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金蘭の友にもう一度  作者: 文 透色
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第五話 神々の思惑(三)

 慈愛神アルフリーデは使いのクフォルを連れて神々の集う場所、天界へと赴いていた。


 クフォルに持たせている招待状には、当たり障りのない挨拶と議会に絶対に参加して欲しいとの旨が書かれていた。差出人は創世神ディリトワールと時神ウィノワール。


(十中八九、人類滅亡の件でしょうね。)


 小さく溜息をつきながらアルフリーデはそう思った。


「アルフリーデ様を呼んだ理由って、人類滅亡の件ですよね、きっと。」


 アルフリーデの心中をクフォルが口に出す。


「そうね。」


 いつもの口調とは違う喋り方をさせているため違和感しかないが、仕方ない。いつもの喋り方では他の神にケチをつけられる。おしゃべりなのが玉に瑕だがクフォルはアルフリーデの忠実な使徒である。仕事も速く丁寧で、アルフリーデに心酔していて、裏切らない。どこから仕入れてくるか知らないが話も真新しいものばかり。クフォルは近くに置いておけば飽きない存在であった。天界ではそんな彼の口もいつもの何分の一も回らないが。


 神殿が一つだけ建った浮島に降り立つ。


「ようこそいらっしゃいました。慈愛神アルフリーデ様。」


 顔に何一つ特徴の無い天使達が迎え出る。


「クフォル。」


「はい。」


 クフォルが招待状を天使に渡して中に入る。


 何千年前と全く変わらぬ議場に二柱の神が揃っていた。


 クフォルは両膝をつき礼をする。


 アルフリーデが膝を折り、挨拶の言葉を述べる。


「ご機嫌麗しく創世神ディリトワール様、時神ウィノワール様。」


「敬称はいらぬぞアルフリーデ。それとクフォルだったな、其方も面を上げよ。」


 ディリトワールは爽やかな笑みで応える。対照的にウィノワールは目すら合わせようとしない。


「その様な人間もどきを囲う暇があるのならば、其方の子の人類に愛をかけれなかったのか?」


 ウィノワールの刺々しい言葉にクフォルがと肩を揺らす。横目で見れば体の前で組まれた手が震えている。


「都合の良い時にしか神を信じぬ愚かな人間と、幼なくとも私に忠誠を誓い神に昇天したこの子を比べ、剰えこの子の方が下などというのは私への侮辱行為であると認識しますが、よろしいのですね?ウィノワール様?」


 アルフリーデがウィノワールを睨みつける。


「ウィノワール…。」


「そもそも私は慈愛神に協力を仰ぐこと自体反対なのです。」


 ディリトワールが諌めようとするがウィノワールの口は止まらない。


「作り直すなら貴方一人でも出来るでしょう?ディリトワール様。わざわざ時を戻す必要などありません。それに元はと言えば、貴方の奥方が世界を破壊したのがげ…」


 ウィノワールが熱くなってきたとき、ギィと議場の入り口の扉が開く。


「「ご機嫌麗しくございます。創世神様、時神様。」」


 今回呼ばれたであろう神々が二人に膝を折り礼をする。


 ディリトワールは彼らを見て、安堵したような表情をする。


「揃ったな、全員自分の席に座ってくれ。使いは別室へ。」


 クフォルを含めた数人が主人に礼をしてから退室していく。


 アルフリーデはフリージアを模した自席に座る。


 全員が座ったのを確認するとディリトワールが切り出す。


「皆察しはついていると思うが、本日呼んだのは人類が滅亡した件についてだ。まず私の妻がやらかしたことについて代わりに謝罪させて欲しい。」


 ディリトワールが深々と頭を下げる。


「そんなことより早く本題に入ってください。」


 不機嫌を隠しもせずそう発言したのはウィリノワールである。


「ああ。今回の件について詳しい説明だ。」


 ディリトワールが手を振ると目の前に資料が現れる。


「「!?」」


 資料の内容を見て神々が驚愕する。


(これは……。)


 アルフリーデも表情には出さなかったが心境はかなり動揺していた。


「これはどういうことです。」


 神の一人が耐えきれず口にする。


「新しい世界を作るために我々を集めたわけではないのですか!?」


「何故このような事を?」


「もし本当にこれをするならば降りさせてもらう。」


 その声が堰を切ったように他の神も同調させる。


「その反応をされるのはわかっている。しかしこの神群で扱った世界が多すぎるため、他の神から許可が降りなかったのだ。手間でも今回はそこに書いてある方法でやる。」


「作った世界が多いのはディリトワール様の奥方のせいでしょう?なのに何故奥方はここに来てないに加えて、この作戦にも名が載っていないのです?我々を集めるより先に奥方の力を借りたら良かったのでは?」


「彼女は作るのには向いていない。」


「そんな理由でこの面倒ごとを避けれるならば、私も知識の神でなく、破壊神に生まれたかったですな。」


 ディリトワールと他の神々との口論が続く。


 しびれを切らしたアルフリーデは手元のハンマーを台に打ちつけた。


 議場に音が響き、沈黙が広がる。


「アルフリーデ…様…。」


 大きな音がして驚いたのもあるが、議会が始まってから一言も喋らなかったアルフリーデが発言を求めたことに神々は驚いた。


 皆がアルフリーデの言葉を待つ。アルフリーデは創世神、時神に続いてこの場で三番目に高位の神である。


「方法がこれしかないのは理解いたしました。私が申したいのは、より根本のことです。これ程まで手間のかかる事をして人類を救うべきなのかという事です。わざわざまた世界を運用しなくても良いと私は思っています。創世神の奥方が起こしたことですが、その原因といえば人間が彼女の神殿を破壊し、人類の大半が死んだ事を彼女のせいにしたことでしょう?また新しく世界を作るならまだしも、このような人類を復活させる必要は無いと思います。」


 アルフリーデの言葉にディリトワールが目を見張る。


「アルフリーデ、君が作った……、君が愛した人類ではないか!?」


「ディリトワール様はご存知でない?私の神殿も千年以上も前に崩れ去り、記された文書まで燃やされた。人間に慈愛をもたらすことも、夢枕に立つことも私はもう出来ないのです。」


「っ……。」


 何も言えないディリトワールを見て、ウィノワールが追い打ちをかける。


「だから言ったでしょう。慈愛神にとって人類を憎む理由あれど救う理由は無いのです。」


「ウィノワール、アルフリーデがここに来た時お前は…。」


「あれは、慈愛神が努力次第では信仰を取り戻すことも出来たという意味です。」


 ぴしゃりとディリトワールの言葉をウィノワールは切る。


「まぁ、今となっては手遅れですけどね。」


 そう言ったウィノワールの視線はアルフリーデを向いていた。


 アルフリーデはそれに気づかないふりをして席を立つ。


「私はここまでして人類を助けるつもりはありません。自分の領域に帰らせていただきます。」


 アルフリーデは礼をして、議場を去ろうとする。


「あっ…待ってくれ、アルフリーデ。」


 ディリトワールが弱々しく呼ぶがアルフリーデは聞こえないふりをした。


 アルフリーデが扉に手をかけた時、腕を掴まれた。


(ディリトワール!何だ、めんどくさい!!)


 掴んだ相手をアルフリーデはキッと睨むが、掴んだのはディリトワールではなく、ウィノワールだった。


「まぁ、お待ちなさい。慈愛神。ここで意見を変えなければ後悔するのは貴女ですよ?」


「何を……。」


 ウィノワールの口元がアルフリーデの耳元まで近づき、耳打ちする。


「───────、───────────。」


「──⁉︎」


 アルフリーデか驚愕の表情を浮かべ、ウィノワールと距離を取るように数歩下がる。


「そ、の情報が正しいという根拠はあるのですか?」


「あくまで噂です。何故なら人間なんて滅んだままで良いと言った神はそうそういませんから。」


 アルフリーデが口の端を歪める。


 面白そうにウィノワールは笑い、続ける。


「信じるか信じないかはお任せします。私が言いたいのはこれだけですからどうぞ、お帰りください。」


 ウィノワールはわざわざ扉を開けた。


(もしかして最初の対応は……)


「演技………!?」


 アルフリーデの口から漏れた小さな声をウィリノワールは聞き逃さなかった。口の端を上げ、嗤う。


「……下衆が‼︎」


 アルフリーデはそう吠えると自分の席に美しく、荒々しく着席した。


 強く握られた掌から血が滲み出て、白の手袋が赤色のシミを作る。


 ウィノワールは満足そうに微笑むとディリトワールに向き直る。


「慈愛神も賛成とのことです。最悪この三神で計画は進めれます。ディリトワール様、御指示を。」


「あっ、ああ。わかった。」


 アルフリーデが賛成したことに神々は疑念を抱いたものの反論する気も削がれ、ディリトワールの説明を聞き終わるとそそくさと自分の管轄区域に帰って行った。





   ♦︎♦︎♦︎




 アルフリーデが議場を出ると、彼女の忠実な使徒が平伏し待っていた。


「クフォル、お立ちなさい。帰りますよ。」


「はい。」


 立ち上がったクフォルの頬に赤い手形のようなものがうっすらと見えたが、アルフリーデは気づいていないふりをして翼を広げる。


 後ろをチラと見、クフォルがついてきているか確認する。特に問題なく真っ直ぐアルフリーデの後ろを飛んで来ている。


(顔のものについては帰ってから後々問いただすとしましょう。)


 重いため息をつく。


 嵌められた。落ち着いていた怒りがまたふつふつと湧き上がってきた。


(仕方ありません。耐えなければ、あの子のために。)


 しっかりと振り返れば目のあったクフォルが笑った。

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