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金蘭の友にもう一度  作者: 文 透色
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第一話 敵は知己、敵は親友

 なろうという巨大な本棚からこの作品を見つけて下さりありがとうございます。楽しんでいただければ幸いです。

 手が滑ってタップしただけだい!という方も何かの縁と思って見てくださると嬉しいです。

 風に砂と血飛沫が混じる。


 その風が砂を巻き上げ作り上げる檻の中、激しく剣を打ち合う二人の男がいた。


 二人以外に生存者はおらずまだ温かい屍が積み重なり血生臭い匂いを放っていた。


 一人は、黒い長髪を頭の上でまとめて流し、前髪がかかる瞳の色はまるで黒曜石のようなだった。もう一人は、肩までの長さの柔らかい金髪を頸の位置で結び前髪を掻き上げている。瞳は冷めたい氷の色だった。着ている鎧も全く違う。けれども倒れている兵士の鎧とは比べ物にならないほど豪華で、二人が将軍格なのを示していた。


 二人はその国にその人ありと謳われる大将軍だった。


 二対の瞳が強者との闘いに強い光を宿している。双方の剣が火花を散らし、切り裂く。重いはずの鎧をものともせず、跳躍し剣を振るう。片方が切り掛かれば、片方がいなし反撃する。双方の剣が噛み合えば剣のだけでなく二人の間にも火花がかち合う。そしてさらに速度を増し打ち合う。


 歓声のない闘いには、剣と剣が打ち合う金属音と彼らの呼吸音しか存在しない。二人の実力がほぼ同じだからこそ、どちらも相手に傷をつけることができないのだ。この空間におびただしく漂う血の匂いは、彼らから出たものではなかった。


 互角の勝負、のはずだった。金髪の男、ユリウスが毒矢を受けていなかったら…。


 ユリウスの右手が不意に痙攣し剣が落ちた。その隙を逃さず黒髪の男、雨玄がユリウスの肩に剣を勢いよく突き立てる。ユリウスは後ろに吹っ飛び岩に剣で縫い付けられ、くぐもった苦痛の声がユリウスの口から漏れた。雨玄が剣を持つその手は酷く震え表情は死人のように青褪めている。恐怖に直面したかのように。


 ユリウスの声は酷く静かだった。


「雨玄。躊躇するな。」


 剣で刺され追い詰められているのは、ユリウスであるはずなのに、ユリウスは淡々と喋り、反対に雨玄の口は震え、音を発することができなかった。


「雨玄。」


 低く重々しい声が雨玄に届く。


「お前もわかっているだろう?戦を終わらせるには、俺らのどちらかが死なないといけない。俺らがいるから、あの頭の空っぽな貴族共が戦を挑むんだ。お前の勝手な感情で、他の関係のない兵や民を殺すつもりか⁉︎」


「わかってる…。…わかってるよ!」


泣きそうな、悲痛な声だった。


「なら…」


「もし!毒矢を受けたのが私だったら…?」


言いかけたユリウスの声を雨玄が打ち消す。ユリウスは面喰らった顔をした。


 ユリウスは、気づいた。一撃で心臓を貫ける、首を刎ねられる隙があったにも関わらず肩に剣を刺したこと。肩の大きな血管を貫かなかったこと。血が大量に出ないように剣を突き立てたままのこと。終わらせようとするユリウスの発言を打ち消した事。まるでユリウスが死んでしまうのを雨玄が惜しんでいるかのような行動の数々。


(雨玄、お前は馬鹿だなぁ。昔から。救国の英雄になれる絶好の機会が来たのに。八年前、自分達が戦場で出会ってしまった時点でどちらか片方が死ぬのはわかっていたはずなのに。お前はそこまで普通の幸せを知らない奴だったか?)


「俺とお前の位置が変わるだけだ。まあ、俺はそんな表情しないけどな。」


「もし、知り合っていなければ?」


カタカタと雨玄の持つ、闇を鉄に溶かし込んだように黒い剣、《黒戰》が主人の震えに音を立てる。 


「躊躇なくお前は、剣を振るっただろうな。俺の首に。」


 刺されてなお真っ直ぐに自らを見つめるユリウスに、雨玄は目線を逸らし項垂れてしまう。


「もし、もう一度…やり直せたら?」


 ユリウスが奥歯を噛み締め雨玄の声をかき消すように即答する。


「そんなことできるわけがない。」


(そんなことがあればどれだけ嬉しいか。もう一度やり直すことができたらどれほど良いか。こんなくだらない阿呆らしい戦で親友に自らを殺させずに済む道を選び直すことができたなら。世界の歴史に残らない一平民として二人で歩めたら。この世全ての神に感謝してもしきれない。でもここは、現実なんだ。そんな夢物語が起きるはずがない。)


 意識が朦朧とする中、親友がくれた肩の痛みがまだ意識をこの世に繋いでいてくれる。


(あぁ、親友よ俺は、この戦場で敵になることを選んだ者としてお前に殺されたい。敵であるお前に。)


「雨玄。首を…俺は、味方の射損じた毒矢で死にたくはない。」


 それに雨玄は、気づいた顔になる。その人一人いれば大国に仇なそうとするほどの将軍が味方の不始末で死ぬのは酷い醜聞となるだろう。雨玄は、知己にそんなものがつくのは嫌である。雨玄にとってユリウスの死は高潔な物であってほしかった。もし彼を殺すの者がいるのならばそれは自分がよかった。敵として知己である彼に最後の慈悲を。


 沈黙がその時を両者にこの一時の終わりを悟らせる。


「殺してくれ。雨玄。」


 雨玄が静かに頷いた。


 手の震えは一瞬にして止まりキンッと乾いた音を鳴らしユリウスの肩から《黒戰》が引き抜かれる。


 ユリウスは呻かず静かに瞳を閉じた。


 雨玄が《黒戰》を構え直し、一閃のもとにユリウスをこの世から切り離した。


 日が傾き紅く砂漠を染め上げる中、悲しみの咆哮が消えていった。


読んでくださりありがとうございました。

評価もらえたら嬉しいです。気が向いたら感想、コメント書いてくださるともっと嬉しいです。

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