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金蘭の友にもう一度  作者: 文 透色
6/7

二度目の人生を(一)

ユリウス視点からになります。

 眩い光に包まれたユリウスはまた微睡みの中にいた。


 それもまた同じように起こされる。


「──ウス。」


「ユリウス!」


 自分の名を呼ぶ声にユリウスは飛び起きる。胸に抱えていた何かが滑り落ちガチャンと音を立てた。


 瞬きを繰り返して声のした方を向く。ユリウスより薄い金髪を後ろで緩くまとめた、懐かしい顔がそこにあった。


「兄様……?」


「ユリウス、こんな暑い中で外で寝たら死ぬぞ。」


 汗すごいし、とユリウスの落とした剣を拾ってユリウスを起こさせる。


「あっ……。」


 木漏れ日の下、ユリウスの目の前に映ったのは水辺に立つ白い屋敷だった。


 生ぬるい風が吹きつけ、ユリウスの頬を撫でる。


 鼻が熱く、痛くなり視界が潤み始めた。ユリウスは急いで目を擦る。


「ユリウス?どうしたんだ?辛いのか?」


「ううん、…汗が目に入っただけ。」


 頭を振って答える。


 兄の顔を見ることができずに俯いていて、見えた自分の足が小さいことにユリウスはまた泣き出しそうになる。


(帰ってきたんだ……。本当に…。)


 屋敷に帰り、汗を流してベッドに放り込まれたユリウスは懐かしさを噛み締める間もなく眠りについた。



   ♦︎♦︎♦︎



 ユリウスが目を覚ますと夕日の赤い光が窓から差していた。


(過去にきたのは昼頃だったから、三時間くらい寝てたのか。)


 ベッドから降りて、用意されていた服に着替える。すると外からパタパタと走る音が聞こえてきた。


「ユリウス兄様‼︎」


 勢いよくドアを開き入ってきたのは弟のアランだった。猫っ毛な金髪を耳より上で結んでいて、大きな目はユリウスのそれよりも鮮やかな青だった。ドアを開いた勢いそのままにユリウスに飛びつく。


「お待ち下さいアラン様!ユリウス様お休み中で……。」


 アランの後を追ってきたのであろうメイドと目が合う。


「もう、起きてたから大丈夫。アランどうしたの?」


「会いたかっただけー。」


「んんっ!」


(可愛いか!)


 弟の可愛さすら今のユリウスには涙腺が緩む事案である。


 久しぶりに会った───アランにとってはきっと昨日も会っている。───兄弟との会話で何を話そうとユリウスは思ったが、アランはユリウスが自分のことを喋る暇など無い沢山の話題を持っていた。


「──それでね、ユアン兄様ったらすっごく驚いて川に落ちちゃったの。」


「そうか、ユアン兄様はあまり運動は得意じゃないからな。」


 懐かしさに浸りながらアランと喋っていると、階下から女性の声が響く。


「皆ーご飯できたわよー。早く降りてらっしゃい。」


(母さんだ……。)


「「はーい。」」


 ユリウスとアランは同時に返事をする。顔を見合わせてくすくすと笑う。違う部屋からも小さく返事が聞こえた。


「兄様競走ね!」


 えっ、とユリウスが反応する前にアランは走っていってしまう。


「アラン様!走らないでくださいませ!」


 ずっと部屋の外で待機していたメイドの悲鳴に似た説教が飛んだ。



   ◆◆◆




 末っ子の競走の号令は家族全員に伝わったよう

だ。長兄のウィリアス、次兄のユアンに加え、父親アルバートまでもが走ってきたらしい。ウィリアスとアルバートは息こそ切らしていないもの髪が少し乱れている。運動の苦手なユアンは髪も息も乱して座っている。


「ユリウス兄様最下位ー!」


 軽く走って来ただけのユリウスを小さな手で指さしてアランは言う。そしてケタケタと笑いながら食堂を走り回る。


 それを優しい眼差し出みていたウィリアスがクスクスと笑いながら席に座れと促す。


「早く座らないとアランが最下位だぞー。」


 はっと自分の席に座るアランを見て、ユリウスの脳裏にはあの銀髪の少年の姿がよぎる。


(夢じゃないんだよな……。)


 ユリウスの家族は、ユリウスが十五になる頃にはもう誰も生きていないのだ。その家族がユリウスの目の前にいる。


『お前は戻れる。選ばれた、一回だけやり直せる。』


 あの不思議な紺と金の瞳がこちらを見ている。


「………やり直せる。」


 油の浮いた美味しそうなスープにはユリウスの顔がいくつも映し出される。幼い自分の顔。その顔を割るように匙を入れてスープを飲む。


(やってやろうじゃないか。)


 顔を上げれば幸せな家族が食事をしている。


 パンに豪快にかぶりつく。



──失った全てを、大切なものを今度こそ守る。──

読んでくださりありがとうございます。

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