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4.嬉しい食事

目が覚めると昨日と同じ天井に同じ毛布。

副マスターの部屋で私は目覚めた。


口内に血の味を感じる。歯などは折れていないようだった。


「お前、回復魔法も使えるのか?」


書類の向こうから声がかかる。


「もちろんです」


「そうか。なら使っとけ」


自分に回復魔法をかける。自分に回復魔法を使うのは初めてだ。

緑色の波動が体を包み込む。

痛みがだんだんと引いてくる感覚は不思議なものだった。


「大したもんだ。他の属性も使えるのか?」


「基本四属性はすべて使えます」


この世界の魔法には赤、青、緑、黄の基本と白、黒の特殊なものに分かれている。

生き物は基本四属性を全て持っているが、発動出来るのはその中で素質があるものだけだ。

例えるならば、カラフルな砂をふるいにかけて特定の色だけを抜き出すといったところだろうか。

ちなみに回復魔法は緑属性だ。


「期待の新人だなこりゃ」


副マスターはワハハと笑う。


「身体強化はお粗末だが、昨日よりはましだったんじゃないか」


ぐさりと私は傷つく。

魔法の天才と称されたのはあくまでも学院の中での話。

聖女と称されたのも司教の娘というそれだけの話。


「ありがとうございます。また明日もお願いできますか?」


「ああ。明日は魔法も使ってもいいぞ。動きは大体分かったからな」


模擬戦の約束を取り付けて私は部屋を出る。


時間はまだ正午にもなっていないが、少し早めの昼食でも取ろうとギルドに隣接する食事処に入った。


「いらっしゃい!」


威勢のいい掛け声が飛んでくる。

店内はちらほらと冒険者らしき人たちが食事をしていた。

私が勝手がわからずにしばし入り口で狼狽えていると店のおばさまが奥から出てくる。


「初めてかい?」


はいと答えると席に案内される。簡素な木製のテーブルと椅子に見えるが、とても硬い。


「何にする?」


水をトンと置かれて早速注文を尋ねられる。

メニューを見ても料理の名前しか書いていない。


「おばさまのおすすめをお願いします」


よく分からずに任せてしまう。しかし、おばさまは元気よく返事をして奥に帰っていった。


__



私の前に置かれたのは茶色に輝く大きなお肉。表面を脂がきらきらと光沢で覆っている。付け合わせの野菜は蒸し野菜だろうか。白い湯気が立ち昇っている。分厚く切られたバゲットはこんがりと焼かれていて香りが食欲をそそる。


「あんた細いからいっぱい食べな」


バンと背中を叩いておばさまは厨房に引っ込む。


私はまずバゲットをちぎってそのまま食べる。カリッとした食感にわずかな焦げの香ばしさが抜けていく。

フォークをお肉に押し当てると跳ね返されるような弾力がある。じわりと肉汁があふれて、それを野菜が吸っていった。

ナイフで切って口に入れる。シンプルな胡椒の味と脂の甘みが調和していてとても美味しい。ピリリとした胡椒の後味がお肉を切る手を後押しした。

葡萄酒香るソースは少しの酸味がさらにコクを加えている。

野菜は水分をとどめたままでほくほくとした食感に瑞々しさを感じる。特有のわずかな苦みが甘さをより引き立てていた。


教会では質素な食事だった反動か、美味しくて勢いよく完食した。

ただの水ですら胡椒で痺れた口内に甘みをもたらす。


私は席を立っておばさまにお礼を言った。彼女はニコニコと笑っている。


「美味そうに食べてたね。こっちも嬉しくなっちまったよ」


「ありがとうございました」


代金を尋ねて、会計をして私は店を出る。

お腹も満たされて幸せな気持ちで教会に帰った。

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