四十一話 今度こそ!少女の洗礼!
簡単なあらすじ『さようなら、アートード(親)』
俺がアートード親子に与えていた部屋の扉を開けると、子は既に起きていた。
しかし、今日の子は俺が入って来たにも関わらず、窓の外を見つめたまま動こうとしなかった。
もしかするとコイツも、俺より早く起きていたのかもしれない。
そして今、コイツは親との愛別離苦を乗り越えようとしているのだろう……これだけは間違いないはずだ。
「よく頑張ったな……さあ、皆を起こしてご飯にしよう。
大丈夫、お前の親がそうしてきたように、今度は俺達がずっとお前の側にいるからな……今までも、これからも。
お前は俺達にとって、大切な家族の一員なんだから……」
俺はアートード(子)の頭を撫で、出来るだけ優しく、それでいて包み込むようにそう言った。
まるで、本当の我が子に接するかのように……
朝食の後、俺はアートード(親)がこの家を去った事を皆に報告した。
「えぇー!?この子の親、いなくなっちゃったんですか!?」
これはコルリスの反応である。
まあ、彼女とも結構な時間を共にしてきたワケで、そうなるのは当然……ではあるが。
親があの時あの時間を選んだ事から考え、俺は「まあまあ、ここはアイツの気持ちを汲んであげようよ」とコルリスに言い、何とか彼女を宥めた。
「そう、行ってしまったのね……でも、この子だけ残していなくなったって事は、そう言う事なのよね?クボタさん」
一方、ジェリアの反応はこのようなものであった。
口調は冷静そのものだが、その横顔はやや切なそうである。彼女も子と、そしてその親に親しみのようなものを感じていたのだろう。
まあ、何を言おうといなくなってしまったものは仕方がない。そう思った俺は話題を変えるため……いや、本題に入るために、ジェリアの質問にこう答えた。
「多分……いや間違いなく、そうだと思う。だからコイツもきっと、その意味を理解しているはずさ」
「ん?……二人とも、何の話ですか?」
コルリスは俺達の会話の意味がよく分からず、首を傾げてそう言う。
もう話しても良いだろう……
俺はコルリスに向けて口を開いた。
「コルリスちゃん。よく聞いて欲しいんだ。
親がいなくなったのは、多分、俺が〝ある話〟をしたからなんだ。
『この子を、君の魔物にしたい』ってね」
「えっ……」
コルリスは驚き、目をぱちくりとさせている。
「そしたら親はこの子を残して朝、いなくなった。これがどう言う事か、分かるよね?」
「それって、つまり……」
「そうだよ。親子は許可してくれたんだ。
この子を君の魔物にするって事を。
それで、〝新しい親〟がいるのに安心して、傷が完治していた親のアートードは一匹でここを去った……んだと思う。
なあ、そうなんだろう?」
コルリスにそう言った後、続けてテーブルの下にいた子にそう問いかけると。
子はコルリスの方を向き、『ぴきー』と一つ、高めの鳴き声をあげた。
「おお……久し振りに鳴いたな」
「へえ、私は初めて聞いたわ」
嫌がる事もなく(多分)、珍しい反応をした……その意味を理解しつつも、俺とジェリアがそんなリアクションをしていると。
コルリスの頬を不意に一筋の涙が流れた。
それを見た俺とジェリアの顔には自然と微笑みが浮かぶ。
そうして微笑みながら、俺は彼女にこう言った。
「コルリスちゃん。
遅くなってごめんね。
でも、やっと見つけたんだ。
この子こそが、俺が君のために選んだ『君の魔物』だよ。
喜んでくれたかな?
それと、この子はもう、君を気に入っているみたいだけど、君の方はどう……」
それ以上、俺は言えなかった。
感極まったコルリスが俺、そして子へと向けて突撃し、そのまま俺達を離さず泣き出したからだ。
子はコルリスを主人と認めるか……はもう明確だったので、彼女は自室にて子の名前を考えまくっている。
その間に俺はいつも通り魔物達と練習する事にしたのだが、ジェリアがミドルスライムとチビちゃんも参加させたいと言うので本日は結構な人数、もとい匹数での練習となった。
「まずは準備体操からやろうか!」
そうして俺が魔物ズにそう言い、各々俺が教えた柔軟、ストレッチ等で体をほぐし始めた時……
アルワヒネがまた、あの時のように俺の服をくいくいと引っ張った。
「ん?どうかし……あっ」
もしかして、昨日の続きがやりたいのだろうか。
弱過ぎる俺と俺の魔物達を鍛える、というのを。
アルワヒネはまたニヤリと笑い、挑発するかのように小さなおててを『かかって来い』とでも言いたげに動かす。まあ分かってはいたが、予想は当たっていたのだ。
今は満腹なので、食事の話だけではもう誤魔化せないだろう。
となればやはり、戦うしかないか。
やっぱり強いのかな?アイツらは怪我させたりしないかな?大丈夫かな?
この子と戦う前の俺はそのような事ばかり考えていた。
それが無用な心配だとも知らずに。