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5.聖女の覚悟

 翌日、私は目覚めると体が少し軽く感じた。美味しい食事のおかげだろうか。


 私は早速ギルド赴いて副マスターに模擬戦を申し込む。


「若者は元気だねぇ。おっさんはしんどいわ」


 副マスターはあくびをしながら木剣を手にして広場へと出る。


「昨日も言ったが、今日は身体強化以外の魔法も使ってもいいからな。全力で来い」


「はい!」


 私は昨日までと同じ木剣を手にして身体強化を発動する。

 掛け声とともに副マスターに斬りかかる。


 上段から振り下ろした一撃を副マスターは体をわずかに半身にして避ける。

 私は目線を副マスターに向けたまま、両手で握っていた木剣から右手を離して副マスターに向ける。


「ファイアボール!」


 手のひらに魔力を集めて火球を放とうとする。しかし、副マスターは木剣の先で私の手首をクッと横に退けた。

 私のファイアボールは明後日の方向に飛んでいった。


「くっ!」


 私は片手持ちになった木剣を振り上げる。それを木剣を盾にして受け止められる。左手がジンと痺れた。


「甘い甘い」


 副マスターは笑いながら足で押すように私を蹴り飛ばす。またしても私は土の上に転がった。


「1つヒントをやろう。お前は素直すぎる。流石聖女様、清廉潔白だ。しかし、冒険者で名を上げたいなら致命的だ」


 副マスターは木剣で肩をトントンと叩きながら私に語りかける。


「お前は教会に逆らって出てきたんだろ?なら汚いことくらい簡単にやれねぇとな」


 私は恥ずかしくなった。副マスターは私を冒険者の新人として扱ってくれているのに私は私を聖女として扱っていた。


「・・・ウィンドスラッシュ」


 私は後ろ髪を魔法で切った。みんなの憧れだった煌く髪は半分以下になってパサリと地面に落ちる。私の行動を見た副マスターは笑っていた。


「行きますっ!」


 私は同じように木剣を上段から振り下ろす。副マスターも同じように避ける。避けられたことを確認した私は両手を木剣から離して両手のを副マスターに向けた。木剣は地面にぶつかった反動で跳ねた。


「ファイアランス!」


 渦巻く炎の槍を副マスターの顔に向けて放つ。


「おっと」


 副マスターはのけぞって避ける。そして私は副マスターの視線が私から切れた瞬間に空中にある木剣を掴んで追撃を見舞う。

 木剣は副マスターの脇腹に命中する。鈍い音と衝撃が私に伝わった。


「いたた・・・。もうちょっとおっさんを労われ」


 副マスターは距離を取ると脇腹をさすっている。私は初めて一太刀加えたことに嬉しくなった。木剣を放り投げて喜びたいが副マスターから感じるプレッシャーは変わらない。私は構えを解かずに副マスターを見据えた。


「あーあ。痣になったらどうすんのよ。おっさんは怪我の治りも遅いんだぜ」


「私が回復魔法を使ってあげます」


 軽口を言い合いながらも私は集中を解かない。


「せっかく俺に一撃入れたんだ。おっさんの本気を見せてやるよ」


 ヘラヘラと笑っていた副マスターの目がキッと鋭くなった。すると空気そのものが重くなるような衝撃を受ける。透明なはずの大気が黒く染まるような感覚だ。


 私の全身から汗が噴き出す。目を逸らしたら殺される。私は震える体で副マスターを見ていた。

 しかし、一瞬で副マスターは視界から消えた。そして、私は何が起きたか理解する前に意識を失った。

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