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まだ初めてのクエスト

目が覚めるとソファの上だった。安物の薄い毛布がとりあえずと言わんばかりにかけられている。

体を起こして見回すとある一室にいた。


ガラス面のローテーブルを挟む2つのソファに書類が大量に積まれたデスク。壁には絵画、棚には無数の本があり、教会とはまるで反対の内装だった。


「おっ!起きたか」


書類の向こうから声がする。顔を向けてみると副マスターだった。


「すまねぇな汚い部屋で」


頭を掻きながら書類と格闘している。


「ここは?」


私の質問に手を止めることなく副マスターは返答する。


「ここは俺の部屋。ギルドの2階だ」


返答を聞いて私は部屋から出ようとすると、副マスターに質問を受けた。


「このあとはどうするんだ?」


「副マスターがお暇であれば模擬戦をお願いします」


「あれ?俺が副マスって言ったか?」


「観客が言ってました」


「耳ざといな。ただ今日は模擬戦はもう終わりだ。俺も仕事残ってるし、久しぶりに動いて体も痛ぇからな。明日また来い」


「分かりました」


頭を下げて私は部屋を出る。階段の下では冒険者たちが模擬戦について話しているのが聞こえた。


「聖女様って言っても大したことねぇな」

「いや、身のこなしはともかく副マスに挑む気概はいいんじゃねえか」

「大人しく教会にいればいいのによ」

「まだまだだね」


ほとんどは陰口のようだったが少しは認めてもらっているようだ。



私がギルドを出ようとすると受付の女性に呼び止められた。


「ライネスさん」


踵を返してカウンターに伺うとギルドカードを手渡される。

クラスがF級になっていた。


「クラスがF級になっていますが」


私が尋ねると女性は笑顔で答える。


「はい。副マスターからそのようにと。そしてこれはF級用の地図です。黒塗りの部分がありますがそちらには立ち入らないようにお願いします」


ほとんどが黒塗りの地図を受け取る。街のまわりのわずかな場所だけが私の行ける範囲だった。


それでも街の外に初めて行けると胸が高鳴った。

しかし、現状の私ではまだまだ物足りない。

せめて副マスターに一太刀与えるくらいにならなければ。


私は痛む体をひきずりながら教会へと帰る。

回復魔法を使うことも出来たが、それはしなかった。


被虐趣味は無いが、痛みが少し心地よかった。


____


翌日は筋肉痛で目覚めた。ギシギシと音が鳴りそうな体を起こしてカーテンを開ける。


「いい天気ね」


軋む体とは裏腹に心は晴れやかだった。

髪を後ろで括り、汚れたブーツと鎧をつけてギルドに向かう。



ギルドの扉を開けて、開口一番に模擬戦を頼んだ。


すると受付が答える前に上から答えが返ってくる。


「来たか。いっちょ揉んでやるとするか」


副マスターはにやにやしながら2階から飛び降りて広場へと向かう。私もうしろについていく。



「お前は回復薬使ったか?」


道中に尋ねられた。


「いいえ、使っていません」


はっきりとした口調で否定すると副マスターは、ならいいんだと軽薄に答える。


「はぁ、体痛ぇ」


副マスターの時折漏れる独りごとで彼も回復薬を使っていないのだと分かった。



私は昨日と同じ木剣を持って広場へと出る。副マスターも同じ木剣だ。


「さて、今日もそれでいいのか?」


私の手元を木剣で指す。おそらく武器は同じでいいのかということだろう。

私は無言で頷く。


「じゃあ今日も身体強化だけな。来い」


私は身体強化を発動して副マスターに斬りかかる。

上段からの振り下ろしを昨日と同じく受け流されるが、地面に届く前に止める。


視線は相手に向けたまま、返す刀で振り上げる。


副マスターはそれを足の裏で蹴り返す。腕ごと体が沈められる。

私は前傾になった瞬間、肩に衝撃を受けた。


「痛っ!!!」


私は痛みに耐えて、足蹴にされている木剣をそのまま脛めがけて薙ぐ。


副マスターはすぐさまピョンと跳ねて躱す。

そのまま空中で私に蹴りを放つ。

反応できずに顔面に受けた私は吹き飛んだ。


初めて血の味を知った。


唇の端から流れる血を拭って再び接近する。


今日も何度も地面に転がる。

昨日と違うのは観客がいないことだけだった。


私は今日も土の上で眠った。


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