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金蘭の友にもう一度  作者: 文 透色
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第四話 神々の思惑(二)

 自決することにあれ程まで躊躇なく出来たことに少し驚いている。雨玄はそう思っていた。





   ♦︎♦︎♦︎





 えもいわれぬ解放感を得て静かに眠っていた。


 しかし瞼を貫通し眼球に届くほどの眩い光が雨玄を目覚めさせた。


 雲一つない快晴の青空。対象的なまでの美しさが瞳に映る。


「うわっ。」


 急に先程まで感じていなかった水の感覚を感じ、飛び上がってしまう。


 雨玄は水面に立っていた。


 水の中には見たこともないほど大きな魚や、建物が沈んでいた。祝日に飾る赤旗が見える。


 下に空間があるのに雨玄の足はしっかりと水面に立っている。雨玄が動いたことによる波紋が水平線の彼方へ消えていく。


 ぼんやりと波紋を見つめていた。空と海そして自分、音が無い不思議な空間に一人。


「もし。」


 この空間に似つかない花の香りがふわりと香る。雨玄の耳元で無機質な声が聞こえた。


 声と間をおかず雨玄の裏拳が空を切る。声のした後ろには誰もいない。


「誰だ!」


「後ろです。」


 振り返れば金髪の女が佇んでいる。薄いヴェールが女の表情を隠す。服装も雨玄の見知った女人の服装ではない。


(女?気配が…。気づかなかった。)


 本能的に数歩、後ずさる。剣に手をかけようとしたが、普段腰に佩いていた剣は無い。鞘だけが残されている。


 雨玄の最期が思い出される。


 雨玄は女を睨むが、女は気にする風でもなく無機質な声で喋る。


「記憶があるようで良かったです。」


「記憶…?なんの事だ。」


「貴方に説明する義理はありません。」


 パチンッと女が指を鳴らす。


 金縛りにあったかのように雨玄の体が動かなくなる。


「なっ……に、を……。」


 雨玄の問いに女は答えなかった。


「私は女神アルフリーデ。愚かな人類に慈愛の光を与える者。」


 語り慣れたように言葉が紡がれる。


 アルフリーデが軽蔑の眼差しで雨玄を見下ろす。



「私に感謝し、過去の行いを悔め。私に二度とこのような事をさせてくれるな。」


 アルフリーデの顔に目線を向けていた雨玄の視界が、がくりと下がる。


 雨玄は驚き、下を見た。


「あっ…。」


 母の笑顔が。


 少年のユリウスが。


 燃えた故郷が。


 血を流す旧友が。


 黒い笑顔が。


 大きな背中が。


 死んだ部下の恐怖の顔が。


 誰のものかも分からない血と涙が、


 ユリウスの、青白い顔が。


 水面に映っていた。


 心臓がいやに大きく鼓動する。手で押さえても落ち着かない。身体が上気し立っていられなくなる。


 雨玄の視界が暗く閉ざされた。





   ◆◆◆




 ズブズブと水の中に飲み込まれていく雨玄を見ながら慈愛神、アルフリーデは嗤う。


「せいぜい上手くやりなさい。人間。己の為、そして私の為に。」

読んでくださりありがとうございます。

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