男衆の名前がすぐに出てこない。声をかけれずに後ろをついて行き、会話を盗み聞きしながら名前を思い出す。


「全く、朝が早すぎるんだよな。水場も遠いし。ふわぁ。」


「いーや、圭が起きれないのが悪いだろう?なぁ熊?」


「その通りだ。圭、小義が起こしてくれる内に自分で起きれるようになるべきだ。」


「へいへい。」


「わかっていないな?圭!そこに直れ‼︎」


 抗議しようとした圭と呼ばれた男と雨玄の目が合う。


「雨玄んん‼︎」


 雨玄の足に縋りついてくる。今の雨玄は十歳に満たないくらいの子供である。


(邸の兄たちだ。)


「圭兄、熊兄、小義兄。おはよう。」


「あぁ、雨玄。おはよう。熱下がったんだな。」


「うん。」 


 小義が固くゴツゴツとした手を雨玄の額にあてる。小義は顔は少しきつめだが優しい兄貴分である。


「んなことより、雨玄、お前も朝早いと思うよな?思うよなぁ?」


「ううん。思わないよ、圭兄。」


(野営と比べれば全然寝れる。)


 雨玄は言葉と共に圭を振り解き歩き出す。小義と熊が苦笑して圭の肩を叩き、四人で水汲み場まで向かう。


 順番に汲み上げた水を桶に移していく。雨玄が汲み上げようとしたら熊が代わってくれた。いつも見ていて落ちるのでは無いかとハラハラしていたらしい。雨玄は善意を受け取ることにした。


「よっと、雨玄持てるか?」


「持てるよっ!」


 四つの桶を軽々と担いだ小義が心配そうに雨玄を見ていた。フラフラとした足取りながらも雨玄は着いていく。


(二桶だけでこんなに重いのか?)


 体が縮んでいることをより実感する。


 何とか水桶を運び終え、屋敷内の水瓶に移していく。


「よしっ終わりー。」


「圭、僕達の仕事は水汲みだけじゃないよ、わかってるよね?」


「わかってるよ‼︎そんなことより雨玄、来月は狩祭だな。今年で九だろう?雨玄も出るんだよな?」


(狩祭!今はそんな時期か。)


 狩祭は九歳からの男児が山に入り、狩りをする祭りだ。子供は兎などの小動物、大人は鹿や猪などの大物を狙う。狩祭で手柄を上げるのは男として誉あることである。


「うん、多分。」


「俺の時はな、熊と一緒だけどな鹿を仕留めたんだぞ。」


「それは何度も聞いたぞ、圭。」


「いいじゃねえか、自慢したって──」


「おい、お前ら。」


 のそっと壁の向こうから巨体の男が出てきた。


「げっ、蔡飯さん。」


「こんなとこで何油売ってんだ⁉︎仕事に戻れ‼︎」


「「──はい‼︎」」


 蜘蛛の子を散らすように三人が逃げ出し、一拍遅れた雨玄の片手を圭が掴み引きずって走る。


「きっと洗濯場の姐さん達だ。遅かったんで蔡飯さんにチクったんだ。失敗したな。」


 ニカッと笑った圭の顔を雨玄の頭の片端が覚えていた。目頭が熱くなる感覚がして、圭に悟られないように俯いて返事をした。


「うん、そうだね。早く行こう。」


「おう。」


(こんな風だったな。そういえば。圭兄達の温かさも、水桶の重さも、木靴の感触も全部、きっと昔と変わらないんだろう。もうあまり覚えていないけれど。)


 熱くなった鼻を風が少し冷やしてくれた。


(あの女が何者かは知らないが、過去に戻してくれたことには感謝だな。もしかしたら、救えるかもしれない。ユリウスも母さんも。)


 雨玄はこっそり心の中で微笑んだ。

読んでくださりありがとうございます。

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