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癒しの魔法

 あの子で腹を満たした獣は、しばらく新たな餌を求めないんだろう。


 動物は無駄に殺生をしない。


 だとしてもスカベンジャータイプの動物がいる場合は、更に強い捕食動物がいる場合が多いはずだ。


 ここの森はとても怖い場所なのは変わらない。


 きっと俺が知る以上に。


「あれ、どういう意味?炎を抑えろって」


「魔法の暴発を抑えるには、落ち着くのが一番だと思いました」


「いや、ちょ、待って。あの炎って俺のせい?」


「はい」


「俺、どうやったの?」


 自分のことを相手に聞かなきゃいけない現状。


 あまりに無知すぎるよ俺。


「分かりません」


ですよね。


 イヴの黒いワンピースの袖が、少し焦げてるのに気づいた。


 反射的に腕を取ってしまう。白いその手首に火傷があった。


「…これ、俺のせい…」


「はい」


「ごめん!」


「はい」


「俺、なんかぼーっとしててまともに思い出せないんだけど、イヴはあの炎の中に入ってきたよね?」


「はい」


 なんで?あの炎の渦に巻かれて、これだけの傷で済んだの?って聞きたかったけど、女性の肌を傷つけてしまったことを"これだけ"なんて言うのは申し訳ない気がして言えなかった。


「これも、ちゃんと治せる?」


「はい」


「良かった……。でも、俺全然どうやったか思い出せないんだ。また同じことやって、君を傷つけてしまったらどうすれば……」


「大丈夫です」


「いや、大丈夫って…」


「私が側にいます」


「……さっき…いなかった」


「アベルの外套を取りに戻ろうとしてました」


「マントより、こんな子供が森に一人でいる方が重要だと思う」


 そうだ。その点は、イヴが悪い。


「アベルは疲れて眠っていました。結界を張ったのであの場所は安全でした」


 結界。また魔法かよ。


 そんなん言ってくれなきゃ、分かるわけないじゃん。


 いやむしろ知ってたとしても、あんな恐怖の夜を過ごした森に、一人で置いてくなんて……。


「ですが、軽率でした。すみません」


 イヴの素直な謝罪に、俺の中のもやもやが収まっていく。


 俺はこの世界に関してひどく無知だ。


 同じように、イヴだって完璧じゃない。一方的に責めるのはアンフェアだ。


「……うん」


 うん、じゃないだろ俺。軽率だったのは俺だよ。


「俺こそ、ごめん」


「はい」


 イヴが俺の着替えを持ってきてくれる間、新しく出来た皮膚を確認した。


 完璧には治ってない。出血やただれはなくなったけど、痛みも残ってるし跡もある。


「痛みがひどければ、もう一度かけるので言って下さい。」


 傷の具合を確認してた俺に気付いたのか、イヴがそう言った。


「大丈夫。歩けるし」


 安心させるように俺は立ち上がってみせた。


 せっかく治してもらったのに、不満げに見えたなら悪いし。


 イヴが手首の火傷を自分で治してる。自分を後回しにしてくれてたんだな。


「俺もそれ覚えられる?」


 俺は怪我ばっかしてるし、自分で治せるようになった方がいい気がする。


「魔力があるなら誰でも出来ます。ただ、生体でも無機物でも、破壊より修復の方が多く魔力を消費します」


 そういうルールの世界なのか。


 いや、前世でだって壊すのは一瞬ででも、直すのは手間が掛かるもんだった。


 仕事で使う建築模型を飼い猫に破壊された時、全てを投げ出したくなったことを思い出した。



 怪我や病気だってそうだ。治すには時間と手間が掛かる。



 いくら魔法とはいえ、そういう自然のルールは同じなんだなと納得しつつ、魔法のある異世界なら、さくっと完全治癒して欲しかった。


 魔法のあるファンタジー世界に、こんなリアリティ求めてないよ。


「病気も治るの?」


「治せるだけの知識と魔力があれば可能です」


「知識?」


「魔法医学です。魔法薬学もありますが、こちらは魔力が少なくても知識で補えます」


 なんかややこしい。


 っていうか地球と大差ないんじゃ?


「魔法薬は偽物も出回るので、信用はあまり高くないそうです」


「ぱーっと完全治癒できる魔法とかはないの?」


「可能です」


「それはどうやって覚えるの?」


 食いつくように聞いてしまった。


 さっき森を破壊したばかりなのに、ゲンキンだと思われたかな。


 それともイヴの治療じゃ不服だったと思われたか。


 イヴはいつも通り表情のない目で、じっと俺を見ていた。



 な…なんかまずいこと聞いたんだろうか。


 不穏な沈黙に、ちょっと固まってしまう。



「修復魔法は、自分の魔力を相手の体に流して治療するものです。どれだけの魔力を流し込むかによって、回復量は決まります。魔力量がその結果の大小を表す。当然の結果です」


「‥‥‥」


 俺の無知に、あきれてただけか……。


 しょうがないだろ!この世界来たばっかだから常識とか分かんないんだよ!


 そう暴露出来たらどんなに楽か……。



 ……まぁ、つまりイヴの魔力量だと俺の怪我は完治しなかったけど、もっと大きな魔力を流し込めば、完全治癒は可能ってことだ。


「魔法医学を学んでいない場合、傷病者の体内で魔力をどう発動させるかを制御出来ないので、修復が難しいです」


 イヴは魔力があまり多くなくて魔法医学の知識があるわけでもないんだろう。


 どっちも足らず完全な治療が出来なかったってことかな。


 俺の火傷は体内じゃなく体表だったから、修復しやすかったのかもしれない。


「やっぱ魔法って言っても、水晶玉とか持って呪文唱えて何でもできる~ってわけじゃないんだなぁ」


 はっ!またやってしまった。


 "魔法なんか知らないやつ"の発言。


 イヴは何も言わなかったけど、流石に怪しんでる気がする。


「あ、風呂借りていい?」


「はい」


 用意してもらった着替えを持ってそそくさと風呂に行くことにした。

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