三十八話 少女の洗礼……洗礼!?
簡単なあらすじ『アルワヒネ、コルリスに向けてとことこと』
俺達の憂い、悩み。
そこから逃れるようにして、アルワヒネがすたこらさっさとコルリスへと向けて走り出してしまったため。
俺とジェリアとスライム達は一度全てを放り出し、彼女の後を追わねばならなくなった。
まあ……ある程度考えは纏まってはいたのだし、もう何でも良いか。
そう思った俺はただひたすらに彼女を追い駆けた。
アルワヒネはやたらと足が速かった。
ちっこいからすぐ追い付くかと思いきや、後方にいる俺達との距離はどんどんと広がり続けている。
「あの子、すげー速いな」
「クボタさん……私もうダメ……」
「またか……まあ家帰ってるだけなんだし、ゆっくりでもいっか」
と、言う事に気が付いた俺達は速度を落とす。
そうしてアルワヒネただ一匹が、先にコルリスの元へと辿り着いた。
「わぁ!?
あ、貴女はだあれ?
……よしよし。
いい子だねぇ~、どこから来たの~?」
突然飛びついて来たアルワヒネに驚きつつも、コルリスはその可愛さに速攻でやられてしまったようだ。
いきなり好感触。
アルワヒネの文字通り体を張ったコミュニケーション、その大胆さと威力には、俺まで驚かされた……
一方で、アートード(子)はご主人様(未来の)の注目を奪われて少し、不満そうに見えるが。
とにかく、これはもしかすると……もしかするかもしれない。
「あっ!クボタさん!それにジェリアちゃんも!じゃあこの子は二人が連れて来たんですか?」
それから暫くすると、やっとコルリスは俺達の存在に気が付いてくれた。
と、いうワケでこちらも彼女に返事をする。
「うん。ちょっと色々あってね……」
「ええ、色々とね……」
とか言いつつ、二人で顔を見合わせていると、コルリスは頬をぷくっと膨らませ、それをこちらに見せつけるようにして話し始めた。
「何ですか色々って。
もしかしてまた私を除け者にして……
いや、絶対そうですよね。
だってクボタさん、野菜買って来るだけみたいな書き置きしてたのに、プチ男君達も、ジェリアちゃんも連れて行ってるんですもんね……
うぅ……どうせ私なんて……」
しまった。無駄な動きをしたせいで彼女にいらぬ想像をさせてしまったらしい。
「いやいやいやいや!違うんだって!これはコルリスちゃんのためで……あ……」
「ちょ!ちょっとクボタさん!」
ジェリアが口を滑らせた俺を制止したが……
「え?どう言う事ですか?」
コルリスはそう言った。
やっぱり、もう遅いよね。
もう言い訳をしても仕方がないと思った俺は、コルリスにこうなった事の次第全てを話した。
するとコルリスは、自身の隠していた思いを知られてしまっていた事に赤面し、また泣きそうになってしまったが。
最後まで俺の話を聞き終えると、漸くいつもの笑顔を見せてくれた。
良かった。ジェリアの言う通り、コルリスは俺が自身のために動いていたという事実だけで喜んでくれる心優しい娘だった。
やはり俺は何の心配も、焦る必要もなかったのだ。
「うぅ……クボタさ~ん」
……でもまた泣き始めたコルリスは今、俺にしがみ付いて顔と共に、俺の腹部までもを濡らしている。
彼女の側にはスライム軍団とアートード(子)、そしてアルワヒネまでもがいつしか集まり、彼女を元気付けようと思っているのだろうがどうしたらいいのか分からないようで、皆ソワソワとしていた。
しかし、その思いだけは彼女へと充分に伝わっていた。
俺の腹の辺りで涙を拭きながらも、何とか手を動かして取り巻き達を撫で撫でしているのだから、それだけは大変良く分かる。
……一応言っておくが、俺だって宥めてはいるんだぞ?コルリスをほったらかしているワケではないんだからな?
そう、何度も宥めたが、今回はあまり効き目がなかったのだ……まあ、悲しいのではなく嬉しくて泣いているのだから、そっとしておいても問題はないだろう。
多分、明日の家事当番は俺になりそうだ。
彼女はこの後、暫くは腫れぼったい目をしているだろうからな。
いや、もうこの際だから、半居候化しているジェリアにも手伝わせようか……
「ほら、泣かないでコルリス。少し休憩してから一緒に晩御飯を作りましょう」
そんなジェリアはと言うと、この状態のコルリスを台所へと誘導しようとしている……
それは可哀想だろう、俺が手伝ってやるから今回はそれで我慢して欲しい。
「いやいやジェリアちゃん。今日は俺と君で作ろうよ……
ってワケだからさコルリスちゃん、もう泣かないで、家に戻ろう?ね?
晩御飯が出来るまで休んでて良いからさ」
俺はジェリアの提案を却下しつつ、コルリスへとそう言った。
「はい……あの、クボタさん。それとジェリアちゃんも、今日は私のために……本当にありがとうございます」
その後暫くしてから、コルリスは涙を拭き拭き、自身の言葉を噛み締めるかのようにゆっくりとそう言うと、またニッコリと笑った。
……そう言えば、彼女がこんな風に、太陽のような笑顔を見せてくれたのはいつ振りだろうか。
随分と久しく見ていないような気がする。
まあ、実際はそこまででもないのだろうが……そう思わせる程に彼女の笑顔は俺にも、この家にも必要不可欠なものだったんだろう。
コルリスはこうでなければ……
俺は改めてそう感じると共に、これからも彼女を愛し、見守り続けていこう。
そして絶対に……は、彼女の涙腺的に難しいかもしれないから、なるべく泣かせないようにしよう。
そして、一人前の魔物使いにさせてやるんだ。
と、心に誓った。
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