四十五話 ようやく受けます! Fランクの依頼!
簡単なあらすじ『これに懲りたら反省してね』
あれから数日が経った。
アルワヒネは少々大人しくなった。
あと、ジェリア達が家にいる時はよくチビちゃんの近くにいるようにもなった。
多分、あの時の事がきっかけなのだろうが、理由がよく分からない。
自分よりも強いチビちゃんに心惹かれたのか、自分を許してくれた事に感動したのか、はたまた、元々いじめられたいというような『そういう気質』が少女の中にあったのか……最後のやつは違うか。
しかし、俺達に対してはまだ生意気な態度をしている。
まあ、練習試合となると全員が揃いも揃って少女の前に3分と立っていられないのだから(俺含め)、そうなるのも分からんでもない……少々腹立たしいがな。
……それともう一つ。コルリスが一生懸命考えてくれたお陰でアートード(子)の名前が決まったので、発表しよう。
『ケロタロー』君だ。漢字表記にするとケロ太郎君、となる。
名前がほぼ被っている奴が一匹いるような気もするが、コルリスの初めての魔物という事もあり、俺達は突っ込みたくなる衝動を抑えそれを受け入れた。
ていうか、オスだったのかな?
ちゃんと調べたのかな?
まあ、どっちでも良いか。
子はその名前に満足しているようだったし、何より名付け親であるコルリス自身が一番、満足げであったからな。
これで、コルリスは主として、子はそれに仕える魔物としての自覚が芽生えた事だろう。
そして名前が決定してから二日程経った頃、俺達とケロ太郎は共に練習する事となった。
これはコルリスから頼まれたのだ。「やっぱり師匠と同じ練習をした方が良いと思うんです!」とか彼女が言っていた事はよく覚えている。
勿論、俺はそれを快諾した。
理由は当然、可愛いコルリスの頼みだからというものもあったが……
一番の理由は、『的が増える』からだ……
いや、すまん。普段ならこんな事言うはずがないんだが、ここ最近はちょっとキツ過ぎてな……俺はどうかしているのかもしれない。
また、朝が来た。
朝が来て、しまった。
昨日の疲れは未だ俺の側を離れようとはしない。
俺はそれがのしかかるせいで以前よりも随分と重くなった瞼をこじ開け、上体を起こした。
側ではコルリス、ルー、プチ男、ケロ太、ケロ太郎が眠っている。つまりこの家に住まう者全てがここにいるのだ。
それは〝ある事〟のせいなのだが……すぐ分かると思うので、今は説明を省略させてもらおう。
俺は窓の外を見やる。
そこには植えたはずのない植物の芽のようなものがあった。
アルワヒネだ。
少女は土の中の方がよく眠れるらしく、いつしかあそこを寝床として生活している。
いや……もしかすると『こんな雑魚達と一緒に寝られるか!』的な意味合いであの場所にいるのかもしれない。
結局、アルワヒネは俺とコルリス、どちらの仲間にもなってくれなかったからな。
存在には慣れ、それなりに感謝はしてくれているようだが……指示を聞く様子はなく、実際一度「俺達の仲間になってくれないか?」とは言ってみたものの、難しい顔をされてしまった。
『お前らにはまだ早い!』と、言う事なのだろう。
確かに知恵があり、実力もある者が自分よりも能力の低い者を自らの意思で上に置く事などしないはずだ。
まあ、それは良しとしよう。
実力がないのならば後から付ければ良いのだ。
いずれはアイツをあっと言わせ、自分から進んで仲間になりたいと思わせる程の魔物使いになってやろう。
とは言ったものの……それまでの過程はやはり過酷なものだ。
特に最近はな……
とか考えていると、植物の芽の下にある地面がもこもこと盛り上がり、アルワヒネがその姿を現した。
少女は地面から飛び出してすぐに俺の方を見、起きている事を確認するとニヤリと笑う。
「うげぇ……」
俺は辟易し、思わず「うげぇ」とか言ってしまった。
別にアルワヒネが嫌いなワケではない。
嫌いなのは少女とのスパーリングだ。
少女が起きたらすぐに練習が始まり、毎日ここにいるコルリス以外の全員が夕飯まで投げられ続ける……ここ最近、ずっとこんな調子なのだ。
(……だから俺は的が増えて欲しかったのだ。投げられる順番がほんの少し、遅くなるからな。これはコルリスには内緒だぞ?)
お陰で皆毎日くたくたとなり、厩舎に戻る体力すらないのか、いつしか全員が俺の部屋で眠るようにまでなってしまった。
(コルリスは皆が集まってて楽しそうだからここにいるらしい)
俺達を鍛えるためとはいえ、毎日毎日ご苦労な事だ……というか、投げられるばかりで全然練習にならないのだが。
投げられなくなるまで戦い続ければいずれは……という道もあるのだろうが、これではそれが一体、いつになる事やら……
「ふあぁ……クボタさんおはようございます。
あ……また今日も、なんですかね」
コルリスが目を覚ました途端に俺達に降り掛かるであろう小さくて大きな災厄を思い、胸を痛めている……ように見える。
「まあね……しっかし、本人は鍛えてくれてるつもりなんだろうけど、全然練習にならないと思うんだよなぁ」
「そうですよね。それに、最近皆にアザとかも増えてきてますし……クボタさんにも」
コルリスは言う。
彼女も同意見のようだ。
とはいえ、他に何か良い練習方法があるワケでも……
そうだ!
「コルリスちゃん!久し振りに依頼受けよう!
受けまくろう!それで……アルワヒネの知らない間にアイツよりもっと強くなってさ、見返してやるんだ!」
俺は言った。
まあ、本音は『強くなるかどうかはともかく、今はこの状況から逃げ出したい』なのだが。
「良いですねソレ!賛成です!みんなの良い気晴らしにもなると思いますし、私も行きたかったですし!」
「よし!そうと決まれば準備しよう!」
「はい!」
このようにしてアルワヒネの練習から逃げ出せる良い案を思い付き、それに喜んだ俺達がはしゃいでいると、魔物達が次々と目を覚ました。
そこで俺が彼等に事の次第を説明すると……皆やけに楽しそうにしながら、俺とコルリスの支度を手伝い始めた。
その姿はまるで、厳しい顧問のいない合宿へと赴く学生達のようであった。
朝飯は街で済ませるとして。
あとジェリアも誘うだろ。
後は……そうだ。アルワヒネに理由を言って、今日の練習は中止にしてもらわないとな。
おっと、なんだか俺まで楽しそうにしてしまっているな。
ズル休みしているようなものなんだから、もう少し罪悪感を持って……
いや無理だな。
ズル休みが一番楽しいんだから。
……とにかく、こうして俺達は出支度を整えていった。
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